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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
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188.こんなにも隠れたい気持ちになったのは、これが初めてだ。

こんなにも隠れたい気持ちになったのは、これが初めてだ。

全身から発する痛みに顔を歪めていると、渠波根の拳が私の顎を打ち抜いた。


「ぁぐ!…」


クリーンヒット。

背中から廊下に倒れた私にのしかかった渠波根は、私の頭を掴みながらも、千羽君の方に目を向ける。


「丁度良いっすねぇ…そこの君!言う事も聞かない不良学生さん!ちょっとサプライズがあっても良いでしょ?」


そう言いながら頭のウィッグを掴むと、強引にそれを引き抜いた。


「え?…」

「人には言えない秘密があるっすからねぇ…この髪じゃ、目立ってしょうがないっすよ」


手にしたウィッグを放り投げた渠波根は、痛みに悶える私に嘲る視線を向けて笑うと、呆然と立ち竦む千羽君に手を伸ばす。


「絵描きさん、ちょっと、この子預からせてもらうっすよ。…さ、お姉さんと遊びましょ?もっと面白いもの見せてやるっすから」

「え?ちょっ!やめ…!」

「黙ってついてこないと、殺すよ?良いんすか?自分の意思で動けなくなっても!」


動けない私を他所に、千羽君を連れ去って校内へ消えていく渠波根。

千羽君を連れ去って1階の廊下を走って行った。


残された私。

強引に手渡された呪符…中途半端に流した念のせいで、手に引っ付いて剥がれない。

中途半端に効力が出てきて、途方もない妖力が私の体を蝕んでいく。


「ぁ…が…が…っ」


体を捩って、立ち上がろうとするが立ち上がれない。

無様に廊下に転がり、隅に這いずって、壁に背を預けるのが精一杯。

熱くなっていく体、締め付けられる様に痛む心臓…そして、思考が歪んでいく。


「や…だ……っ」


ここに、後少しで正臣が来てしまう。

それは、非常に不味い…このままでは、"正臣の身が危ない"。


「ぁあ…」


手に張り付いた呪符は、徐々に私の中の"人間味"を吸い取っていく。

体が作り替わっていく感覚…それは鋭い痛みであり、鈍い痛みであり…そして熱さだ。

頭の中で何かが"カチッと切り替わる度、目の前の景色が変わっていった。

段々と体が軽くなっていく、手足が変わっていく、頭が変わっていく…

遂に、視界に大きな翼の影が見えてくる。


「ぁ…っ…!!!」


足の変化によって上履きが"破裂"し、ジャージの袖が簡単に破れた。

痛みに歯を食いしばれば、犬歯が唇を切り裂いて血が流れてくる。

短パンから出た足は猛禽類のそれに様変わりし、肘から先は獣と人の混ざり物に…

この様子じゃ、鬼沙と戦った時の私そのものになってしまったのだろうな…


「!!」


変化の最後、電撃に撃たれたような痛みが全身を貫き、ビクン!と背中を逸らせた私の意識は、一瞬で何処かへ消えていった。


 ・

 ・


ピクっと手先を動かした。

背中から感じる硬さにイラっときた。

上半身を起こすと、勝手に動いた翼が視界を覆った。


「あぁ~……なんだこれ」


どうやら、私は少しの間気絶していたらしい。

周囲を見回して立ち上がると、そこは学校の隅…暗い廊下の隅。


「参ったな…なんだって、手間かけさせやがって…」


気怠さが残る頭を動かして辺りを見回し、目に付いた手近な扉を蹴破って中に押し入った。


「あー、大して時間経ってないのか」


蹴破った扉の先は、何かの準備室だろうか。

掛かっていた時計は11時13分を指している。

記憶にある光景で、最後に見た時刻は11時。

そこからの出来事を頭に思い浮かべると、最後に見えた光景は、嘲る顔で私を見つめる死体の女。


あぁ、無性に腹が立ってきた。


「死体と遊んでも、なんも楽しくねぇな…」


ポツリと呟き、廊下に戻る。

どうやら、私と"遊びたい"アホは、まだこの中にいるらしい。


「退屈しのぎにはなるか…」


カチャカチャと、歩くたびに廊下の床が爪と擦れて音を立てた。

飛んで回れればどれほど良いか…動きづらくてしょうがない。

近場の階段に差し掛かった私は、ようやく"翼を羽ばたかせて"一気に4階まで上がった。


「さて…手掛かりから探ってくか…」


記憶を除けば、さっきこの辺で"もう一匹の死体"が滅多打ちにされていたはずだ。

記憶にある部屋…美術室へ向かって、閉じられた扉を蹴破ると、中で大の字に突っ伏していた男が目を開けた。


「ん…」


木の棒が傍に投げ捨てられた様…

首筋に出来た痣を見る限り、一瞬で意識を刈り取られたらしい。

私は反応を見せた"死体"を見下ろしてニヤリと笑うと、ゆっくりと近づいて行った。


「死体とはいえ、気絶するんだな」

「なんだ…お前…ま、まさか…いりか…さ…」


意識を取り戻し、朦朧としてこちらを向いた男。

私の姿を見止めて驚愕に顔を染めた刹那、私は、男の胸元に腕を突き刺した。


「あがっ!…」


鋭く伸びた爪先に感じる人体の感触。

それを感じて"空腹"を覚えたが、死肉を食らうのは勘弁したい。


「騒ぐなや、死んでんだろ?術師が近くにいりゃ、何度殺そうが死なないさ」


驚きと絶望に染まった顔。

私はニヤリとした悪い笑みを向けたままそう告げると、ヒュッと男を宙に放り捨て…右腕を一閃。


血飛沫と共に舞った男は、胴体からスパッと真っ二つに切り裂かれた。


「串焼きにしたって不味いだろうな。中年男の死肉何て、ソース付けても食えないや」


宙に浮いた男の上半身…それを左腕で突き刺して、私と男は同じ目線に並ぶ。


「どうだ?死んでも死なないのは。怖くないだろ?なっちまえば、心地いだろう?」


恐怖で何もしゃべれなくなった男に、私はグイっと顔を近づけると、舌をチロリと出して見せた。


「質問に答えてもらおうか。こうなってもテメェ一匹如き、秒で消せるんだぜ?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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