172.雑魚相手に、本気になるわけがないだろう。
雑魚相手に、本気になるわけがないだろう。
頭に付けていたお面をクルリと回して顔を覆った私は、呪符に念を込めて、窓から一気に飛び出した。
「沙月様!6枚までですよ!」
背後から沙絵の声。
お面の中でニヤリと笑うと、眼前で驚いた顔を浮かべて2階の窓をジッと凝視する外人2人の間をすり抜けて、街の方に散って行ったスーツ姿の男たちを追いかける。
どうやら、彼らは化け物とはいえ、まだ"人間"を色濃く残しているらしい。
飛び降りて、すり抜けて、お面をズラして半分だけ素顔を晒した私は、クルリと振り返ると「おい!」と威勢の良い声を外人に投げかけた。
「「!?」」
突如"現れた"様に見えたのだろうか。
2人は私の声に驚きを隠さない。
「その程度の雑魚に、本気なんか出してられっかっての!」
両手で中指を突き立てて挑発一発。
再びお面を被って"妖"になった私は、背後から聞こえるブーイングにも似た悪態を聞き入れる事もなく、遠くに見える黒い影達の方へ駆けていく。
素なら、男に脚力で敵うはずもないが…
今の私なら、追いつくことなど容易い事だ。
トン!と地面を蹴飛ばして飛び上がり、近くの民家の屋根へ。
夜目が冴える視界に捉えたのは、4人の人影…
もう1人、足が早すぎるのか、方向が違ったのか…何処へ行ったか知らないが…
まぁ、先ずはあの4人から片付けてやろう。
民家の屋根の上を駆けて、飛んで…手にした呪符に宿した真っ赤な光を感じながら、私はお面を半分だけズラして"人にも見える"姿へ。
「さぁて、肩慣らしと行こうかぁ…」
久しぶりに感じる妖の力。
その力に喜びを感じる自分がいた。
パッと手を離す呪符を離すと、ヒラヒラと舞い散った後、真っ赤な光と轟音が辺り一面を覆いつくす。
「夜分にこれは迷惑だわな」
一瞬といえど、爆発の様な轟音。
家の中に居れば、パァン!という音が響いているはずだ。
動物でも跳ね飛ばされた様な音…私は念のためお面で顔を隠して"姿を消し"、屋根の上から飛び降りると、目と耳を潰されて立ち止まった4人の前へ出る。
「肩慣らしには丁度良いか。明日は、ずっと居眠りだな、こりゃ」
英語の悪態…意味は分からないが、まぁ日本人と言ってる内容は大差ないだろう。
お面を半分ズラして、傷のある左側を外気に晒し、目を細めて下衆な笑みを浮かべた。
「何言ってっか知らねっけど。ここは日本だ。日本語で言ってくれなきゃ、分からないってさ」
徐々に視界が戻り、聴力が回復したであろう男たちは、眼前に立つ私を見止めて驚愕に表情を染め上げる。
道のど真ん中に立った私。
その手に握られていたのは、2枚分の呪符…
金色の輝きを宿したそれを、私はニヤケ顔を浮かべたまま、男たちの方へと突き出した。
「防人は妖を殺すような真似はしない。外人でもそれは平等にね。何処かへ"隠す"だけ。人の居ない世界で、足掻いてな」
そう言って、呪符からパッと手を離す。
金色の光は即座に発散して、目の前の"中途半端な化け物"達を包み込んだ。
断末魔の様な悲鳴が上がる。
それを聞いて更に口元を歪ませた私。
ここまで煩いと、誰かが窓から覗き込むだろうか。
お面で再び顔を隠して、"人から見えない姿"となると、私は再び近場の家の屋根の方へと飛び上がった。
「さぁて…残るはあと1人か」
誰かの家の屋根にしゃがみ込み、ポツリと呟く。
眼下で金色の光に包まれた男たちは、光と共にこの世界から姿を消していた。
あの4人がこの位置という事は、まだ遠くには行ってないと思うのだが…
というか、何故1人だけ別行動なのだろうか。
私の脳裏に様々な考えが浮かび、その度に周囲を見て回り、適当に屋根の上を飛び回るが、残る一人の男の姿は何処にも見られない。
徐々に尋ねた家からは離れていくが、男の姿は中々見つからなかった。
「どこだ?」
徐々に体が暖まって来た様な感覚…
それを心地よく思いながら、私は行き当たりそうな場所を探し回る。
大きな通りまで出たのだろうか?
いや、それで人が襲われれば、悲鳴の一つ上がるはずだ。
ならば、何処かの家でも襲ったか?
それとも、近くに別の拠点があった?
色々な想像が思い浮かんでは消えて行った。
こんな所まで来たのだ、逃がすような真似はしたくない。
「……?」
適当に飛び回る中、私の耳に何か声の様なものが聞こえた。
「そこか!?」
方角的には、海側の方…距離は、ちょっとあるがすぐ辿り着ける距離。
僅かな声を頼りにして、私はその方へと飛んで行く。
「誰か!」
近づいて行けば、眼下に見えるのは何かから逃げているラフな格好をした男の姿。
その背後、黒いスーツ姿の男が、全速力で彼を追いかけていた。
「テレビ番組かよ」
それを上空で眺めた私は、ポツリと呟くと、真っ黒い光を宿した呪符を手にして急降下。
トン、トン!と屋根を跨ぎ、お面を半分ズラして人に見える姿を取ると、男の眼前に飛び出した。
「うわ!」
急停止した男の顔、それはよく見れば、私と変わらない位の年の、幼い顔。
私は驚き、恐怖に顔を染めた男の子の元へ近寄ると、彼に手を伸ばして首筋を掴みあげる。
「ちょっと、失礼」
ニヤリとした顔を浮かべたまま、彼を連れ去り、首筋に手刀を入れて気を遠くさせた上で和服の袖で目を塞ぐと、スーツ姿の男から距離を取る。
そして、手にした呪符をパッと離すと、男の周囲を囲んでいた真っ黒なサークルが一気に爆発した。
「あぁっ!」
抱きかかえられた男の子が弱々しい悲鳴を上げるが、私はそれを意に介さずに、"最後"の呪符を取り出す。
それを金色の光で染め上げて、スーツ姿の男の方へ呪符を突き出し、手を離した。
「夜遊びするには早ぇよなぁ?ボーヤ。…今日はラッキーだったと思いな」
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