183.これを何かの予兆だと思うか、ただの戯れだと思うかに悩む。
これを何かの予兆だと思うか、ただの戯れだと思うかに悩む。
屋根を飛び移って、眼下を行く3人の人影に目を向ける私。
3人の人影…1人は学校の先生で、後の2人はカフカと渠波根だ。
「誰だったっけかなぁ…見た事はあるんだけど」
学校の先生を上から見下ろして、ポツリと独り言。
担任の顔と、教科担の顔位しか知らないのは、こういう時に役に立たないものさ。
そして、これからどうするか。
あの3人を監視して、出来れば会話を聞き出したいが…
私が近づけば、カフカは確実に気付くだろうし、先生に私だと知られれば色々と面倒だ。
「もどかしいったらありゃしない」
少し離れた所でジッと眺めていると、彼らはやがて適当な居酒屋へと入って行った。
追跡はここまで、折角なら妖が居る店にでも入ってくれれば良かったのだが…
通りの建物の屋上からその光景を眺めていた私は、3人の姿が消えた居酒屋の前に飛び降りてドンと着地すると、入り口をジッと、恨めし気に眺めてから、本来の目的を遂行するために足を踏み出した。
「今は…7時半か」
駅から運河の方へ降りていくまで、入舸の管理下で人に化けた妖が何人かいるのだ。
何処に住んでいるのかとか、その辺りを、私が全部把握している訳が無いが…何人かは覚えているから、そこを起点にして話を広げて貰えば良いだろう。
「あ、いるかさん!」
「入舸だ。相変わらずだな」
最初に足を踏み入れた路地では、私が探すよりも先に、向こうから声をかけてくれた。
駅から近い路地…周囲に人の姿は見当たらないが、何軒か個人経営の飲み屋がある通り。
足を止めて、左半分だけ顔を晒して人の目に付くようにすると、飲み屋を営む鬼の女が私の元に近寄ってくる。
「どうしたんですかい?そんな変なカッコして」
「ちょっとワケアリでさ。ウチに物盗りが入った。その情報収集ってとこ」
「はぁ…そんな命知らずなことする奴いるんですね」
「いたのさ。実際。で、金目のものも、呪符も何枚か盗られてるし…何か怪しいの見っけたら知らせてくれないかって言って回ってるのさ」
私はそう言いながら、周囲に目を向けた。
今は誰も居ない通り、誰かが来たら、お面を被って姿を消さなければならない。
鬼は私の言葉に頷いて、何かを思い出すような素振りを見せると、首を傾げて唸った。
「分かったよ。それっぽいのは見てないけどもさ」
「お願い。この辺の連中にも伝えておいてくれる?」
「あいよ。伝えとく」
「ありがと。それじゃ」
そう言って鬼に手を振った私は、トンと地面を蹴飛ばして建物の上へ。
この辺りの事は彼女に任せて、次の場所へ。
建物の上を飛び回って移動し、やって来たのはサンシャイン・モールのアーケードの上だ。
「っと…」
アーケードの上を歩いて、妖が営む判子屋を見つけると、近場の路地の上に飛び降りて店の方へ歩いていく。
店の扉をコンコンと叩くと、店の奥に居た店主がビクッと反応を見せて私に気付き、こちらにゆっくりと歩いてくると、扉を開けてくれた。
「ごめん、ありがと」
開いた扉から中に入ると、店主は私の格好を見て更に驚いた顔を浮かべる。
「どうしたんですその姿?絵描きさんですよね?」
壮年の男を装った、この地域には珍しい化け狸。
私は扉を押さえたまま苦笑いを浮かべて「ワケアリでさ」と、さっき鬼にも言った様な答えを返した。
「ウチに物盗りが入った。怪しい人間か妖を見かけたら教えて欲しい」
「え?また珍しい…最近やってきた連中では?」
「だと良いんだがね。さっき入ったばっかで、監視カメラにも映っちゃいない。どんな手品なんだか」
「そうですか…」
「この近辺の妖も伝えておいてくれる?呪符も盗られてて、もし人なら弱って倒れてるかもしれない」
「分かりました」
「お願いね」
短いやり取りをして、開いたままの扉から外に出ると、再びアーケードの上に飛び乗る。
この調子で、あと3,4人に触れ回れば、明日中には話が妖中に行き渡るだろうか。
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「9時半、そろそろ良い頃か」
夜の街を飛び回り、再び駅の辺りまで戻ってきた私は、適当なビルの縁に座って眼下の景色をジッと眺めていた。
この程度で、効果が上がるとは思えないが…
それでも、犯人が妖なら何かしら情報は集まるだろうし、人だったとしたら、何処かで弱り果てている所を回収出来るかもしれないのだ。
私はフーっと深い溜息を1つ付くと、屋根に立って、家の方へと足を踏み出した。
「よっと…」
建物の屋根を飛んで回って、小樽駅横のビルの上で一休み。
何気なく眼下の景色を見てみれば、私の方を凝視している人影が2つ。
「……あ」
カフカと渠波根だ。
さっきまで一緒だった先生は既に居ない。
2人共、お酒でも入っているのだろうか?
妖と死体の癖に、顔が少し赤くなっている。
面倒な事になってきた。
私はお面の奥で心底嫌な顔を浮かべると、2人を手招いて地上へ飛び降りる。
「随分と不思議なカッコしてるっすね」
人影の見えない線路沿いの駐車場。
そこに2人を招いて面を半分ズラすと、渠波根が私の姿を見つめて開口一番にそう言った。
「ワケアリでね。まさかと思うけど、家に押し入ったとかない?」
「泥棒でも入ったんすか?」
「まぁね。で、今はその犯人捜し」
「そんな、命知らずな事する人いるんっすねぇ…生憎、あたし達は家の場所までは知らないっすから、何にも知りませんが」
「ねぇ?」といってカフカに話を振る渠波根。
カフカがコクリと頷いた。
「そっ…そう言えば、学校の先生とはどういう関係?」
「え?あー、もしかして、見てましたね?」
「店に入ってく所まで。女同士の気しかないのに、あの男…気になるでしょ?」
そう尋ねると、渠波根とカフカは顔を見合わせて、何とも言えない表情を浮かべる。
「まぁ、そうっすけど。しつこくナンパされて、1回飲むだけっすよって事で行ったんす」
「いひひ…ひひひ…あの男、公務員あるまじき、男」
その答えを聞いた私は、脱力して、ゲンナリとした。
「そう。なんか、ごめんなさい。変な事聞いて…」
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