186.変な方向に振れていく時、それを抑えきれない自分がいる。
変な方向に振れていく時、それを抑えきれない自分がいる。
美術室から居場所を変えて、今は1階の隅にある倉庫に身を隠している私。
その隣には、私と共に残ることになった正臣がいた。
「ごめん、無理言って」
穂花達を無事に外に送り出して、倉庫に入ってから一言も口を開かない私に、ちょっと気まずそうに話しかけてくる正臣。
外の様子を伺っていた私は、ハッとして彼の方を見やると、苦笑いを浮かべながら首を左右に振った。
「怒ってないさ。ただ、危険だから、止めて欲しかったけど」
「そうか」
「言い分にも一理あったしね。それに、今、正臣に1匹、憑りついてるよね?」
「バレてた?」
私の確認に、素直に頷く正臣。
彼から感じる別の気配…
僅かに口元を歪めるが、そんなことを引きづっていても仕方がない。
強引にでも彼をここから出すつもりだった。
だが、教室に戻って"呪符"を手にするまで、無防備に近い私の傍にいる。
そういって残ると言い張った彼と軽く言い争いになってしまい…
その時に1匹の悪霊が憑りついた。
私が折れたのは、彼がそれを操る素振りを見せられたから…
これ以上拗れても、互いに変な傷を追うだけだと思ったから…
「そろそろ動く?」
「いや、まだだ。体育館に全員が集められるまで待とう」
「分かった。で、結局なんだと思う?さっきの声はあっちでしょ?あの、死体の方」
「そう。渠波根朱莉の方…死体には操り主がいるから、風雷カフカも居ると思うんだけど」
さっきアナウンスで、生徒たちの誘導が始まった所。
何故、部外者のアナウンスで先生達が素直に生徒誘導を始めるのかが全く理解できなかったが…それ以上に、こんな所で大がかりな事を始めようとしている2人の思考が全く読めない。
「人を操れるのか?」
「まさか…だったら私達も何らかの影響を受けてるでしょ。今の私は素なんだし」
「だよなぁ…」
「それより、霊は何か言ってこないの?最近居なかったはずだけど」
「あぁ、野良みたいなもの?関係は無いってさ」
「そう」
私は正臣の方に顔を向けると、扉に背を当ててゆっくりとしゃがんでいった。
「なんか、ごめん」
ポツリと出た一言。
私に倣って、私の向かい側に座り込んだ正臣は、怪訝な顔を浮かべて首を傾げる。
「ここまで巻き込みたく無かったんだけど」
「そんなこと言っても、沙月が悪いわけじゃないさ」
「どうだか。こういう時はさ、凝り固まった連中だなって思う訳さ。力づくでも追っ払えば良かったって」
「それは…」
「ちょっとズルかったね。んなことやってりゃ、本州の嫌いな連中と同じさ」
そう言って苦い笑みを浮かべると、今日何度目かのアナウンスが鳴り響く。
1年生から移動を始めて、気付けば3年生が移動し始めている。
そろそろ全生徒が体育館入りしそうだ。
「そう言えばさ、私達居ないけど、呼び出し食らうかな?」
「後でじゃない?保健室行ってましたとでも言って誤魔化すしかない」
「それもそっか」
私はそう言うと、そっと倉庫の扉を開けて外を伺う。
喧騒に包まれた校内…遠くの廊下に、ゾロゾロと歩く3年生の姿が見えた。
「そろそろ動こうか」
その列が途切れて、静寂が廊下を包み込んだ頃。
私達は倉庫から出て、ゆっくりと教室を目指す。
「……」
人が居なくなった校舎は、怖いくらいに静かで、不気味だ。
正臣が私の一歩先を歩いて、特に何の支障も無く教室までやってこれた。
「ひとまず、何も無いな」
「そうだね」
誰もいなくなった教室。
私は自席に駆け寄ると、鞄の中に乱雑に突っ込んでいた制服を引っ張り出して、中に仕込んでいた呪符を抜き取っていく。
「そうなってたのか」
「考えたでしょ?中学の時からこうなの」
「良くまぁ、バレないものだよね」
「まぁね」
呪符を抜き取り、それをジャージのポケットに突っ込めるだけ突っ込んだ。
スマホも入れて準備万端…なのだが、これからどうするか、全く想像がつかない。
「さて、これで良いんだけど。どうしよっか?」
「遅れたフリして体育館に行くか、沙絵さんが来るまで大人しくしてるか…じゃない?」
「確かに」
正臣の言葉に頷くと、教室の時計に目を向ける。
今は11時…正臣たちの試合が終わったのが10時半過ぎで、そこから、多分、10分もしないで穂花達を外に逃がしたから、沙絵が来るまではざっと30分か40分という所だろうか?
「何も、沙月だけで解決する必要は無いでしょ?」
「確かに」
「なら、動ける準備だけして待っておくか…校内見回って、体育館には近づかない。とかで良いんじゃない?」
私は呆けた顔を正臣に向けると、コクリと頷いた。
「見るだけ見て回るか…」
そう言うと、ジャージから呪符を1枚取り出して指に挟む。
今度は私が前…教室の扉を開けると、再び静まり返った廊下に出た。
「先生が見回りに来たりして」
「ありえそう。私達がいないし」
「他にもいない奴の1人や2人、いるだろうよ」
「どうだろうね?居たとしたら…面倒だな」
廊下を歩きながら、適当に辺りを見回していく。
教室が並ぶところに何かがあるとも思えない。
見るとしたら、職員室…だろうか?
「職員室もガラガラかな?」
「そうだう…いや、誰かいると思うぞ?」
「ま、見ればいい話か」
そう言いながら、職員室の方へと体を向けて歩き出した私達。
廊下を歩いて1年生教室の前を通り過ぎ、階段を上がって2階へ…
そこから少し行けば職員室までは後少し。
「これで誰もいなかったら、ちょっと入ってみるね」
「分かった」
近づいてきた職員室、その扉に手が伸びた瞬間。
「!!」
遠くから、誰かの怒声が聞こえてきた。
ビクッと体を震わせ顔を見合わせる私達、その声は、ここよりも更に上から聞こえている。
「おい、今の、どこだ!?」
「分からない!多分、3階か4階?行ってみよう!」
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