184.何事もなく1日が終わるなら、それに越したことはない。
何事もなく1日が終わるなら、それに越したことはない。
やって来た体育祭、木曜日の日程は何事もなく終わり、今日は金曜日。
朝一からあったバレーの試合を終えた私は、穂花達と共に教室に引き上げていた。
「なんか、勝ててるね」
タオルで汗を拭き上げて、冷えない内にジャージの上を着てしまう。
それから、机の上に置いていた水筒を開けて、一口。
スポーツドリンクの甘ったるい味が気分をスッキリさせてくれる。
「そうね。なんか…ね」
体育祭と言っても、クラス対抗形式で行われる競技会の様なものだ。
バレー・バスケ・サッカー…それぞれの勝ち点を合わせて最終的な順位が付けられるらしい…良く知らないけど。
私達はバレーを選び、そこそこ楽しんで、あとはサボろう!というプランだったのだが…
気付けば練習の時から真面目に取り組み、体育祭が始まってみれば、ここまで無敗だった。
「流石に次は負けるのですよ。バレー部多すぎなのです」
「そうね。ここまでが出来すぎだったんだろうし」
「次に負けても、2位はもうかたいし、十分よね」
私は水筒を片手に持ちながら、首を縦に振って同調すると、穂花が私の足を見て僅かに目を細める。
「沙月、膝、青くなってるわ」
「え?ホントだ。さっき飛んだ時かな」
穂花に言われて膝に目を向けると、確かに一部が青くなっていた。
腫れもなく、痛みもないから気付かなかったが…見た目は痛々しい。
「…痛くないの?」
「うん。後で痛いっていうやつかな」
「無理はしないでよ。まぁ…頼っちゃってるから強く言えないけど」
「大丈夫さ」
「うーん、でも一応、長いジャージにしておいた方が良いのですよ」
「あと1試合でしょ?平気平気、それに、長ジャージだとどうもね」
そう言って膝をトントンと叩いて、痛みを感じないことを確認すると、教室にかけられた時計に目を向けた。
「男子バスケが次だったっけ?」
「そうね。応援に行かなくちゃ」
「あっちもそれなりに戦績良いものね」
「そうなのです!ひょっとすると優勝できるのですよ!」
自分達の事だけではなく、応援もちゃんとしなければ…
私達は席から立ち上がると、ゾロゾロと教室を出ていく。
廊下を歩いて、体育館まではちょっと遠い。
別クラスの人や、ジャージから察するに上級生とすれ違いながら体育館に入った私達は、特設で設けられた応援スペースに入ると、あいていた椅子に腰かけた。
「あの面子にマサが居るの、ちょっと違和感よね」
「そう?偶に話してるの見るけど」
このあと始まる男子バスケの試合は、正臣が出る試合。
正臣もそれに当てはまるのだろうが、運動が出来る人で出来た、ちょっとズルい?チーム。
バスケ部が1人も居ないだけまだマシなのだろうが、彼らもここまでで1回しか負けていない。
「これが終われば、あとは午後に試合やって終わりね」
「そうですね。あっという間なのです」
体育祭らしい声援が響く中で試合が始まった。
「マサ、案外動けるのよね」
ジーっと眺める試合、点を取っては取られてのシーソーゲームっぽく見えるのだが…
その中でも、正臣はそれなりに動けている様だった。
「沙月が声を出してあげれば、正臣はもっとヤル気が出るのですよ」
「そんな事しなくても、ちゃんと動くさ」
「分かってないのです…ねぇ?」
ジュン君はそう言って誰かの方に顔を向ける。
直後、トンと肩を叩かれて、驚いて顔を向けると三ノ輪さんがニコっと笑っていた。
「そうだよ~、ちょっと応援されれば、良い気になって頑張っちゃうんだから!」
「アハハ…仰る通りで」
気付けば私の周囲にはクラスの皆が集まっていて、思い思いに声を飛ばしている。
「羽瀬霧君、隠れ人気あるからねぇ…」
「いやいや、私はそんな」
「ふふ、入舸さんも可愛い所あったじゃない。この間さ」
「あー……」
これは悪い方に勘違いされている…だけど、それを押し返すだけの話術も何も無い…
私は引きつった顔を浮かべてジュン君や穂花、楓花にヘルプを求めるが、皆はニヤニヤしたままこちらを見返すのみ。
一緒に居た理由は絶対に分かっているはずなのに、この場の面白さを優先したらしい。
「それに!眼鏡かけてないし、普段と違う雰囲気で話しかけられれば、何か違うかもよ?」
「分かった。分かった言うから、そんな目で見ないで」
私は小さく手を上げて降参すると、丁度良く…いや、悪く、試合の流れが止まってしまう。
「はぁ…」
良すぎるタイミング。
私は咳ばらいを一つすると、両手でメガホンを作ってスーッと息を吸った。
「マサー!ファイトー!」
ちょっと張り上げた声。
ちょっと棒読みな声。
正臣が私の声に気付いて、ギョッと驚いた顔をこちらに向けたが、すぐにいつも向けてくる苦笑いを浮かべると、こちらにピースサインを向けて試合に戻って行った。
「全くカッコつけて…」
それを見て肩を竦めると、左右から肩をポンと叩かれる。
見れば、三ノ輪さんと楓花だ。
含みのある笑みを向けられても、それに苦笑いしか返せない。
「マサと同じ顔してる」
「仕方がないでしょ」
僅かに小さくなった私を見て、周囲が若干沸き立った。
「沙月」
穂花に腕をギュッと引き寄せられ、何事かと思って彼女の方に顔を向ければ、さっきのニヤケ顔とは違う表情を浮かべている。
「良いでしょ?この雰囲気」
ちょっとだけ真面目な一言。
言いたいことは、何となく理解できた。
「まぁ…ね」
私は顔を赤くしたまま、そう言って肩を竦める。
そして、彼女の方をチラチラ見やると、ボソッと口走った。
「でも、断じて、万に一つでも、絶対に!そういう気は無いからね」
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