175.共に行動する日が多くなると、日に日に姿が大きく見えてくる。
共に行動する日が多くなると、日に日に姿が大きく見えてくる。
金曜日の放課後、私は正臣と共に、久しぶりに"バイト"に出ていた。
「次に行こう」
「うん。…私さ、いる?」
「いる。1人で出来ると言えば出来るけど、長く持たないからね」
中断していた数日間、正臣は沙絵から何かかしらの手ほどきを受けていたらしい。
悪霊祓いの為に使うお札からは、正臣の霊力を強く感じる様になっていた。
「それに、万一グールとやらが来たところで、俺だけじゃ何も出来ないからね?」
「それもそっか」
「沙月だって、素なら逃げるでしょ?」
「逃ゲル。外人怖イ」
「……聞いた俺が馬鹿だった」
やって来たのは、この間、スーツ姿の男に追われて断念したエリア。
18時くらいまででやれるだけやろうと決めて乗り込んで、さっき祓ったので既に5匹目。
ここまで私は全く動いておらず、全て正臣が1人で仕事をこなしている状況…
私も、悪霊祓いの呪符は常に用意しているのだが、さほど強くない悪霊しか居ない今、私の役目は無に等しかった。
「そうだ。千羽から聞かれたんだけど、沙月、アイツを助けたりしなかった?」
綺麗になった区画からの移動中、雑談の中で出てきたのは、最近よく見聞きする人の名前。
ついこの間、グールに襲われかけた所を助けた、クラスメイトの男の子だ。
私は何も言わず、正臣が続きを話すのを待つ。
「どうも夜中にコンビニまで行った帰りに、変な男に追いかけられたところを変な女に助けられたとか言ってな」
「白い髪した和服姿の変な女だったって?」
「やっぱ沙月か。俺も適当に誤魔化したんだけどね?妙に引き下がらなくてさ」
どうやら彼は、私に聞く前か後かは知らないが、正臣にも尋ねていたらしい。
私はすんなり引き下がった千羽君の姿を思い起こすが、特に気になる素振りは無かった。
「私にも聞いてきて、誤魔化したんだけど。何か決め手でもあったのかな」
「見た目は全然違うけど、声が一緒だったって。俺の時もそうだったけど、その辺は隠す気無さそうだもんね」
正臣にそう言われると、私は「あぁ…」と声を出して苦笑いを浮かべる。
「口調は変えたと思うんだけどなぁ…」
「それだけで誤魔化せはしないでしょ。ま、千羽も、沙月に問いただしてやるつもりは無いみたいだし、迷惑かけんなよとは言ってあるから、もう気にしなくて良いだろうけど」
「そう。まぁ…良いけど。彼、そんなに食いつく子だったっけ?大人し印象しかないよね」
「俺も気になって聞いてみたんだ。したら、描いてる漫画のキャラクターモデルにするって。もし沙月だってバレたら、ちょっと面倒だったな」
そう言って正臣は口元に砕けた笑みを浮かべた。
私は僅かに背筋に寒気を覚えて、口元が引きつる。
別に、彼の趣味趣向に口を出すつもりは無いが…創作ネタにされるのはどうもムズ痒い。
「沙月、確かに漫画のキャラに居そうだもんな」
「正臣だってスポコン剣道漫画の主人公でしょ」
「こんな地味な奴よりはよっぽど向いてるって」
そう言って笑いあっている内に、角を曲がって次の"掃除場所"へ。
私達は雑談もそこそこに、笑顔を薄めると、暗くなった街を更に暗くしている靄に目を向けた。
「さて…次はこの辺か」
「1人なら絶対通らないね」
「あぁ、物騒だ」
暗く狭い路地の入り口で足を止めた私達。
正臣は、飛び込んできた霊を取り込むと、即座にお札を首筋に貼り付けて祓い、路地へと足を踏み入れた。
「ちょっと強いな。この辺の」
「私の出番?」
「まだ大丈夫…無理なら言うから」
「分かった」
路地を歩きながら、正臣の方へ次から次へと悪霊が憑りついては、正臣のお札によって祓われていく。
私はそれを横目に見つつ、路地の向こう側に見えるちょっと大きな通りの明かりをボンヤリと眺めていた。
「段々と様になってってる」
正臣の働きぶりを横で見ながら、ポツリと呟くと、7匹目の悪霊を祓った正臣が僅かに表情を歪める。
「ありがとって所で、そろそろ手を借りたいかも。やりすぎると気分に"くる"んだ」
「オーケー…」
正臣のヘルプを受けて、ようやく私はポケットから悪霊祓いの呪符を取り出して準備を整えた。
直後、正臣に悪霊が憑りついたのを見て、即座に彼の背中に呪符を貼り付け、念を込めて悪霊を祓う。
「ぐ…」
これで8匹目…自分の力で祓うよりかは"何かされている"感覚があるのだろう。
正臣は、久しぶりに感じる悪霊払いの呪符の力に、僅かに声を上げると、祓った後で私の方に顔を向けた。
「こんなに痺れるものだっけ?」
「さぁ…いつもと変わらないのだけど」
「俺が変わったせいかな」
「それもある」
路地の真ん中までやってきて、路地を覆っていた靄も大分晴れてきた頃。
そこで、私達以外の足音が聞こえて、私達は不意に足を止めた。
「「?」」
足を止めたのは、本能的な勘のお陰…と言えるのだろうか。
別に一般人が通り過ぎる事くらい、あって自然なのだろうが…何故か、私達は足を止めてしまう。
「いひひ…ひひひ…こんな所で、逢引。絵描き、隅に置けない」
物陰からそう言って現れた人物は、最近全く行方が掴めていなかった妖の女。
「そうっすね。死体の気配位、感じ取れるはずなのに気付かない辺り、かなり意識してるんじゃないっすか?」
そして背後からも人の声…振り向けば、妖女の付属品たる死体女…
私と正臣は、突然の出来事に戸惑いながらも、路地の隅に寄って行く。
「大丈夫っす。こんな所で騒ぎ起こして飛ばされても敵いませんからね」
「いひひ…そう…カフカ、探してた。絵描きを。ただ、伝言…それだけ」
前後を挟むようにして現れた2人は、私達に手を出す事なく合流すると、互いに腕を組んで私達の方へと顔を向ける。
「あの外国人、エラソーな事いう割に雑魚っしたね〜。使い物になんねっすよね全く。何のために来たんだか」
私達が2人をジッと見据えていると、渠波根がそう言って嘲るような笑みを浮かべる。
「でも、まだ負けたつもりは無いそうっすよ?何するか知らんすけど。今日は、アイツらの"持ち駒"と"秘密"を教えに来てあげたんす」
嘲る笑みで、冷たい声でそう言った渠波根の周囲に、何者かが蠢き始めた。
それは、以前も私達を襲った黒いスーツ姿の男たち…だが、その顔から生気を一切感じない。
「困るっすよねぇ…何も普通に絵描きさんに面会を申し入れればいいのに。グールを連れてきた挙句、グールの中には"連続殺人犯"すら潜んでるんすから。妖ではなく、人の世の法律でしょっ引けるっすよ?」
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