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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
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169.注意しろと言った傍から、帰りが遅くなるのもどうだろうかと思う。

注意しろと言った傍から、帰りが遅くなるのもどうだろうかと思う。

皆に私の悩みを打ち明けた次の日、火曜日の放課後。

本来であれば、授業が終わってすぐに帰るはずだった私は、予想外の用事が重なり、学校を出るのが5時半頃になってしまった。


「あれ、沙月?」


生徒玄関で靴を履き替えていると、丁度部活が終わった直後みたいな雰囲気の正臣がやって来る。


「正臣。今、上り?」


そう尋ねながら正臣の来た方を見てみれば、他の部員たちの姿が。

正臣は「うん」と頷くと、靴を履き替えて、立ち止まった私の下までやって来た。


「丁度よかった。帰ろ」

「あぁ」


私はそう言うと、正臣の横に並んで歩き始める。

学校を出て、バス停まで徒歩3分。

周囲に疎らに見える高校生に紛れて歩いていく。


「寄り道は無しだよ?」

「する気も無いって。連中はどうか知らないけど」

「連中…あぁ。そこまでは面倒見れないや」


いつもの何気ない会話…

チラリと後ろを見やれば、私達を見て何かを言ってる正臣の部活仲間の姿が見えた。

学校からも"気を付けろ"と言われただけで、部活が中止になったりはしていない状況…

私だって、彼らの立場なら、気にせず遊び歩いているのだろうか。


「こんな薄気味悪い女といて大丈夫?」

「自虐するな。誰もそんな風に思ってないっての。俺はほら、この間、"会ってる"し、不用心にぶらつくつもりは無いよ」

「流石」

「そっちこそ、なんだって学校に残ってたのさ?」

「色々あってね。出した課題の事で先生に呼び出されて、終わったと思ったら担任に体育祭のアレコレで頼まれごとして、気付いたら今さ」

「災難だったね」


正臣はそう言って笑うと、私も釣られて口角を吊り上げた。


「で、どう?変わりない?体調は」


周囲の目を気にしつつも、細々と体調を聞いてくれるのは、正臣なりの思いやり。

私は惚けた様に肩を竦めてお道化て見せてから、クスッと笑うと、小さくサムアップして見せた。


「はいはい」


そんな私に呆れ顔を見せた正臣。

バス停まで歩いてくると、私達以外に並ぶ者はおらず、珍しくバス停で2人きりになれた。


「次のバスって何時さ」

「あー…あと3分。案外、丁度良い時間だったんだな」

「したら珍しいね。誰もいないの」

「な、普段ならちょっと並ぶのに」


肌寒さが日に日に増してくる近頃…

再び呪符を纏う格好になった私は、この間ほど寒さに悩まされる事は無いのだが、それでも時折吹いてくる風には体が震える。

バス停に並んでからの3分は長く感じたが、やがてバスがやってきて、私達は後ろの方の2人席に座った。


ここから、最寄りのバス停まで大体30分くらい。

席について、重たい鞄を膝の上に置いて…ふーっと溜息をつく頃には、車内の空調の暑さに顔を歪める私がいた。


「外に出たら出たで寒いけどさ、中に入ったら入ったで暑いよね」

「贅沢だな。でも、同感。効きすぎ」


そう言いながら、互いに着ていた上着のボタンを幾つか外して手うちわで顔を扇ぐ。

何てことの無い帰り道、いつも通りのバスの中…

暗くなった窓の外を見ても、この間ほど"悪霊"の気配は感じない。

まだ、消しきれていないのが幾つか飛んでいる気がするが…

今はそんな"雑魚"よりもグールへの対処の方が先だ。


「まだ暫く休み?」


外を見ていた私に、正臣が話しかけてくる。

窓の外から彼の方に顔を向けた私は、コクリと頷くと、正臣は「そうか」といって窓の外に目を向けた。


「俺達が出てた先週に比べれば、ちょっとマシな気がするけど。まだいるよね」

「えぇ。消しきれてないのが。でも、被害らしい被害も無いから一旦放置。今は別の方に付きっ切りさ」

「そっちは進展なし?」

「えぇ。あの女2人も行方知れずで、外人もサッパリ。観光客の方が多いってさ」

「まぁ、そりゃそうだろうよ。歩けば中国語ばっかだもんな」

「偶にハングル、極稀に英語だ」


薄い笑みを浮かべてそう言ってる間に、バスは街の中の方へ。

幾つかのバス停で止まって、乗客が乗ったり降りたりしている普段通りの光景を流していると、不意に乗って来た2人組の男に目が向いた。


「外人だな」


正臣も気になったらしく、ボソッと呟く。

小樽駅まで後少し…そんな中、近くに何も観光名所も無い所で乗って来た外国人2人組。

普段ならば絶対に気にならないが、私達はつい彼らの方へと目を向けてしまう。


「バックパッカーみたい」


だが、2人の格好を見るだけ見て、私も正臣も注意から外れた。

2人共背が高い欧米系の人間だが…大きなバックパックを背負って、地図の様なものを手にしている時点で、恐らく違う。

2人は特に変な様子も無く、私達の座る方へ歩いてくると、私達の前の2人席に腰かけた。


「この辺、見る物あったのかな」

「さぁ…私達が気にならなくてもってものもあるんじゃない?知らないけど」


前に外人が来たものだから、少し小声になって話す私達。

1人は金髪の白人…もう1人は、やけにガタイが良い黒人。

グール関係じゃないと言えど、それなりに迫力というか、得体の知れなさを感じられた。


外人を見て僅かに緊張感が増した以外は、特に何も無く…私達は最寄りのバス停までやってくる。


「やっとか」


ベルを押して、溜息を一つ。

どうせ小樽駅で降りるだろうと思っていた外人はまだ乗っているが…そんなことはもう気にならなかった。


私達が準備を整えている間にバスが止まり、私達は席を立って前方へ…

正臣が先に行き、私が彼に続いて足を踏み出した時。

私達の前に座っていた外国人が、私の方へ顔を向けた。


「キイテル ハナシ ホド ジツリョク ナイナ」

「ツカエナイ タダノ コドモ ダッタラシイ」


通りすがりに言われた小さなカタコト言葉に、私の背筋はゾッと凍り付く。

白人と黒人のコンビ…チラリと見やれば、彼らの犬歯は人間のそれと大きく違っている…

それでも足は止めずに、何も聞かなかったという風に正臣の後に続いた私は、定期を見せてバスを降りると、すぐに正臣の手を引いて彼の注意を引いた。


「どうした?」


正臣は私の方を振り返る。

直後、バスは扉を閉めて、走り出した。

乗っていた外人2人は、私達の方を見る事もなく、ただの"乗客"としてバスと共に去って行った。


「アイツら、グールだったのか」


お読み頂きありがとうございます!

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