185.普段と違うことをやると、変に意識してしまう。
普段と違うことをやると、変に意識してしまう。
応援に行った試合で正臣達は見事に勝利を収め、私達はゾロゾロと教室に引き上げていた。
「まさか、あんな応援されるとは思わなかったな」
「……色々あったの。色々と」
「はいはい」
示し合わせもせず、偶然の成り行きで正臣と並んで歩く廊下。
さっきのせいで、ほんの少し居心地が悪い気がするが、それは向こうも同じらしい。
「…こっから昼まで暇だね」
「確かに。サッカーも無いんだっけ?」
「それは午後イチ」
「へぇ…サッカーの人達、午前中暇だったんじゃない?」
「だろうね」
当たり障りない内容なのに、ちょっと浮ついた感じを受ける会話。
教室までの道のりが、妙に長く感じる。
「そっちは?あと1試合?」
「うん。2時から」
「俺等の前か」
「そうなんだ」
教室まで後少しといった所で、向こうから1人の先生が走ってきて、私達とすれ違った。
珍しい事もあるものだ…私は彼の方を目で追って、ハッとした顔を浮かべる。
「あれ、真北先生じゃん。どうかしたのかな?」
隣にいた正臣の呟きを聞いて、私は更に目を見開いた。
「知ってるの?」
「知ってるも何も、剣道部の顧問」
「そう…なんだ」
今通り過ぎて行った真北先生は、昨日、カフカと渠波根と共に飲み屋に消えて行った男。
すれ違い様に感じた気配というか…"匂い"は、どうも人のそれと違う気がする。
「何かあったんだろうね」
「あぁ」
他愛のない瞬間…そう思っていた私達の耳に、今度は校内放送のチャイムが聞こえてきた。
やはり、何かがあったのだろうか?…怪我人とか、急病人とか?
「何かあったか」
正臣の言葉に頷くと、スピーカーから流れてくる声に耳を傾ける。
「えー、生徒の皆さんにお伝えします。このあと教室に戻りましたら、暫く待機。教室の中に居てください。その後、体育館の方への移動してもらいます、誘導しますので、それまえでは教室の中で待機をしていて下さい」
聞こえてきたのは女の声。
周囲がざわつき出す中、私は聞き覚えがある声に背筋が凍り付いていた。
「繰り返しお伝えします…」
その声…渠波根朱莉の声が聞こえた段階で、私はパっと正臣の手を引き、前を歩いていた楓花の肩を掴む。
「ん?」「沙月…?」「どうしたのです?」
前を行く3人、楓花に穂花にジュン君は、振り向きざまこそ私を弄る様な笑みだったが、私の様子を見るなり表情が消える。
「何も言わずに、こっち来て」
皆の気を引いた私は周囲を見て、自分達が丁度集団の最後尾だったのを良い事に、教室には戻らず来た道を引き返した。
廊下を駆け抜け、通り過ぎてきた階段を上がって4階へ…
校内放送が繰り返されてる間、鍵がかかっていない美術室に入った私達。
皆が入ったのを確認すると、扉を閉めて鍵をかけ、奥へ行った皆の所に歩いていく。
「どうしたのよ?」
「この声、先生の声じゃないんだ」
「はぁ?」
「妖さ。何する気か知らないけど、普通じゃないよね?」
私が手短に伝えると、4人は一様に首を縦に振る。
「誰か、携帯持ってる?」
「持ってない…」
「同じくなのです」
「俺も」
「…だよね。とりあえず、放送が落ち着くまで待とうか」
分かり切っていた質問への答えに私は少しガッカリすると、近場にあった椅子を引っ張ってきて腰かけた。
「この…妖?はこの間までのに関係があるのかしら?」
「何とも言えないな。それを知ってたけど、関わっていない。中途半端だったから、怖かったんだけど…正臣は知ってるよね?この声」
「ん?…あー、まさか、この間会った…?」
「そう。また別件で昨日外に出てたんだけど、その時、真北先生がね、一緒に居たの」
「良く分からないんだけど…」
「あー…もう!何て言えば良いのか分からないけど!」
私はウィッグの髪をクシャクシャ弄ると、溜息を1つついてから、これまでのいきさつを4人に話す。
風雷カフカと渠波根朱莉の事。
この間私が病院送りになった1件の時に対処したはずの妖と死体が再び現れた事から…
昨日、私の家に物盗りが入った事まで全て。
「で、昨日、その2人と真北先生が居酒屋に入ってったの。その後で、2人に会って聞けば、しつこくナンパされたからだって。どう?真北先生ってそんな人なの?」
今は冗談を言える雰囲気じゃない。
私が、少しだけ"妖としての"空気を纏わせて正臣に尋ねると、正臣はもちろん、穂花達は僅かに緊張を強めた顔を浮かべていた。
「まさか。ちょっと気弱な感じで、そんなことする様には見えなかったけど」
「そう。なら、昨日は担がれたか」
そう言って、静まり返った美術室の中で、私は1人口角を吊り上げる。
アナウンスが止み、皆が私に注目する中で、これからどうするかを考えた。
「今言ったように、向こうの目的も何もかもが分からないの。分かってるのは、他の妖と同じように、関わると危険だって言う事くらい」
そう言って椅子から立ち上がり、窓の外を見回してみる。
さっきまで熱戦が繰り広げられていた校庭には人っ子一人見当たらなかった。
「正臣達さ、今のうちに学校を抜け出して、家に行ってくれない?タクシーで移動してさ。お金は沙絵に払わせていいから」
「え?」
思い浮かんだ案はただ一つ、というか、私だけでどうにかできる範囲はとうに越えている。
私の提案に、皆は困惑した顔を浮かべた。
「万が一があっても嫌だし、それに、私1人でどうこうできる問題じゃない。それに、こっからなら、人目に付かず裏から抜けられるよね?ほら…」
そう言って私が示したのは、ここから反対側の階段から1階に降りて、すぐの所にある出入り口から外に出る経路。
「いい?まだ教室に戻って無い人もいるだろうから、アナウンスは来ないはず…」
反対意見など出るはずもなく、私が話を進めようとすると、ハッとした顔を浮かべた正臣が私の手を掴んだ。
「待て、沙月。それ、俺はここに残ってもいい?」
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