179.事情を知っている知り合いが近くに居れば、楽な仕事が更に楽になる。
事情を知っている知り合いが近くに居れば、楽な仕事が更に楽になる。
ジュン君と、彼女の"先祖"たる女天狗の姿を見つけたジェフリーは、一瞬のうちに様子を変えて、2人の下へ猛進していった。
「あーあ、運のない男」
私は苦笑いを浮かべつつ、彼を追いかけて屋根を伝い、そしてトン!と路の方へ飛び出す。
「ん?」
先に異常に気付いたのは、天狗の方だった。
クルリと振り向き、迫ってくる白人男に目を向けて…そしてその背後から"飛んでくる"私を見て、ギョッと目を見開く。
「はぁ!?」
危ない!よりも何よりも先に出てきた驚く声。
男よりも、私に驚く辺り…男が如何に舐められているかが分かるというもの…
私はお面の奥でそれを聞いてクスッと噴き出すと、ドン!と路上に足を付けて勢いを殺し、お面を半分剥いで"人に見える姿"に変化する。
「ジュン!下がってれ!」
天狗は咄嗟に自転車をジュン君に預けて、それを"盾に出来るように"押し付けると、前に出てきてジェフリーの方へと足を踏み出した。
「只の女だと思ったテメェが悪いっからな?」
天狗が前に出ても、ジェフリーは勢いを殺さず彼女に襲い掛かる。
彼女はそれを難なく躱し、それどころかいとも簡単に首筋を掴みあげ、軽々と大柄な白人男を持ち上げると、手足を器用に使って私の方へと男の向きを変えた。
「そら!パス!」
その掛け声で、ようやく男は私を見止めて驚愕に顔を染め上げる。
「え?沙月!?」
そしてもう一人、驚いたまま固まっていたジュン君も、突如として視界に現れた"素"の格好をした私を見て驚いた声を上げた。
それを聞いて口角を更に吊り上げると、私の方へと投げられた男の姿を視界に捉えて足に力を込める。
「!!!」
驚愕、いや、恐怖に染まったジェフリーの顔。
流石、普段は気弱な男…ピンチに陥れば、この様になるのは想像が出来ていた。
トン!と地面を蹴り上げ低く宙へ浮き上がる。
投げ飛ばされた勢いを殺せずこちらに向かってきた白人男…私の視線は彼の顎を一点凝視。
「うらぁ!」
そのまま、軸足と逆の右足を、思いっきりジェフリーの顎へと打ち込む。
「ガッ!」
クリーンヒット。
スローモーションになった視界に、彼の口から吐かれた血と欠けた歯が映り込んだ。
私は、そのまま勢いを殺さず、フワリと宙に浮いた男の鳩尾に視線を向ける。
構えた左手、ギュッと指を丸め、溜めた力を一気に解き放ち…
鳩尾に左手を突き刺した。
「っとぉ…」
吹っ飛ぶジェフリー。
私は天狗の真横辺りに着地したが、彼は更に遠く…
ジュン君の横をすり抜けて、更に奥へ無様に転がって、ピクリとも動かなくなった。
「派手な登場だね。アレが…お触れにあった外人かい?」
ゆっくりと残心から戻っていく私に天狗が尋ねてくる。
私は2人の方に顔を向けてペコリと頭を下げた。
「そう…巻き込んでしまってごめんなさい。でも、狙ったのが2人で良かった。こういうと悪い言い方になっちゃうけど」
「ホントさ。アタシが居なけりゃジュンだけだったんだぞ」
「どの道、一般人で"釣る"気だったのさ。2人だったのは偶々…そもそも、こっち迄来るだなんて思ってない」
驚いて声を出せないでいるジュン君の前で、"妖モード"な私は、近寄りがたい空気を醸し出す天狗に引く様子も見せずに話を進めていく。
「悪いけれど、あの男を"ハメ"るの、手伝ってくれる?今から沙絵を呼ぶから」
「雑魚に、随分な対応だね。何かワケアリかい?」
「ちょっと貸しを作りたい相手が居るのさ。アメリカじゃ最重要手配犯らしいよ?」
私はそう言って下衆な笑みを見せると、帯からスマホを取り出して沙絵に電話を入れる。
スピーカーモードにして向こうの声が聞こえるようにすると、丁度沙絵が電話に出た。
「はい」
「沙絵?私。今、美国なんだけどさ、無事に仕事完了さ。それに、丁度良い"協力者"さんがいる」
そう言って手にしたスマホを天狗の方へ傾ける。
彼女は私を見て薄っすら引き笑いを浮かべると、観念した様に口を開いた。
「沙絵さん?私です。ジュンのとこの」
「あら。すいません、巻き込んでしまいまして」
「いえ。どーも、で、何さ?これ」
「ちょっと訳アリでして。説明は後にさせてください。今からそっち行きますので。お手数ですが…家にその男、捕えておいて貰えます?」
沙絵の頼みを聞いた天狗は、僅かに口元をピクつかせる。
「えっ…まぁ、良いけども」
「では、沙月様、しばしお待ちを」
「うん。それじゃ」
アッサリと終わる電話。
スマホの画面を消して帯に仕舞うと、天狗は呆れた様な顔を浮かべたまま、気絶した男の方へ歩いて行き、ヒョイと彼を持ち上げた。
「さ、沙月…だよね?」
その光景を見ていると、ようやくジュン君が私に声をかけてくる。
私はニコッと笑みを浮かべて手を上げると、ようやくお面を脱いで"素顔"を晒した。
「意外な所で会ったね。ごめん、巻き込んじゃって」
「いや…それは良いのですが…初めて見たのですよ」
「そうだっけ?あぁ、そっか。この格好の印象は病室の中か」
私はそう言って砕けた笑みを浮かべると、男を背負って戻ってきた天狗の方に顔を向ける。
「すいません」
「なに、たかが男1匹運ぶだけさ。ヒョロい外人だな」
そう言って天狗は彼女の家の方へと歩き出した。
私とジュン君はその後についていく。
ここから家まで、徒歩5分と掛からないだろう。
「別に誰にも会わないだろうから良いけど。目立つのは嫌だったんじゃないのかい?」
「まぁ…ジュン君もいるし、すぐそこでしょ?」
「そっかい。良いなら、良いんだけど」
ちょっと不思議な空気が流れ出した日曜日。
私はジュン君の隣を歩きながら、小さな欠伸を1つついた。
それを横目に見ていたジュン君は、小さく鼻で笑うと、私の方に顔を向ける。
「沙月、その姿の方が元気なのですよ。やっぱり我慢はダメなのですね」
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