181.平和に終わる1日に、ちょっと物足りなさを感じてしまう自分がいる。
平和に終わる1日に、ちょっと物足りなさを感じてしまう自分がいる。
水曜日、明日から始まる体育祭に向けて、委員会の仕事として前準備に駆り出され、正臣と共に学校に残っていた私。
それも終わり、すっかり外が暗くなった頃。
学校を出て、バスに揺られた私達は、最寄りのバス停ではなく小樽駅でバスを降りると、適当な喫茶店に入っていった。
カフェ・バリュー。
駅近くの喫茶店…初めて入ったが、ちゃんとしたご飯ものもあるらしい。
コーヒーでも飲もうか?というノリだったが、折角だからと、夕食まで一緒に済ませてしまう事にした。
「なんだって直前になってアレだコレだって言ってくるんだろうな」
注文を終えて、一息つくと、珍しく正臣が愚痴を零す。
私も、その言葉には全く同感だったから、ふっと笑って頷いた。
「もっと早く出来たよねってものも多かったよね」
「あぁ、終わった事に言ってもしょうがないんだけどさ」
お洒落な空気が流れる秘密基地的な喫茶店の隅の席。
私はお冷のコップを手に取って喉を潤すと、ふーっと溜息を一つ。
「とりあえず、ちょっと落ち着いた?」
会話が途切れた後、正臣は私の顔をジッと見て尋ねてくる。
私は少しだけ目が泳いだ後で、小さく頷いた。
「2,3日だけどね。なんとか」
「そっか。良かった。暫くバイトも無いんだっけ?」
「うん。綺麗サッパリ消えてったし」
「それもそうか。靄になってないもんな」
店の小さな窓から外を見ると、見えたのはクリアに見える夜の街。
この間までの、若干靄がかった陰鬱な空気は何処かへ消えていた。
「消えてみれば、こんなもんだったんだね。日が短くなっただけかと思ってた」
「な、明るい明るい」
「慣れって怖いねぇ…」
頼んだものが来るまでの時間。
正臣と適当に会話をしているうちに、あっという間に時間が過ぎ、テーブルの上に料理が並んでいく。
私はナポリタンで、正臣はオムライス。
飲み物は、私がクリームソーダで、正臣はミルクセーキ。
随分とレトロな装い…な気がするテーブルの上。
「「(じゃ、)いただきます(か)」」
私達は並んだそれらを見て、何となく間を置いた後で、それぞれフォークとスプーンを持ってつつき始めた。
フォークにスパゲティを一口分巻いて、それを口の中へ。
少々濃い味付け、悪くない。
「おぉ…」
正臣の方も、美味しそうだ。
本人は気付いていないだろうが、結構な勢いでオムライスが削られていく。
それを見て、私は口元を小さく綻ばせると、お洒落なグラスに入って来たメロンソーダに手を伸ばした。
チューっとストローでメロンソーダを飲んで…刺さっていた小さなスプーンで硬めのバニラアイスをちょっと掬って一口。
ナポリタンの味に支配された口の中が一気に晴れやかになると、私は炭酸の強さで僅かに目を細めた。
「美味しいね」
「あぁ。穴場かも」
適当に入った店だったが、こういう時に当たりを引いた時の高揚感は何なのだろう。
「今度、穂花達連れてこよ」
そう言って、再びフォークを手にしてナポリタンを巻き始めた時。
私達の隣の席に、持ち帰り用に見える、プラスチックカップに入ったコーヒーを手にした男が1人、やってきた。
「……え?」
思いがけない遭遇に、私は一瞬思考が止まる。
黒い仕立ての良いスーツに身を包んだ黒人男…パトリック・サンダー・ウォルシュ。
私はポカンと呆けた顔を浮かべ、正臣は僅かに緊張感ある顔を浮かべた。
「堂々とし過ぎじゃない?」
フリーズ状態から回復した私は、ナポリタンを巻くのを止めずに、こちらに顔を向けた男に話しかける。
その言葉の直後、ポコン!とスマホの音が鳴り、私の言葉が英語に翻訳された。
「…初めて見た」
正臣の一言が、おかしくなった空気を元に戻してくれる。
私はハッと鼻で笑うと、スマホに向かって何かを話し始めた男の方をジッと見つめて、何を行ってくるか待ち構えた。
"1度で良いから本当の力を見せて欲しいです。それと、この間はありがとうございました"
スマホを突き出され、スマホの電子音声が男の言葉を日本語にしてくれる。
それを聞いて、私は引き笑いを浮かべた。
カタコト言葉を使っていた時の妙にふざけた態度と一致しないのだ。
「この間?ジェフリーの事?あと、力は見せない。体調を崩したくないの」
小声で、それでも分かり易い声を心掛けてスマホに向けて話す私。
フォークを置いて、制服の袖の中に手を入れて、いつでも"事を起こせる"様にしてはいるが…この光景は、明らかにシュールだな。
"いいえ、どうしても見せて欲しいのです。その情報が必要です"
返って来た返答。
言葉が通じるようになっても、意思までは通じないらしい。
私と正臣は顔を見合わせて首を傾げた。
「お断りします。それと、早いうちに小樽から消えてください。ジェフリーとは別の意味で、帰れなくなりますよ?」
呆れ顔を浮かべた私は、スマホにそう言うとシッシと言いたげに手を振る。
スマホが私の言葉を英語に翻訳し、それが男の耳に入ると、男は何かを噛み締めるように表情を歪めた。
「……変な気は起こさないでよ?」
私は彼に変な気を起こされる前に、袖に仕込んでいた呪符をチラリと出して、真っ黒い光を宿して見せる。
「……チッ」
前回は一瞬で顔を青褪めさせた程だったが…
今回はこれに耐え忍び、男はスマホをスーツのポケットに入れて席を立つ。
「………」
ジロリと私達を睨むような視線を浴びせた後、男はコーヒーカップを手にして店から去って行った。
「感情的とはいえ、流石は穏健派。厄介な気を起こさないでくれると良いんだけど」
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