表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
167/300

167.あの約束を果たせる人が、どれほどいるのだろうか。

あの約束を果たせる人が、どれほどいるのだろうか。

日曜の昼下がり、唐突に現れた強い食人衝動…

苦しさに苛まれている最中、帰って来た沙絵と正臣。

我を忘れた私は、目の色を変えて正臣に襲い掛かっていた。


「うぉっ!」


沙絵の制止も効かず、呪符を使って足止めもできない彼女の横を通り過ぎて…

あっという間に正臣の眼前へ。

首筋目掛けて手を伸ばすと、驚愕に染まった顔を浮かべた正臣は、それでも冷静に私の手を掴みあげた。


「…っとぉ!」


腕を捕まれ、勢いをそのまま利用されて…

足をかけられ、フワッと体が浮き上がり…

一瞬のうちに、私の視界に天井が映り込む。


そのままクルリと1回転。

そのまま床に叩きつけ…られる前に、正臣は少し強引に私の腕を引いて、私を床に座らせた。


「……」「……」


それでも、多少の衝撃はある。

その衝撃で、私は自分を取り戻し、困惑した表情を浮かべてクルリと首を回した。


「沙月、大丈夫?」

「え?…うん。ごめん」


何とも言えない空気が流れる中、正臣は冷静で、パッと私の手を引いて立たせてくれると、トンと額を小突いてくる。


「やっぱり、殴って止めるのは無理だね」


正臣はそう言って小さく笑うが、私はどういう顔をしていいのやら。

そうしている間に、沙絵がやってきて私の手を引き居間の方へ引きづられて行った。


「もしかして、部屋にいなかったんですか!?」


椅子に座らせられると、怒声混じりの沙絵の声が耳に響く。

私は首を左右に振って否定すると、ボサボサの髪に手を伸ばした。


「部屋で寝てたよ。さっき起きて、テレビ見てたら急に…そこに2人が帰って来たのさ」

「え…」


事情を話すと、沙絵の勢いが一瞬止まる。

大方、私が部屋に戻らず"妖気が少し漂う"居間にずっといたとでも思ったのだろう。

私は次の言葉を探している沙絵の手を取ると、沙絵の手を頭に載せる。

狐耳と、羽が生えたあたりを触らせると、沙絵の表情は一瞬のうちに引きつった。


「なぜ…」


沙絵は驚きつつも、連れ帰って来た正臣の方を一瞬チラリと見やって私から手を放す。


「厄介な事がまた1つ、増えましたね」


そう言って、溜息をつきながら、沙絵は私から手を放して隣に座る。


「すいません、こちらに」

「はい」


その様子を眺めていた正臣が、沙絵に示されて向かい側の椅子に腰かけた。


「申し訳ありません。次から次に巻き込んでしまって…」


正臣を連れ帰って来たと言う事は、何かあるのだろうが…その前に謝罪から始まる会話。

沙絵が頭を下げた横で、私も頭を下げた。


「ごめんなさい」

「良いですって!全然…気にしなくて…沙月には元々忠告されてましたし」

「そうなのですか?」

「はい。こうなるかもしれないから、殴ってでも止めてくれって…流石に女の子は殴れないですけど」

「ふむ…そうですか…」


沙絵は正臣の言葉を聞いたのち、私の方にジロリとした目を向けてくる。

私が彼の言葉を肯定する意味で頷くと、沙絵はそれ以上何も言ってこなかった。


「…沙月様のは後でどうするか考えるとして、正臣君の方から片付けましょうか」

「すいません、お願いします」

「いえ、これも仕事ですので」


沙絵はようやく本題に入ると、懐から幾つかの呪符を取り出してテーブルに並べた。


「沙月様にも知っておいて欲しいのですが、正臣君の力は彼由来のものでした」

「へぇ…家系?」

「それは無いかと。何かの拍子に得られたものでしょうね」

「私とツルんでたからとかじゃないの?」

「それも無いでしょう。昔は、幽霊が"視える"者が大勢いたんです。それは今の人間にも言える事…表に出て来てないだけで、正臣君には強めの素質があったのでしょう」


そう言いながら、沙絵は取り出した5枚の呪符を正臣の方へ向ける。


「その辺りの仕組みは分かっていません。宝くじに当たったものと思ってもらう方がまだいいでしょうね」

「で、その呪符は?」

「この5枚であれば、正臣君にも"操れる"ものなので、それを預けようかと」


さも当然のように言われた内容に、私は目を丸くする。

防人達は平気で扱うから麻痺しているが、一般人にとって呪符は毒なのだ。


「正気?」

「えぇ。大丈夫です。妖に効く類の物では無いんですから」


私の問いに沙絵はそう答えて、1枚の呪符を私に寄越す。

それを手に取り、久しぶりに"念を流す"事をしてみたが、その呪符は何も反応しなかった。


「呪符は妖力を込めて作られて、妖力で発動します。この"お札"は別の力が必要なんです」

「別の力」

「沙月様、霊力使えましたっけ?」

「さぁ…使ったことも無いや」


私は沙絵に言われて、"大丈夫"と言われた意味が理解できた。

本来、人間しか持たない力を使う訳だから"悪影響"がある訳が無い…そう言いたいのだろう。


「防人の人達は案外、扱えないんですよね。妖力が強くて…きっと沙月様もでしょう?」

「うん。私には無理だ」


そう言って苦笑いを浮かべて、呪符というより、お札を正臣の方へ戻す。

霊力と聞いて、理解は出来るが使い方は全く…お札は私にとって只の紙でしかなかった。

その様子をじっと見つめていた正臣は、不思議そうな顔を浮かべて、私が返したお札を手に取る。


「正臣様には、これから"手伝って"頂けるというので、これらを扱えるようになってもらいたいのです」

「なるほど…と言っても、俺が霊力とやらが使えるとは…」

「あの力があれば使えます。そのサポートで沙月様が必要だったんですよ」

「へ?私?どしてさ?」

「力の使い方自体は似ているそうなので。あと、多少ですが正臣様に妖力を流し込んでやれば、自ずと正臣様が霊力の使い方を会得するでしょう」


沙絵はそう言うと、久しぶりに見た"白紙の呪符"を取り出して、私の首筋に貼り付けた。


「さっきの事を考えると怖いのですが…人が"勝手に"封印している霊力を解放するためです。ちょっとだけ"人由来"の"妖力"を分けてあげてください」


そう言われて念を込められ、久しぶりに私の中で"妖"の活力を感じられた。

何か枯れた様な感覚に陥っていた私は、"満たされる感覚"で僅かに口角を上げると、正臣の方に顔を向ける。


「なるほど…そういうことなら…正臣、ちょっとこっちを向いてくれない?」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ