188.こんなにも隠れたい気持ちになったのは、これが初めてだ。
こんなにも隠れたい気持ちになったのは、これが初めてだ。
全身から発する痛みに顔を歪めていると、渠波根の拳が私の顎を打ち抜いた。
「ぁぐ!…」
クリーンヒット。
背中から廊下に倒れた私にのしかかった渠波根は、私の頭を掴みながらも、千羽君の方に目を向ける。
「丁度良いっすねぇ…そこの君!言う事も聞かない不良学生さん!ちょっとサプライズがあっても良いでしょ?」
そう言いながら頭のウィッグを掴むと、強引にそれを引き抜いた。
「え?…」
「人には言えない秘密があるっすからねぇ…この髪じゃ、目立ってしょうがないっすよ」
手にしたウィッグを放り投げた渠波根は、痛みに悶える私に嘲る視線を向けて笑うと、呆然と立ち竦む千羽君に手を伸ばす。
「絵描きさん、ちょっと、この子預からせてもらうっすよ。…さ、お姉さんと遊びましょ?もっと面白いもの見せてやるっすから」
「え?ちょっ!やめ…!」
「黙ってついてこないと、殺すよ?良いんすか?自分の意思で動けなくなっても!」
動けない私を他所に、千羽君を連れ去って校内へ消えていく渠波根。
千羽君を連れ去って1階の廊下を走って行った。
残された私。
強引に手渡された呪符…中途半端に流した念のせいで、手に引っ付いて剥がれない。
中途半端に効力が出てきて、途方もない妖力が私の体を蝕んでいく。
「ぁ…が…が…っ」
体を捩って、立ち上がろうとするが立ち上がれない。
無様に廊下に転がり、隅に這いずって、壁に背を預けるのが精一杯。
熱くなっていく体、締め付けられる様に痛む心臓…そして、思考が歪んでいく。
「や…だ……っ」
ここに、後少しで正臣が来てしまう。
それは、非常に不味い…このままでは、"正臣の身が危ない"。
「ぁあ…」
手に張り付いた呪符は、徐々に私の中の"人間味"を吸い取っていく。
体が作り替わっていく感覚…それは鋭い痛みであり、鈍い痛みであり…そして熱さだ。
頭の中で何かが"カチッと切り替わる度、目の前の景色が変わっていった。
段々と体が軽くなっていく、手足が変わっていく、頭が変わっていく…
遂に、視界に大きな翼の影が見えてくる。
「ぁ…っ…!!!」
足の変化によって上履きが"破裂"し、ジャージの袖が簡単に破れた。
痛みに歯を食いしばれば、犬歯が唇を切り裂いて血が流れてくる。
短パンから出た足は猛禽類のそれに様変わりし、肘から先は獣と人の混ざり物に…
この様子じゃ、鬼沙と戦った時の私そのものになってしまったのだろうな…
「!!」
変化の最後、電撃に撃たれたような痛みが全身を貫き、ビクン!と背中を逸らせた私の意識は、一瞬で何処かへ消えていった。
・
・
ピクっと手先を動かした。
背中から感じる硬さにイラっときた。
上半身を起こすと、勝手に動いた翼が視界を覆った。
「あぁ~……なんだこれ」
どうやら、私は少しの間気絶していたらしい。
周囲を見回して立ち上がると、そこは学校の隅…暗い廊下の隅。
「参ったな…なんだって、手間かけさせやがって…」
気怠さが残る頭を動かして辺りを見回し、目に付いた手近な扉を蹴破って中に押し入った。
「あー、大して時間経ってないのか」
蹴破った扉の先は、何かの準備室だろうか。
掛かっていた時計は11時13分を指している。
記憶にある光景で、最後に見た時刻は11時。
そこからの出来事を頭に思い浮かべると、最後に見えた光景は、嘲る顔で私を見つめる死体の女。
あぁ、無性に腹が立ってきた。
「死体と遊んでも、なんも楽しくねぇな…」
ポツリと呟き、廊下に戻る。
どうやら、私と"遊びたい"アホは、まだこの中にいるらしい。
「退屈しのぎにはなるか…」
カチャカチャと、歩くたびに廊下の床が爪と擦れて音を立てた。
飛んで回れればどれほど良いか…動きづらくてしょうがない。
近場の階段に差し掛かった私は、ようやく"翼を羽ばたかせて"一気に4階まで上がった。
「さて…手掛かりから探ってくか…」
記憶を除けば、さっきこの辺で"もう一匹の死体"が滅多打ちにされていたはずだ。
記憶にある部屋…美術室へ向かって、閉じられた扉を蹴破ると、中で大の字に突っ伏していた男が目を開けた。
「ん…」
木の棒が傍に投げ捨てられた様…
首筋に出来た痣を見る限り、一瞬で意識を刈り取られたらしい。
私は反応を見せた"死体"を見下ろしてニヤリと笑うと、ゆっくりと近づいて行った。
「死体とはいえ、気絶するんだな」
「なんだ…お前…ま、まさか…いりか…さ…」
意識を取り戻し、朦朧としてこちらを向いた男。
私の姿を見止めて驚愕に顔を染めた刹那、私は、男の胸元に腕を突き刺した。
「あがっ!…」
鋭く伸びた爪先に感じる人体の感触。
それを感じて"空腹"を覚えたが、死肉を食らうのは勘弁したい。
「騒ぐなや、死んでんだろ?術師が近くにいりゃ、何度殺そうが死なないさ」
驚きと絶望に染まった顔。
私はニヤリとした悪い笑みを向けたままそう告げると、ヒュッと男を宙に放り捨て…右腕を一閃。
血飛沫と共に舞った男は、胴体からスパッと真っ二つに切り裂かれた。
「串焼きにしたって不味いだろうな。中年男の死肉何て、ソース付けても食えないや」
宙に浮いた男の上半身…それを左腕で突き刺して、私と男は同じ目線に並ぶ。
「どうだ?死んでも死なないのは。怖くないだろ?なっちまえば、心地いだろう?」
恐怖で何もしゃべれなくなった男に、私はグイっと顔を近づけると、舌をチロリと出して見せた。
「質問に答えてもらおうか。こうなってもテメェ一匹如き、秒で消せるんだぜ?」
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