176.人と妖の間に立っていると思ったが、ここまで中途半端なのも初めてだ。
人と妖の間に立っていると思ったが、ここまで中途半端なのも初めてだ。
金曜日の放課後、正臣と悪霊狩りに出かけた私を待っていたのは、行方知らずの妖と死体。
2人が連れてきたのは、人とも死体とも妖とも違う、独特な雰囲気を纏った化け物だった。
「入舸さん家の鵺やら天邪鬼がいるのなら、こういうのもいるって、普通な事だと思うっすが、いざ見ると…印象違うっすよねぇ…」
渠波根がそう言って、連れてきた黒いスーツ姿の男の背中をパン!と叩く。
生気を感じないその動き…刺激を与えられた男は、私達をジロリと見つめると、口から涎を垂らしながら、ニヤリと笑った。
「全く。これだから国際交流は嫌っすよね。訳も分からない存在を受け入れろだなんて言って。それは向こうも同じだと思うっすけど」
ゆっくりとこちらに向かってくる男。
渠波根はそれに興味を示すことなく、言いたいことだけ言って踵を返しかけると、ふと私達に目を向けてニコっと笑った。
「絵描きさん。貸し一つっすよ?彼らを手伝うつもりっしたが、思った以上に興覚めだったもので。あたし達もガッカリ来てるんすから」
そう言って踵を返す渠波根。
その隣に立ち、ずっと私達の方をニヤニヤとして見つめていたカフカは、フッと表情を消すと、ボソッと呟いた。
「いひひ…ガッカリ。だから、面白い事して、帰る。また会いに来るよ。絵描きちゃん?」
普段のふざけた口調ではない、ゾクリと背筋が凍る声色。
私達に背を向けた2人を追いかけようにも、気付けば周囲をスーツ姿の男たちが囲んでいる。
「沙月…これ」
「ちょっと、待って…」
ようやく”動き出せた”私達。
私は袖の中の呪符を探りつつ、これをどう切り抜けるか想いを巡らせる。
男たちは、焦らすが如く、走ってこない…ただ、ゆっくりとこちらに向かってくるだけ…
口から涎を垂らし、黄色く濁った犬歯を覗かせた顔をこちらに向けながら…向かってくるだけ。
一人なら対処は簡単なんだ…一人なら。
正臣さえ居なければ一暴れ出来ただろうに…
ん?正臣さえ居なければ?何を考えている?
「あ…」
僅かに混じった人ではない時の思考。
取り出しかけた呪符を黒く光らせたが…すぐにその光は消えていく。
それに打ちのめされた様な気持ちに支配された瞬間。
「沙月!走るぞ!」
正臣がそう叫んで、私の手を掴んだ。
「え?」
驚く私を引っ張る正臣。
彼の手には先が器用に曲げられた鉄パイプ。
見れば、私達が居た場所の背後は、どこかの会社の廃材が散らばっていた。
「正当防衛は付くだろ?」
威勢よく、男たちが固まっていない方へと駆けだす正臣。
私がそれに答える間もなく、彼は片手で持った鉄パイプを軽々と振り回した。
「どけ!」
進路上、塞いだ男に向かって、ヒュッと鉄パイプを大ぶりで振って、見事に空振る正臣。
簡単に背後へ仰け反り、ニヤリと嘲る顔を向けた男。
その次の瞬間、そのニヤケ顔は、驚愕と痛みに染まった。
「残念でした」
空振りはフェイク。
仰け反り、バランスが崩れた男の鳩尾に鉄パイプが突き刺さる。
先端は丸まっているから、貫通することはなく殴打に近いが、勢いに乗った一撃は、背後に崩れていた男を吹き飛ばすには十分だった。
「沙月、走るぞ!迷うな!」
1人男を吹き飛ばした正臣に手を引かれ、私は迷う間もなく足を動かす。
狭い路地、男を吹き飛ばした先に邪魔は見えない。
僅かに覆っていた悪霊の靄が正臣へ憑りついたが、正臣はそれを意に介さなかった。
「横通すぞ!」
そのまま鉄パイプを手にした右手を、背後を走る私の真横に突き出すと、ヒュッと鉄パイプを放る。
「え?」
私の真横で放された鉄パイプ。
その行為を不思議に思った刹那、私の真横で”突風”が吹き荒れた。
「っ!」
思わず目を瞑る程の突風。
彼に手を引かれながら、"突風"が吹き抜けた先に目を向ければ、鉄パイプがクルクルと回りながら、追いかけてきた男たちの方へと飛んで行った。
直後。
数名の男の悲鳴が上がる。
生気を感じなかった男…声を聞く限り、ちゃんと生きているらしい。
「この辺で良いか?」
私は正臣に手を引かれたまま路地を越え、人通りが少しだけある通りまでやってきた。
「あ…うん。あ、ありがとう…」
私は来た方を振り返りつつ、正臣にお礼を一言…
「らしくないな。動揺した?」
「え?うん。まぁ…そうだね」
「…なら、今日はここまでにしよう」
「え…」
「時間も丁度終わり際だったし。沙月、何があったのか分からないけど、泣きそうだぞ?」
「あ…それは…その」
人通りの少ない通り。
正臣はそう言って足を止めて、私の顔をジッと見つめると、僅かに目を細めて首を傾げた。
「沙月」
「何?」
「目の色、ちょっと変わってる」
「え?嘘?」
正臣に指摘されて、私はぼやけた視界を拭うと、スマホを取り出してインナーカメラで自分の顔を映し出す。
「……」
映っていたのは、瞳の色が僅かに緑色がかった私の顔。
それを見た私は、ポカンと口を開けると、表情を消してスマホを仕舞い、正臣の肩を両手で掴みあげた。
「いっ!沙月!?」
驚く正臣、だが、拒絶するような素振りは一切見せない。
私は彼の肩を掴んで、ギュッと両手に力を込めると、あやふやに歪んだ表情を彼に向けた。
「ね、正臣…私、どっちに居たいんだと思う?……」
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