182.こういう時の嫌な予感は、嫌という程よく当たる。
こういう時の嫌な予感は、嫌という程よく当たる。
正臣と共に喫茶店に行って、黒人を追い払った日の夜。
事を起こさずやり過ごせたが、どこか嫌な予感を感じつつ家に戻ると、その予感は早速大当たりとなった。
「ただいま…ん?」
家に戻ると、家の中が荒れ放題になっており、沙絵を始めとした妖達が右往左往している。
「沙絵?なしたのさ。これ」
玄関で私を出迎えてくれた沙絵に尋ねると、沙絵は目を泳がせてから、頭を下げた。
「申し訳ありません。沙月様、物盗りが入ったようで…」
「はぁ?こんな所に?」
沙絵から言われた言葉に、私は驚いて周囲を見回す。
ここは、住宅街から少し離れた、真っ暗な屋敷。
確かに、泥棒に入るにはうってつけ…な暗さだろうが、それなりに自衛はしているのだ。
「監視カメラとかには?」
「いえ、それが全く影も形も無く…」
「そう」
玄関で話していても埒があかない。
靴を脱いで、沙絵と共に居間の方へ歩いていくと、私達の周囲を小間使いの妖達が家をひっくり返さん勢いで被害を調べているのが見えた。
「何が盗られた?」
「調べている最中ですが…金品の類を中心に盗まれていますね」
「それだけ?」
「いえ、他にも細々と、換金できそうな品が消えている様です。あと、呪符も何枚か…」
居間の椅子に鞄を置いた私は、それを聞くと顔を顰めた。
呪符は、只の一般人には、持ってるだけでも毒なのだ。
「その泥棒さん、そのうち勝手に野垂れ死にそうだね」
「それはとても不味いんですが…」
「兎に角、無駄と分かってても探すよね?」
「はい。すいませんが、出て貰えますか?」
「当然でしょ」
家の中を見回した私は、そう言いながら眼鏡とウィッグを外すと、自分の部屋へ。
荒らされた自分の部屋…見ていて気分が良いものではないが、そんな感傷に浸るのは後だ。
荒らされていない箇所に隠していた呪符の束を取り出してコートのポケットに突っ込み、机の上に手つかずで残されていた狐面をとって被ると、そのまま部屋を出て玄関に向かった。
「10時位まで回ってもらえますか?」
「分かった。その辺で聞いて回ってみるさ」
さっき脱いだばかりの靴を履いて家を飛び出した私は、早速地面を蹴飛ばすと、近場にあった使われていない電柱の上に飛び乗った。
片足立ちの状態で、遠くに見える小樽の街並みを眺めて、これからどうするかを考える。
犯人は人だろうか?それとも…妖?
割と厳重…だと思う防犯設備に一切触れずやってのけた事を考えれば、大分やり手だと思うが…私が犯罪に明るい訳が無い。
難しいことを考え出すと、頭から煙が立ちそうだ。
私はお面の裏側で自嘲的な笑みを口元に浮かべると、足に力を込めて電柱から飛び立った。
太い木々を辿って藤美弥神社の鳥居の上へ。
そこで一度止まると、眼下から鬼の驚く声が聞こえた。
「うわっ!…絵描きさんか。どうしたんだい?」
その声は、この辺りを根城にしている女鬼。
私は彼女の方に顔を向けると、手を上げた。
「どうも。ちょっとウチに泥棒が入ってさ!犯人探しに出てるの!」
「はぁ!?何時さぁ?」
「分からない!帰ったら沙絵達がおろおろしててさ。何か知らない?」
「いやぁ!分からねぇ!だけど、こっちでも調べてみるわぁ!」
「ありがと!呪符を盗られてっから、弱ってる人見っけたらソイツなはず!」
「人なのかい?」
「それも分からない!」
「分かった!回しとく!……あ!あと、絵描きさん!」
鬼との会話の終わり際、街の方に体を向けた時。
呼び止められて再び鬼の方へ振り向くと、彼女は少し口ごもった様子を見せる。
「?」
「スカート!気を付けれや~!」
「!」
鬼の言葉に、私は一瞬で足を閉じる。
そう言えば、今の格好はセーラー服にコートだった。
「じゃ!」
去って行く鬼を、顔を赤くして見送る私。
一旦鳥居から降りて道の隅に立ち、数回折っていたスカートを戻して膝下丈にしてから、再び鳥居へ飛び上がる。
足に力を込めて、神社から別の建物の屋根へ…
トン、トンと家々を飛び越えて、正臣の住むマンションの屋上へ。
道行く人影は一切見当たらず…
このまま通りに出れば、人はいるだろうが、それは只の一般人…
私は周囲に目を向けながら、それらしい人影を求めたが、そんな人、居るはずも無かった。
「チッ…」
軽く毒づくと、トン!と足を蹴って別の建物の上へ。
目線の先には小樽駅、兎に角、街で"人に化けて"住む妖に触れ回るのが今できる最善手だろう。
トン!と飛んで一軒家の屋根の上。
そこから一旦地上に降りて、線路の上にかかった橋を渡って、再び建物の上に飛び乗り駅の方へ…
次々に飛んで、一応、道行く人々を眺めて、それっぽい人影が見えない事を毒づいて…
やってきた駅横ビルの屋根の上。
ここから、繁華街…というのかは微妙だが、店が並ぶ通りを回れるだけ回って妖達に協力を求めて回るしかない。
「ったく、一難去って、また一難…か」
ポケットに手を突っ込んで、適当に1枚呪符を取り出す。
束で持って来た呪符…それは、一番力が弱い"白紙の呪符"。
それを見て、フッと笑って、ポケットに仕舞って再び眼下に目を向ければ、丁度学校方面からやって来るバスが見えた。
「ほー、こんな時間まで。そりゃ、準備してないなら大変だろうさね」
普段乗ってるバス…
何気なく目を向けると、駅の停留所で止まったバスから、何人か通っている学校の先生が降りてきた。
見覚えはあるが、名前も知らない先生…
数名の先生達は小樽駅の方に入っていくが、1人だけ、全く別の方へ歩いていく人が居て、それが私の目に留まる。
一人飲みという奴だろうか?
野次馬根性で、男の先生の後ろ姿を眺めていると、彼に近づく人影が。
その影、2人の女…私は目を細めてよく見てみれば、その人影は、私が良く知る相手だった。
「一難去って、次は二難?なんて…勘弁してよ」
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