171.火遊びが過ぎれば、少しは痛い目を見せても良いだろう。
火遊びが過ぎれば、少しは痛い目を見せても良いだろう。
バーガーデビルで再びあった外国人2人組…2度目の遭遇を、私達が逃すはずも無かった。
あの場をやり過ごした直後、上空で待機していたメノウとニッカが彼らを追跡…見事に彼らの滞在している家を突き止められたのだ。
「で、昨日の今日で驚かせに行くわけだ?」
「流石に、好き勝手され続けても困りますから」
水曜深夜25時…明日の学校はもう諦めて睡眠学習に浸る事に決めて、私は沙絵の運転する車で、外国人2人が泊まる民泊の方へ向かっていた。
「しかし民泊とは…公になってない所に泊まられると探すのは難しいものですね」
「本当はやっちゃダメなんだっけ?」
「どうでしたっけ。良く分かりません」
眠い目を擦りながら、久しぶりにお面を頭に付け、寝間着代わりの和服に身を包んだ私は、沙絵から渡された数枚の呪符が入った袖に手を入れてもぞもぞと呪符を弄る。
時折、チラチラとサイドミラーに映る私の顔は、白菫色の"素"の私だ。
「どこまでやって良いの?」
「普通に隠してしまっても良いのですがね。対話目当てであれば、話位は聞きましょう」
「話の通じる相手じゃないと思うけど」
「だからといって、見敵必殺では示しが付きませんから。ここが異境なら別ですが」
「それもそうか…」
古い車の助手席から見える景色は、家の近所…とまでは言わないかもしれないが、そう遠くも無い住宅街。
よくよく思い返してみれば、あの2人がバスに乗って来た時、この近辺のバス停だった気がする。
まさか、観光でも何でもなく、拠点の最寄りのバス停だとは…誰がそう思うだろう?
「2人だけとは限りませんよね」
「まぁ、どれだけ居るか知らないけど」
「呪符で逃げたんでしたっけ?」
「白いの光らせただけで青褪めてたよ。あれが演技なら…ハリウッドスターになれるさ」
私はそう言いながら、呪符を1枚取り出して僅かに念を込める。
ボウッと黒い光が呪符を包み込み、すぐにそれを消すと、沙絵はその様子を見て僅かに口元を歪めた。
「本当に調子が良い様で」
「毒に浸ってないとダメなんだろうね」
「でしょうね。正臣君、沙月様の事、良く分かっていられますよ」
本音半分、皮肉交じりな沙絵の一言。
私は苦笑いを浮かべて受け流すと、丁度件の民泊がガラス越しに見えてくる。
「あれですか」
「随分と急な坂の途中だこと」
「小樽ですから」
住宅街…山の斜面に沿って建った家。
車が止まると同時に、私はドアを開けて外に出る。
夜の寒さに一瞬体を震わせたが、今の体調では、そこまで寒さはキツく感じなかった。
「この家?」
「えぇ」
沙絵が降りてきて、私は沙絵について民泊の玄関へ…
民泊だ民泊だと言っても、見た目は只の一軒家。
その辺にありそうな二重玄関の1つ目の引き戸を開けて中に入ると、沙絵は躊躇なくインターホンのボタンを押した。
ピンポーン…という、気の抜けた、深夜に似合わない音が聞こえてくる。
既に暗くなっていた家に明かりが灯ると、中からドタバタとした音が聞こえてきた。
「起こしちゃいましたかね」
「どうだか。普通、グールって夜行性なんじゃないの?」
「創作では。現実がどうなのかは、知りませんね」
緊張感が微塵も無い私達。
カメラ付きインターフォンは遂に家主の音も発することが無く、玄関扉の鍵が開けられた。
「何ですかこんな夜遅くに…」
目を擦りながら出てきたのは、気の弱そうな中年男。
私と沙絵は、想像と違う人物が現れたことに戸惑いながらも、沙絵が一歩前に出た。
「すみません。こちらに外国人の男が2人、泊まっていたりしませんか?」
落ち着いた声…それでも、何処か凄味を感じる声。
沙絵の問いかけに、男は僅かに目を泳がせたが、すぐに口を閉じて首を左右に振った。
「そうですか。ちょっと用事があって探してて、この家に入っていったと言われたもので」
すんなり引き下がる素振りを見せる沙絵。
一切口を開くことが無い家主の男は、それを見て僅かに安堵の表情を浮かべるが、口を固く閉じたまま、動かすことをしない。
私は、その妙な素振りを見逃さなかった。
「ねぇ、おじさん。ちょっと口開いてみてくれない?」
沙絵の背後から一言、男に問いかける。
男はドキッとした素振りを見せて一歩下がると、そのまま何も言わずに玄関扉を閉めようと手を伸ばした。
「おっと、力比べで人には負けませんよ?」
私の質問の意図も、男の本性も、とっくに見抜いていたであろう沙絵が扉を抑えてニコリと笑う。
残念だが、男の敗因は、チェーンをかけて応対しなかった事だろう。
「ちょっと家、改めさせて貰いますね」
沙絵はそのまま扉を開けて玄関に押し入ると、男の首筋を蹴り上げて男を家の中へと吹き飛ばした。
「ぐふぅ!…」
小太りの体が数メートル分吹き飛んで、グシャっとフローリングの廊下に転がる。
私達は玄関で靴を脱ぐこともせずに中へと押し入った。
「呪符を使っておびき出す?」
「いえ、家探しで十分でしょう。この男、グールになってますよ」
押し入った私達。
沙絵は気絶した男の口を強引に開けていて、チラリと見やると、鋭い犬歯が見えた。
「連中が来てからなったか、はたまた元から連中の側に居たかで話が違ってくるね」
私はニヤリと嫌な笑みを浮かべて家じゅうを探し回る。
居間や客間…そんなに広くない家には、確かにこの男以外の"匂い"が残っていた。
「スーツケースが2つ。デカいのがあるよ」
「決まりでしょうか。なら、何処へ?」
「外かな?」
そう言いながら窓を開けると、私の真横に風穴が1つ。
驚いて頭を隠し、再び、そっと窓の外に顔を向けると、私達が乗って来た車の横に人影が2つ。
「ダイタンナ マネ スルネ!」
カタコトの日本語、それは家主の男を探っていた沙絵の耳にもしっかり届いている。
「イリカ サツキ!イマカラ テストネ!」
黒人男がそう叫ぶと、男たちの周囲に、何時か見た様な黒いスーツの男が4,5人現れて、それぞれが街へと散って行った。
「ホンキ ミセテヨ!ジャナイト グール フエチャウヨ!?」
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