187.おかしな状況で出会えば、誰だって覚えているものだ。
おかしな状況で出会えば、誰だって覚えているものだ。
例えばこの間、表の姿で助けた男の子なんかは、素の姿の私を暫く忘れないだろう。
そして、そういった"偶然"は、意図せず続いてしまうもの…何度も繰り返していれば、何れ、誤魔化し続けるのが難しくなる。
「そこだ」
「だな。この声、真北先生?」
「見回りかな?」
「沙月、ちょっと俺に任せてくれるか?」
怒声の元へ向かった私達、声は暫く聞こえていたから、場所を特定することは簡単だった。
声の主も…私は誰か分からなかったが、正臣が良く聞いていた声だったのが幸いした。
現場はさっき私達が隠れていた美術室…私は正臣に先を任せ、何があっても良い様に呪符に軽く念を込める。
「真北先生、どうしたんですか!?」
正臣が扉を開けて、そう言いながら中に入っていく。
それに続く私、中には、竹刀を手にした真北先生と、見覚えのある男の子が居た。
「千羽?」「千羽君…?」
それは、余りにも不思議な光景。
これまでの流れからも、この光景は全く想像できなかった…いや、出来る訳が無い。
私達はその光景を見て首を傾げたが、それは千羽君にとっても同じで、私達と全く同じ顔を浮かべて目を見合わせる。
「あ?正臣と…誰だ?」
だが、唯一"そうじゃない"存在がいた。
どんな罪で千羽君を責め立ててたかは知らないが、真北先生はイライラした様子でこちらに詰め寄ってくる。
明らかに様子がおかしいが…やはり、漂ってくる雰囲気も変だ。
「え…入舸沙月ですが」
「入舸…?お前が入舸沙月か!?」
私の名前を聞いた途端、ピクッと反応を見せる先生。
怒鳴りつけていたはずの千羽君からアッサリ興味を失い、こちらへにじり寄って来た。
「先生、どうしたんですか!その…俺らがここに居るのもおかしいですけど!先生もおかしいですよ!」
正臣が間に入ってくれる。
真北先生は正臣をジロリと睨むと、躊躇することなく手にした竹刀を振るってきた。
「うぉ!」
間一髪、風邪きり音を鳴らして振られた竹刀を躱し、正臣は私の元へと下がってくる。
護られる構図…私は彼の肩に手を載せると、彼を引っ張って真北から距離を取った。
「千羽君が危ない」
「分かってる。そっち頼めるか?」
「どうする気?」
「こうするさ」
様子がおかしい先生を前にして、困惑しつつも目の前の事に手一杯な私達。
正臣は近場にあった画材の中から、額縁の足として使う予定だった木の棒を手にすると、それを竹刀代わりにして真北の方へと突きつけた。
「先生、俺から一本も取った事が無いんだ。時間のちょっとやそっと、稼いでやる」
「…任せた」
短いやり取り。
ポンと叩くと私と正臣は動き始める。
「待て!入舸!」
「相手は俺だ!」
私の方を追いかけた真北。
その前に正臣が立ち塞がると、激しい打ち合いの音が聞こえた。
「千羽君、大丈夫?何があったの?」
その隙に千羽君の下へ行って彼の手を引き、真北から距離を取る。
「分からない…ただ、急に皆の様子が変になったと思ってここに…誰もいないから」
「なるほど。どんな様子さ?」
「こう…なんか、操られてる?様な」
「はぁ、それで、ここに来たってわけ」
「うん…外に出ても、どうすればいいか分からなかったから…」
「…したらアレが来たと?」
「そう。真北先生、イイ人だったんだけど…」
「知り合いなの?」
「まぁ、ちょっと。課外活動で知り合ってて」
「へぇ…そう。でもまぁ、運が悪かったって訳だ。さっきまでは」
正臣と真北の一騎打ちから距離を取りつつ、私は美術室の扉の方へと千羽君を連れて行く。
今なら、外に出て、穂花達と同じ経路で彼を逃がせるだろうか…?
私達の目の前で、正臣は凄まじい勢いで真北を滅多打ちに打ち込んでいた。
「沙月!逃がせるなら千羽を逃がせ!」
「分かった!」
「この雑魚片付けたら追っかけるから!」
チラリとこちらを見やった正臣。
私はこの場を正臣に任せて千羽君の手を引いて美術室の扉を開けると、周囲を見回してから、さっきと同じ道を辿り始める。
「強いなぁ…流石は正臣だ」
「……2人はどうしてここに?」
「そっちと似た様なもんさ」
「でも、何か知ってるんでしょ?」
「まさか。戸惑いっぱなし」
階段を降りながら、どこかオドオドしつつ尋ねてくる千羽君。
私は彼に適当な返答をしながら、1階まで彼を引っ張っていった。
「あそこから逃げて。もう助けは呼んでるから、外に行って待ってれば来るから」
後少し、さっき穂花達を逃がした裏口が見えた時。
そう言って千羽君の手を放した時。
「おっとぉ、逃がさないっすよ~、絵描きさん?」
私達の眼前、さっきまで隠れていた倉庫から誰かが出てきた。
その声は、さっきアナウンスをしていた声。
本来、この場に居るはずもない、死体の女。
「それ!」
咄嗟に千羽君の前に出る私。
殆ど"無防備"な私に突貫してくる渠波根…手には何かが握られている。
呪符を取り出そうにも、間に合わない。
「ぐっ…」
渠波根の手が私の鳩尾に突き刺さった。
勢いを殺せぬままやられて、声が漏れる。
「あれ、どうして絵描きさん以外が…?まぁ、いっす。面白いもの見せてやるっすよ…」
渠波根の拳の中、握られていた物を見止めた私は目を見開いた。
彼女の手を押さえるために手を当てたのだが…その手先には紙の感触。
それは、呪符…昨日、家から消えた呪符だった。
「まさか、昨日…家に…?」
「当たりっす。絵描きさん、アナタ、腹芸出来ない人っすよねぇ…」
掴んでしまった呪符…込めてしまった念…
刹那、私の心臓が絞られたような痛みを発して、叫びにならない悲鳴が上がる。
「どーしても、見たい見たいって煩かったっすから。あたし達も暇してましたし、付き合ってもらうっすよ?…遊んでもらいましょっか!」
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