177.極端にしか変われない今、私がどうありたいのか分からなくなってきた。
極端にしか変われない今、私がどうありたいのか分からなくなってきた。
金曜日の夜、家に戻った私は諸々を済ませた後、自室に籠って、ベッドに腰かけ、ボーっと部屋の壁を眺めていた。
古い部屋の壁…木目模様をジッと見つめてどれくらい経っただろうか?
呪符を持ち歩く、"元の状態"…体調は妖に振れれば良くなる一方だった。
だが、それは精神すら妖の方に振ってしまい、さっきのように、少しでも"妖"の思考をしてしまえば、簡単に体全てが"妖"へと変化を始めてしまう。
さっき、気持ちが"振れた"せいで緑色に変わった目の色は、家に着く頃までに元に戻ったが、こんなに簡単に変わってしまうようでは…
そのせいで、さっき、一瞬でも正臣が"邪魔"に思えてしまった自分が許せなかった。
それを、素直に、正臣に相談できない自分が嫌だ。
多分、相談の一つでもすれば、曖昧に笑いながら、それでも超が付くほど大真面目に考えてくれるだろう。
「沙月様、今、お時間良いでしょうか?」
夕食も風呂も終えた後、ベッドに座っている事しかしなかった私の耳に、沙絵の声が入って来た。
私はハッと我に返り、「どーぞ」と一言声をかけると、ファイルを手にした沙絵が扉を開けて入ってくる。
「失礼します…ん…そう言えば、そろそろこの部屋の呪符も剥がし時でしたね…」
私の気も知らないで、沙絵は部屋を見回しながら入って来てそう言うと、隅に積まれていた座布団を出して適当な所に敷いて座った。
「…どうかしましたか?」
「いや、ちょっと考え事。いいよ、沙絵の用事からで」
「はい…先程の事は既に対処し始めています。とりあえず、沙月様と正臣君を襲った男は皆確保出来たようです。風雷カフカと渠波根朱莉の行方はまだ掴めておりません」
「ありがとう。あの2人、神出鬼没だね…前もそうだったけど」
沙絵からの報告で、私の落ち切った気持ちは少しだけ切り替わる。
「全くです。まぁ、まだ何も事が起きていないので、見つけても探りを入れる程度でしょうが…もう一方の外国人の方は、以前私達が探りを入れた時の1件と、先程の沙月様達への1件で無事に"隠す"対象へと引き上げになりました。つきましては、沙月様にもある程度の情報を持っておいて欲しく…」
そう言って、沙絵は手にしていたファイルを私に渡してきた。
「昨日今日で、あの男を起点にして、大体の背景を洗い出しました。どうやら、あの男は最近2人の手によってグールにされた様です」
ファイルを開いて中を見ると、この間押しかけた家の家主の情報が纏められている。
それによれば、悪霊騒ぎが始まる前あたりから"インビジブル・サークル"の2人を泊め、その際に自ら"グール"にさせられた…とあった。
「グール。食人鬼ですが、噛まれればなる…とは違って、なるためには体質"が関わるそうですね。殆どの日本人は"体質上"グールになりませんが、この男の様に、"欧米人"の血が流れていれば…なるやもしれないと。それでもかなり確率が低いそうですが」
「運がいいやら悪いやら…で…通りで一般人の被害が無いわけだ…という理解でいい?」
「はい。それもそうですが、彼ら自体、ある程度自制心があるようです」
「へぇ?」
私は変な声を上げながら、ファイルのページを捲っていく。
すると、"インビジブル・サークル"に関して纏められた用紙に目が留まった。
「組織は何もグールだけではないらしいですね。まぁ、殆どグールだそうですが…彼らは"人を食べる"為ではなく"人からの進化"を目的としている組織の様です」
「はぁ…進化ね」
「えぇ。ですので、向こうではアブナイ新興宗教…もとい、秘密結社の様なものだそうで」
「だろうね。大っぴらになってない辺り、グール等への変化し辛さと、得体の知れなさの方が勝ってるのでしょうよ」
沙絵の言葉に、私は口元に僅かな笑みを浮かべてページを捲る。
「ただ、そんな組織でも、海外の妖組織で出来る寄合みたいなものに入れるのですから不思議なものです」
「そこは見習っても良いと思うんだけど」
「私がいうのもおかしいですが、信頼出来る相手じゃないので」
それを聞いて、更に笑みを浮かべた私。
ページを更に進めると、"リーダー格"らしき男2人の情報に行き当たる。
「で、下っ端グールは片っ端から集めて隠すとして…この2人は、どうするの?」
「はい。白人の方、ジェフリー・"ジャン"・ノワックの方はなるべく早いうちに対処したい所です」
「ふむ…?…ん?え?…うわぁ…」
沙絵に言われた、白人の方…その詳細を見た私は、その得体の知れなさに表情を曇らせた。
「本名、ジャック・C・ハロルド。サークルの幹部ですが、表の顔は食人を目的として残忍な殺人鬼です。大学中退後、確認されているだけで45件の誘拐と38件の殺人に関わっているそうで」
「あんな弱っちそうなのが…」
「見かけによりませんね。ただ、レアな"自然進化"のグールだそうでして、サークルでの地位は高く、そのせいで警察組織が手を出せず、アンタッチャブルだとか言われてますよ」
「手はあるの?」
「えぇ。ここは日本…手を回すだけの力は無いでしょう?」
私の問いに、沙絵は下衆い笑みを浮かべて見せる。
私はその顔を見て、薄っすらと鳥肌を感じると、そのままファイルに目を落した。
「黒人の方は?パトリック・サンダー・ウォルシュっていう人の方」
「こっちは、今の所確保でしょうね。まだ大した事は起こしてませんし…下っ端と変わらず…沙月様との接触を任せられていて、幹部と言えば幹部ですが、大した力も無いようです」
「立派な経歴だけど?」
殺人鬼とは違って、黒人の方は割と"表の顔"がしっかりしている。
対面した時は、どっちも頼りなく見えたが…パトリックは、ガタイに違わず、ちゃんとその手の仕事に付いていたらしい。
「元海軍。沖縄にも居たともなれば…良く知らないけど、こんなサークルに傾向するかな?」
「どうでしょうね。兵隊さんではなく、裏方さんだったのかもしれませんよ?」
「このガタイで?それはないでしょ」
「外国人は見かけで判断出来ませんからね…」
沙絵はそう言うと、一つ溜息をついて私の顔をジッと見つめてきた。
「さて…正臣君から聞きましたよ。何か悩み事があるそうですね?」
話題の転換、私はファイルを開いたまま固まり、沙絵から目が離せなくなる。
「とりあえず、明日明後日は沙月様も出て欲しい所だったのですが…とりあえず、今どうなってるかを本人から聞かなければいけません」
沙絵は私が縋るように手にしていたファイルに手を伸ばし、それを取り上げると、少し優し気な笑みを私に見せた。
「最後に決めるのは沙月様です。ですが…すぐに決められる話でも無いでしょう。誤魔化す手段だけは豊富にあるんですから、焦らないでくださいね?」
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