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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
191/300

191.これ以上体が作り替わるのは、止して欲しい。

これ以上体が作り替わるのは、止して欲しい。

胸に突き刺さった妖の腕、そこから流れてくるのは何かの"感覚"。


「いひひ…絵描きちゃん、沙月、あの鬼と同じ!強いけど、単純!単細胞!」


目を見開いて苦しみ藻掻く私を見て、妖が歓喜する。

私は目を血走らせながら、流れ込んできた"感覚"に抗おうとするが、抵抗も抵抗にならないうちに、その"感覚"は私の片隅にしっかりと根を張った。


「私に、なにを…した?」


2人に馬乗りにされた私は、苦しみ紛れに尋ねたが…これがなんなのかは、"感覚"で分かっている。


「絵描きさん、知ってる癖に聞いちゃダメっすよ」

「いひひ…ひひひ…あの鬼も、これに苦しんだ…目的と引き換え…ひひひ、ひひひひ!!」


私を見下ろし、歓喜の声を上げる2人。


「さぁ、ここを出れば管轄から外れるっすよね?」

「いひひ…ひひひ…そう、だね。長居は、危険」


そう言って、懐から取り出したのは、どこから持ち出したのだろうか?釘抜が付いた金槌。

釘抜の先端が私の方に向けられると、2人は躊躇なくそれを振り落とした。


「ガッ…!」


恐怖で気を失いそうな男の子の前で、私の顔は一瞬のうちに崩壊する。

鈍い痛み、それが繰り返し頭に突き刺さり、私の視界は一瞬で闇に沈んだ。


「こ…の…」

「丈夫っすねぇ…流石は妖」

「ひひ…死にはしない…けど、足止めになる…」


無抵抗になった私の顔を滅多打ちにしてくる2人。

視界は無くなり、最早顔の原型は留めていないのではないだろうか?

私は徐々に遠くなっていく意識と感覚に抗いながら、ゆっくりと手先を動かし、ジャージのポケットに手を入れた。


「そろそろ止めます?」

「いひひ!まだまだ!脳みそ、ぶちまけてやれ!あの時の、渠波根ちゃんより、酷い状態にしてやる!」


滅多打ちにされすぎて、最早痛覚すら感じない。

それでも、体が揺さぶられるのを感じられるだけの感覚は残っていた。


「いひひ…そろそろ、これくらいで」

「うはぁ…可愛い顔が台無しだ」

「いひひ…渠波根ちゃんの仇…殺してやりたいけど、カフカ達に、その力、無い」


振動が収まった後、私の体はピクピクと変に跳ねる。

鼓動に合わせて、顔の辺りから血でも吹いているのだろうか?

そんなことは最早、どうでもいい…


「さ、逃げましょ」

「いひひ…そうだね」

「じゃ、絵描きさん。そこの君も、お先っす!」


私の上から退いた2人。

殴られている最中、こっそりとポケットに手を入れていた私は、体が軽くなった瞬間、指先に念を込めた。


「え゛っ!?」


念を込めて出来上がったのは、周囲を真っ暗闇に変えてしまう程の妖気。

掠れた感覚で込めた最大限の力…それが呪符に伝わった瞬間、私の頭は"再構成"されて元に戻り、辺りを包んだ暗闇の中で薄笑いを浮かべる。


「そっか、そっか。あの手品は用意してないのか…」


パッと立ち上がって見下ろすと、眼下には気を失った男の子。

クルリと振り返れば、こちらを見て恐怖に顔を染め上げた2人の女。


「どうした?逃げないの?」


ガタガタと震えて足を止めた2人の方へ、私はゆっくりとにじり寄る。

そう聞いたものの、逃げられる訳が無い。

既に、死体の"制御"には、私が絡んでいるのだから。


「嘘…そんな…どうして…」

「これで死人が出ても、"生き返らせる"事が出来る…"操れる"…あぁ、最悪な気分だ」


そう言って私は口内に溜まっていた血を吐き出す。

真っ暗闇の空間、どす黒い血が私の足元を汚した。


「とりあえず、弾けな」


気だるげに2人の方へ向き直った私は、掴んでいた呪符からパッと手を放す。


「いひ!?」

「ひっ…!」


2人の悲鳴が聞こえた刹那、大爆発。

教室中を激しい爆風が吹きすさび、ガラス窓が全て砕け散った。


「あ、忘れてた。…ま、セーフだ、セーフ。ちょっち煤けただけさ」


私の下へ吹き飛んでくる2人を見下ろして、背後にいた男の子の方を思い出して振り返る。

煤けて床に転がっていたが、とりあえず外傷は無さそうだ。


「ま、どうでもいっか。とりあえず…」


足元に転がって来た2人の女に向き直り、死体女の方を右腕で突き刺すと、体内でギュッと死肉を握りしめて持ち上げる。


「ぁっ!…たっ…!」

「あの男もそうだが、死体でも痛覚とかあるんだな」

「このっ…化け物!」

「防人なんて、所詮中途半端な人モドキ。化け物だなんて、とうに自覚してるっての」


死体の叫びを笑顔で受け流した私は、フリーになったもう一方の手で彼女の首を刎ねる。

悲鳴も上がらず"再び"死んだ死体…私は彼女を虹色の光で包み込んで"宝石"に変えると、その石を適当な所に放り投げた。


「さて…次はお前だ」


死体だったものが、愛人だった妖の横を転がっていく。

妖は何も言葉を発せず、絶望の色に染め上げた顔をこちらに向けた。


「私はな、"素の甘ったるい私と違って"何処かへ隠すような真似はしない。お前は、どんな色の石に変わるだろうな?男は緋色の宝石に、愛人女は碧く輝く宝石だったぜ」


そう言って、ゆらりと体を揺らして足を一歩踏み出す。

その刹那、パッと立ち上がった妖は、私に背を向けた。


「おっと逃がすか…」


逃げ始めた女の背中を追いかけて、爪を一突き。

人間のものと違う、オレンジ色の血飛沫が前方に飛び散り、妖は苦悶の悲鳴を上げる。


「赤、青と来たら…次は黄色が良いな。いや、血の色と同じオレンジか?」


表情が見えない中、背中越しにそう言うと、一旦右腕を引き抜いて…

間髪入れず、左腕を斜め下から上へと薙ぎ払う。


「さて…」


真っ二つに切り裂かれた妖を真っ黄色な宝石に変えた私は、静寂を取り戻し、嵐の後の様な教室に1人、立ち尽くした。


「どーすっかな」



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