170.不安だけ煽られるというのも、イライラしてくるものだ。
不安だけ煽られるというのも、イライラしてくるものだ。
インビジブル・サークルなる存在の尻尾も掴めず、小樽入りしているはずのカフカと渠波根の行方も掴めない…まだ数日しか経っていないし、実害も出ていない以上、大っぴらに動くことは出来ないのだが、こうも焦らされるとムズ痒さだけが残るというものさ。
バスで外人2人に声をかけられた次の日、全くいつも通り退屈な1日を終えた私は、ジュン君と共にバスに揺られていた。
「沙月、ちょっと時間潰しに付き合ってほしいのです」
帰りのショートホームルームが終わって、帰ろうかという所にやって来たジュン君。
彼女の言葉に二つ返事で乗って、私は彼女と学校を出て、バスに乗り…
ようやく小樽駅まで辿り着く頃。
「お姉さんが用事で遅れるので、それまでの時間つぶしなのですよ」
「なるほどね。その待ち合わせが駅だと」
「そうなのです」
「時間つぶし…ねぇ…何か見たいものとかある?」
「それが…ないのですよ。全くノープランです」
ジュン君と2人というのは、中々に珍しい。
バスの前の方に立って吊革に捕まる私達。
だが、それも後少し…バスが駅前の停留所に止まると、私達は真っ先にバスから降りて適当な場所に歩いていった。
「どれくらい?」
「30分ちょっとだと思います」
ノープラン…私も、こういう時何処へ行くべきかを知っている人間ではない。
遊ぶのは苦手…というか、最近の若者の感性は持ち合わせていないのだ。
「バーガーデビル…?」
その結果、指さしたのは、駅にあるハンバーガーショップ。
ジュン君がどこか行きたいところがあれば、全然それでいいのだが…
「良いのですよ。ちょっとしたおやつです」
ジュン君もジュン君で、"私側"な人間なのだろう。
周囲を見回して何かが無いか探しつつも、最後は何も思い当たらなかったらしい。
放課後難民?な私達は、並んでバーガーデビルの方へと歩いて行く。
中に入ると、それなりに人はいるが…そんなに待つことなく注文を終えて、適当に空いている席へ。
2人分のトレーをテーブルに置いて、隣の椅子に鞄を置いて、席に付くと、私達はふーっと小さく溜息をついた。
「最近、ずっと体育があるのは嬉しいのですが、疲れますね…」
「ね…って、ジュン君でも疲れるんだ」
「ボクはそんなに体力無いのですよ?」
「いやいや、ジュン君で無いなら私はどうなるのさ」
他愛のない雑談。
私はそう言って笑いながら、コーラのカップにストローを突き刺してチューっと啜った。
「沙月の方こそ、元の格好になってから体力が有り余ってそうなのですよ」
「体育とかの時は素だよ。今は…体が軽いけどね。帰ったらすぐにバタンキューってわけ」
「そんなに違うものですか?」
「うーん…違うというか、体のつくり自体変わってる…に近いのかな?」
そう言いながら、袖に手を突っ込み、適当に呪符を取り出して見せる。
黄紙の様な、余りに強い呪符はまだ持たせて貰えていないが…白紙の呪符の様なものを纏うだけでも、大分体も気持ちも落ち着くのだ。
ジュン君は取り出した呪符をジーっと眺めながらポテトを摘まむ。
呪符に触れては毒だから手は出してこないが…少し触りたそうな目線を浴びると、ちょっと気まずい。
そう言えば、穂花には呪符を使って手当したことがあったっけ…
気付けばもう半年以上も前、まだ中学の時だけど。
「ダメだよ」
「何も言ってないのです」
「目がもうね。全部語っちゃってる」
私はそう言って笑うと、自分の分のポテトを一本摘まんだ。
「そう言えば、ジュン君。帽子はもう被らないの?」
ポテトを飲み込むと、話が段々と"人前で話せる内容"じゃなくなったからと、露骨に話題を変えに行く。
ジュン君もそれを察してくれたのか、少しハッとした顔を浮かべると、コクリと頷いて鞄をちょんと突いた。
「違うのです。行きも帰りも送ってもらってるから要らないだけなのですよ」
「ふーん」
ジュン君のイメージと言えば、行き帰りの時に必ず被っている紺色のキャスケット。
「被ろうにも、私は既に被ってる様なものか」
私はウィッグで誤魔化している髪を摘まみながら、そう言うと、ジュン君は僅かにツボに入ったのか、クスッと笑った。
「そう言えばそうでしたね。沙月の場合、要らないのです」
「ま、そもそも帽子を被る習慣が無いけどもね」
「大事なのですよ?帽子。被らないでずっと外で日差しを浴びてると、頭痛くなるのです」
「なった事あるかも。1日中ずっと海で泳いでて、頭は痛いわ、日焼けは酷いわで…」
「そんなお転婆さんだったんですか…」
「落ち着いた…とは思うんけど、まぁ…うん。見ての通り」
「そう言えば、穂花と楓花からたまに聞くのですよ。昔の沙月の奇行」
「奇行って…」
「色々聞いてて、嘘?って思うのも…ん?」
続いていた他愛ない会話の流れが、急に途切れてしまう。
ジュン君は私の背後の方をチラリと見やると、僅かに顔を青くして私に隠れるように姿勢を正した。
「どうかした?」
突然の変わり様…
私は後ろを振り向かず、ジュン君に尋ねると、彼女は僅かに私の方に顔を寄せた。
「いや、さっき入って来たお客さんがずっとこちらをチラチラ見ていたのです。で、さっき目が会ったら、ニヤって…」
どうやら、背後の方の席に、タチの悪い大人が居るらしい。
ジュン君、それなりに人目に引くものな…イケメン系でボーイッシュだし。
「なるほど?」
それを聞いて、私は僅かに口元を歪ませると、ゆっくりと背後を振り向いた。
相手になる…つもりは毛頭ないが、度が過ぎてる様なら、店員さんを呼ぶことくらいしても良いだろう。
振り向けば、そこに居たのは、昨日、バスで出会った"グール"の男2人。
彼らは私が振り向いた事に気付くと、犬歯を見せてニカっと笑みを見せた。
「舐められてるな」
私はビクッと反応して、低く震えた声を上げると、丁度テーブルに載せていた呪符を掴んで念を込める。
「Wow!」「Shit!」
ボッと妖にしか見えない黒い"光"が、一瞬の内に辺り一面を包み込むと、2人は一瞬で顔を青褪めさせて離れて行った。
「沙月…?」
ジュン君の不安げな声、外人2人を"退散"させた私は、下衆い笑みを浮かべてジュン君の方へと向き直る。
「いや、ちょっと驚かせただけさ。軽いジャブみたいなものさね。舐めやがって…」
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