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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
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178.結局間に居ようとするのは、私の中でまだ迷いがあるからだ。

結局間に居ようとするのは、私の中でまだ迷いがあるからだ。

妖に振れれば人に戻りたいと思うし、人になり過ぎても、身体の脆さが嫌になってくる。

だから、今は真ん中にいたい…これまで通り、境目に立って居たいのだけど…どうしたものか。


「なんだってこんなことになるかな」


日曜日、私は一切の"変装"も施さず、素の格好で日中の街へと繰り出していた。

正臣のバイトは、彼自身の用事も絡んで今週の土日はお休みだ。

素顔をお面で隠し、和服に身を包み、周囲の人間からは見えない姿に偽装して…妖になった私は、小樽駅前のビルの屋上、その縁の部分に腰かけて眼下の街を見下ろしている。


「沙月様、今、家を出ましたよ」


耳に入れたイヤホンから沙絵の声。

そんなイヤホンから線で繋がり…帯の中に入れたスマホで沙絵と連絡を取り合っていた。


「了解、1人?」

「はい。基本、別行動みたいですね」

「ソリが合わないのかな」

「経歴だけ見れば、合うはずもないでしょう」

「確かに、かたや殺人鬼、かたや米兵だ。潔癖そうだものね、黒い方」


こうするのも、昨日から続けて2日目だ。

目的は、"インビジブル・サークル"の白人、ジェフリー・"ジャン"・ノワックの逮捕。

そんなもの、私達がすることではない…と思うのだが、"表の世界"へ貸しを作るのに、彼は丁度良い存在と言えた。


「そう言えば、再訪問はしてなかったね」


彼の事を調べたファイルによれば、表沙汰になっていないだけで、今でも数か月に1度は人を襲い、"食べている"のだとか。

あの家主に、そろそろ"腹が減った"としきりに言っていたというから…市内で"被害者"が出るのも時間の問題だったのだ。


「そうでしたね。明日明後日で良いかと思ってましたが…する価値も無いでしょうし」

「確かに」

「それにしても、駅近くに拠点を確保するとは…大胆不敵?というのでしょうか?」

「どうだか。"グール"になれる日本人を探してたら、そうなっただけじゃないの?」

「あぁ、それもそうですね」

「監視付けて、人を襲ったら確保。だね」


眼下に日曜日の人の流れを見ながら、私はお面の奥で口角を上げる。

完全に素であれば、この格好が一番シックリくる…心地よい。

感じてはならぬ安心感…明日から再び始まる平日の生活を思って僅かに曇った気持ちを、首を振って誤魔化すと、私は袖の中に手を入れた。


「にしても、良かったの?こんな強い呪符を持っちゃってさ」


そう言って取り出したのは、"赤紙の呪符"と"黄紙の呪符"。

どちらも、ここ最近は持つことすら許されなかった呪符だ。


「変に気負わず、いつも通りに戻してみましょう…と言う事です。学校の時は、まだ怖いので少し"軽装"になってもらいますが」

「軽装…ね」

「沙月様、一昨日も言いましたが、妖は精神の影響がモロに出る種族。表の格好では、まだ前に戻すのは怖いのですよ」

「分かってるって」


そう言って呪符を袖に戻す。

ジーっと眺めていた駅前の人通り、そこに、現れたのは金髪の白人男。

上からしか眺められないが、背格好に、歩き方を見れば、それがこの間遭遇したジェフリーだと言う事はすぐに分かった。


「沙絵、見つけた。後を追うよ」

「はい。お願いします」


雑談はここで終わり、私は沙絵に短くそう告げると、通話を切ってイヤホンを耳から外し、帯に仕舞いこむ。

そして、縁に手をかけてヒョイと地上へ飛び降りた。


周囲の人間は、私に一切気付かないが…

混じっていた"人に化けている妖"は、私を見てギョッとした目をこちらに向ける。

私はそんな彼らに手を振ると、人差し指をお面越しの口元に当てて、遠くに見える白人の後を追いかけた。


全く"普通の人"にしか見えないジェフリーは、当然、私に気付くことなく、駅の方へと歩いていく。

その後ろ、少し距離を開けながらも、堂々と歩道の上を歩いて追いかけた。


願わくば、今日、彼が誰かを襲いますように。

…本当に、碌でも無い願い事。

私は自嘲気味に口元を歪ませつつ、彼の背をジッと見つめた。


ジェフリーが向かったのは、バスターミナル。

積丹方面のバス停に向かい、時刻表を見て悪態を付くと、スマホを見て何かを調べ始める。

何だろうか?と、少し近づいてスマホを背後から覗いてみれば、画面に映っていたのは翻訳アプリ。


時刻表位読めるだろう…と思ったが、どうやら目的はそっちではなく、行き先が分からなかっただけらしい。

写真で行き先が書かれている箇所の写真をとって、それをアプリに読み込ませれば、ローマ字表記の行き先が画面に出てきた。


その行き先は、私が良く知る土地…美国。

時間を見る限り、バスはすぐにやって来る。


彼の近くに突っ立って時間を潰し、やって来たバスに乗って…適当な場所に腰かけた。

無賃乗車だけど、妖などそんなもの。

過疎地行きのバスが満員になるはずもなく、私は最初に陣取った席を明け渡す事もなく、バスはゆっくりと発車した。


 ・

 ・


バスに揺られて数十分…ウトウトし始めた頃、美国に入った辺りでジェフリーが動き出す。

それを見てハッと目を覚ますと、彼はバスの前の方へと歩いて行き、停車ボタンを押した。


次の停留所は、私が普段、鬼沙の墓参りの際に降りていた場所。

全く無関係ながらも、私の心臓は勝手に早鐘を打ち始める。

胸に手を当てて僅かに顔を歪めたが、私も彼の後を追うために席から立ち上がり、一足先に出口の方へと陣取った。


バスが止まり、ガチャっと空いたところで、一足先に外に出る。

近くの石垣に飛び乗ってジェフリーが降りてくるのを待ち構えた。


「……」


少し時間がかかってジェフリーが出て来ると、扉が閉まると同時に何か英語で悪態をつき始める。

どうやら、ちょっと揉めたらしい。

揉めたというか、意思疎通が出来なかっただけだろうが。

彼は、そのまま唯一ともいえるメイン通りを中心部の方に向けて歩き始める。


「普通の観光客…とは違うだろうけど、まぁ、平凡な奴だこと」


その背中を眺めながらポツリと独り言。

まだ監視して、そんなに時間は経っていないが、これまでの1つ1つの仕草からは、彼がとても殺人を犯す様な人には見えなかった。


私は通りの家の屋根に飛び乗って、上からジェフリーを見下ろす形で監視する。

彼は何かを探している様だった。


「今日も只の観光に付き合わされたら、たまったもんじゃないな」


そう言いながら、人気の無い路地に入っていく彼を見て、路地の先の方へ目を向ける。

すると、遠くに見知った2人組の姿が見えた。


「ん?」


自転車を押す女と、その横を歩く女の子…私は、人気の無い路を行く2人を見て様子が急変したジェフリーを見ると、思わず憐れんだ笑みが浮かんできた。


「ツキから見放された男…か。楽な仕事になりそうだ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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