190.雑魚狩りも、たまには面白い。
雑魚狩りも、たまに面白い。
廊下を低空飛行したその先、大柄な黒人男が弱々しい顔を私に向けていた。
「言ったよな、そこの黒いの。"帰れなくなる"って」
目玉が飛び出さんとばかりに目を剥いた男。
私の右腕には、生暖かい血肉の感触。
愉悦に浸る私の顔は、男の表情をしっかりと捉えていた。
勢いそのままに、男の腹を爪で一突き…
手首まで入り込んだ手を、男の体内でギュッと握りしめる。
男諸共、数メートル"床を滑って"止まると、虫の息となった男は、弱々しく何かを喚き始めた。
「だから、通じないんだって。英語。前期の通知表で2だぞ?」
男にそう言った私は、男の体内にめり込んだ右手の先に念を込める。
「…!…!…!…!!!」
「あ?regret?sorry?…今更後悔しても遅いさ。あとな、オッサン」
あっという間に真っ黒な靄に染まった私の周囲。
その靄と同化してしまう人種の男は、血の気が引いた顔を浮かべてもがき始めるが、最早私に対抗できるだけの力は一切持ち合わせていなかった。
「妖言葉なら、タショウ、シャベレルンダ。ドウダ?…コッチノホウガ、ヨカッタカ?」
嘲る笑みを向けて一言。
右手に纏わせた靄は更に深みを増して、ついに男の姿は靄に消える。
「ま、最期にこの姿が見れたんだ。良かったじゃないか、希望が叶って」
そう言うと、男の腹部で握りしめられていた手の平をパッと開いた。
「Good Night!長く終わりのない、良い夢を」
刹那、爆散。
私諸共弾け飛び、男は木端微塵に散らばった。
「ふぅー…血やら何やらで人臭くてダメだなぁ…参った」
一瞬で体を"再構成"した私は、多少返り血が付いたままの体を見回してポツリと呟く。
着ていたジャージはボロボロになってしまっていたが、まぁ、まだ衣服としての仕事はしてくれていた。
そっちについた返り血やらはどうしようもなく、むせ返る様な血の匂いが鼻をつんざいているが…それは仕方がない。
「水でも浴びるか…」
黒人男の残骸を廊下に置いて足を進める。
何処に行けば良いかは相変わらず分からないが…
適当に練り歩いていれば、そのうち何かが起きるだろう。
「おっと…」
通りがかりにあった理科室の扉を蹴破って中に入り、テーブルに備え付けられた水道の水を出して、適当に体中に浴びせてこびり付いた血肉を落とす。
代わりにずぶ濡れになったが…体を震わせて水を払うと気にならなくなった。
「さぁて…残り2人。ボーヤ2人を入れて、2と2で4人か。イケっかな…どうだろな…」
ある程度サッパリした私は、少々晴れやかになった気持ちを表情で隠すことなく、鼻歌混じりに理科室を後にすると、黒人が姿を見せた方へと歩いていく。
廊下を突き当たりまで行けば、右に階段、左は広い空き教室。
一旦左に進路を取り、静まり返った空き教室を覗き、誰もいない事を確認すると、階段の方へ進路をとった。
「あーあー、早い所見っけないと、時間切れになっちまう」
階段を降りながら独り言。
2階に降りた私の視界に映ったのは、誰もいない廊下。
真っ直ぐ行けば、3階と同じ構造の空き教室…
左に行けば、なんだったっけ、まぁ、良いか。
ゆっくりと廊下を歩き、空き教室を覗き込んでみる。
人影は見えなかったが、中から妙な気配を感じ取れた。
静寂の中に、僅かに呼吸音が聞こえる…そんな感じ。
目を細めた私は、掴むのも億劫になる形をした丸いドアノブを見て顔を歪めると、扉を思いっきり蹴破った。
「あーあー、これだから丸ノブはダメなのさ。開け辛くってしょうがね…」
今日3枚目の扉破壊。
ゆっくり教室に入って中を見回すと、思った通り中に1人、人が居た。
「おっと…あの死体風情は、一緒じゃないのか?」
私と同じ意匠のジャージに身を包んだ男の子。
私は腰を抜かした彼を見下ろしてニヤリと笑うと、ゆっくりと彼の方へ近づいていく。
「好奇心は猫をも殺す。世の中、知らねぇ事が良い方があるって、ようく分かったろ?なぁ?ボーヤ」
震えて何も口を聞けない彼に、ワザと怖がらせるような言葉を吐く私。
彼と一緒に居た死体の姿が見当たらないが、彼に聞けば何か分かるだろうか。
「この格好見られちゃ、生かしておけないよな…さぞ、若い男の肉は美味いだろうさ」
ヒュッと腕を振るうと、体毛の中に残っていた水滴が飛び散った。
鋭い爪が風切り音を出し、バサっと翼を広げて見せると、その度に彼は情けない悲鳴を上げて後退る。
その顔、その態度…正直、凄く愉しい…ゾクゾクする。
彼の気持ちを嬲る様な仕草を見せて近づいていくが、何かが起こる気配もない。
「さてさて、冗談はこの辺にして…一緒に居た女は何処にいる?」
目の前まで近づいた私は、ヒュッと右腕の爪先を彼の首筋に突きつけて尋ねた。
僅かに残った血が彼の顔とジャージを汚す。
私の問いに、彼は何かを答えようと口を開いたが、上手く声が出せないらしい。
「声も出せないなら、喉仏、要らないんじゃない?」
「ぁ…ま…待って!」
「ようやく、声が出てきたな」
「ぁ…あ…その…!」
彼が何かを伝えようとした刹那。
「ん?」
不意に、頭上から埃が降って来た。
「いひひひひひ!!…絵描きちゃん、随分、変わったね!」
埃と共に降って来たのは、2つの人影。
パッと振り向いて爪を振るっても、間に合わない。
「ぐぅ!…」
降って来た2人に押しつぶされた私は、おかしな姿勢で床に沈む。
グキッと、何か所かの骨が折れた音が体を貫き、私は一瞬で全身の感覚を失った。
「ひひひ…絵描きちゃん、いいよ、いいよ、それでこそ!防人だよぉ…」
「そっすねぇ。こうも"妖"そのものな防人は、早々いないっす」
私にのしかかった2人。狂った笑みを私に向けた"死体術師"は、何かを宿した右手を、躊躇することなく私の胸に突き刺した。
「いひひ…ひひひ…これで、復讐完了!…苦しめ…永遠に…苦しめぇぇぇぇ!」
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