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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
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166.日曜午後の昼寝は、何故か損した気分になってしまう。

日曜午後の昼寝は、何故か損した気分になってしまう。

昼食の後、沙絵と正臣が外に出て、家に1人きりになった私は、何気なくベッドの上に寝転がり、気付けばそのまま眠りに落ちてしまっていた。


「あー…しまった」


午後の中途半端な時間に眠ってしまうと、夜に眠れなくなってしまう。

心地よい微睡状態から覚醒した私は、自室の天井を眺めながら後悔を呟く。

まだ僅かに残っている眠気を追い払って体を起こすと、僅かに日が傾きかけた時間帯の日差しが部屋に差し込んでいた。


「あったか…」


温い部屋、じんわりと残った疲労感。

寝て起きて、さっきまで悪い方に振れていた気持ちは僅かに良い方へと転じていたが、そこに何とも言えない喪失感が襲ってくる。


本来であれば、午後も何かかしら動いていた日。

私は、部屋中に張り巡らされた呪符を見回しながら、ボサボサになった頭を掻きむしった。

正臣と練習していた頃から"素"に戻っているから、視界には時折、白菫色の髪がチラチラと映り込む。


「んー…」


まだ眠気を強く感じる体を気だるげに動かしてベッドから降りた私は、"居心地が悪くなった"自室を出て、居間の方へと歩いていった。

視線を体に落すと、着ていた私服は、昼寝のせいで皺くちゃ…

それを気にする事無く、居間までやって来た私は、居間を一旦素通りして、台所へと向かっていく。


ガチャっと冷蔵庫を開けて、お茶のペットボトルを取り出してきて、適当に取り出したコップに注いだ。

ペットボトルを元に戻して、冷蔵庫を閉めると、コップを手にして居間の方へ。


さっきまで3人で囲んでいたテーブル席の一角に座ってお茶の入ったコップに口を付けると、冷たいお茶がまだ半分眠っていた頭をスッキリさせてくれる。


「はぁ~……」


溜息を一つ付くと、テーブルの上に置かれたテレビのリモコンを取って、テレビの電源を入れた。


「何もやってないか」


適当にチャンネルを変えるが、日曜日の昼下がり…番組には期待できない。

それでも、ずっと昔に見ていたドラマの再放送を見つけると、私は机に頬杖をついた。


とりあえず、これで時間を潰そう。


退屈な日曜日の午後。

居間のテーブルに置きっぱなしだったスマホを覗いてみても、何の通知も入っていない。


いつも通りだ。

こういう時は、何かかしらアプリでも入れようか?とも思うのだが…

結局、触らなくなる事が目に見えているので毎回、そう思うだけ。


「……」


何度も見たことがある、古いドラマをジーっと眺めつつ、時間を無駄にする私。

いや、今の私の状況を考えれば、無駄では無いのだろうが…それでも、ここまで何もしないというのは、ちょっと体に悪い気がしてたまらない。


「暇だ…」


こうなった切欠は先々月、鬼沙との1件で"妖として進化"してしまった私。

事あるごとに体も思考も変調し、"遂に妖になってしまったか"と思っていたのだが、あの時の格好は、そんな記憶が可愛く思える程に"妖になってしまって"いた。


鬼沙の1件の最後は、派手にやりあった挙句、瀕死に追い込まれて終わりを迎える。

そこから回復して、姿だけはキチンと人に戻れたが、まだ"妖"らしさが中に残っていた。

妖な面が残りつつも、こうして日常生活を送れるようになったのは、恐らく奇跡に近いんだろう。

一歩間違えれば、沙絵の手で異境送り…もう少し間違えれば、京都の本家に全身を繋がれた状態で幽閉でもされていただろうか?


何もかもがボロボロになりながらも人に戻って、呪符無しの生活で自分の弱さを改めて実感して…そして、食人衝動とかいう、嫌な後遺症に悩まされる日々。

"見た目と思考"までは人間で…中身は"半分妖"と言うべきだろうか。

それが、今の私。

呪符を使おうものなら、いつ"戻ってこれなくなる"か分からない。


「んぁ…」


ドラマは何度も見た内容…先の内容が分かるそれを見続けて、一度は消えた眠気が再び襲ってくる。

欠伸を一つして、目じりに涙を溜めた私は、お茶で喉を潤して、眠気を何処かへ追いやった。

これ以上眠ってしまっては、明日に響く。


家に一人…思い返せば、滅多にない状況だ。

一人に慣れていない私は、リモコンを取って、適当にチャンネルを変えていく。

適当に2つ3つ変えて、映ったのは野球中継。

野球に全く興味は無いが、先が読めるドラマやら、テレビショッピングよりかはマシだろう。


リモコンを置いて、お茶を一口飲み、そして何気なく頭を掻く。

さっきから、何故か痒みを感じる頭…

変なウィッグの付け方でもしただろうか?と思いながら、手を頭に載せて触っていくと、コリっとした変な感触が手に伝わった。


「?」


それは、頭の左上辺り。

おかしいと思って触っても、コリっとした感触が返ってくる。


「……」


その感触が"勘違い"じゃないと分かった時、私の心臓が一際大きく跳ねた。

心臓が跳ねた一瞬の苦しさに目を見開いて、私は頭の右側に手を回す。


「……」


大体同じくらいの位置で、手にはコリっとした感触が返って来た。

その位置は、妖になった時、大きな狐耳が陣取る位置。

何気ない仕草で、一気に暇な時間が様変わりしてしまう。

バクバクと動き出した胸元に手を当てつつ、頭中を触って他に異常が無いかを探り始めた。


「……」


2つの角の位置は額…そこには何も無い。

後頭部…体を覆えるほどの羽が生える位置…そこにも僅かなしこり。

私は全身から嫌な汗を感じつつ、それと同時に、異常な"喉の乾き"を感じた。

震える手でコップに手を伸ばし、残ったお茶を全て飲み干すが、乾いた感覚は、お茶では潤せない。


そこでもう一度、ドクン!と心臓が跳ねる。


「!!」


私が、求めているもの…

それが頭にチラついた所で、玄関の方から聞こえた物音にビクッと体が震えた。


「沙月様、戻りましたー」


聞こえてくるのは、沙絵の声と…1人分じゃない物音。

両目をこれ以上にないほど見開いた私は、バクバク動く胸元を抑えながら、居間の方へ近づいてくる物音の方に顔を動かす。


「沙月様?…あれ、ここに居たんですか。正臣君の事で少しお力を…」


「え?沙月様!?ちょっと…まっ…!正臣君!逃げて!」


「…止まれ!沙月!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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