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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
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165.煮え切らない気持ちが募る時は、体を動かして少しでも忘れたい。

煮え切らない気持ちが募る時は、体を動かして少しでも忘れたい。

スモウバーガーを後にした私達は、徐々に増えだした人の中に紛れて私の家に戻っていた。

途中、正臣の家に寄って…"部活道具"を持って私の家へ。


「最後はさ、ちょっと真剣になってくれた?」

「最初っから真剣だったって」

「そう?大分接待された気がするんだけど」

「ないない。なら、今度部の皆の相手にしてみてよ。多分、副部長までなら倒せるから」


家の離れに建つ道場で、久しぶりに竹刀を交わらせていた。

高校1年にもなれば、体格差は歴然としているし、"更に腕を上げた"正臣にとっては暇でしか無いだろう。

それでも、やり始めれば夢中になって、動き続けて気付けば12時半過ぎ。

久しぶりに汗が気になる程度の運動ができた。


「というかさ、マネージャーで来てくれるなら、女子の方の助っ人が良いんだけど」

「やってもマネージャーまでだよ」

「だよなぁ…練習相手も無し?」

「無し」


最後に1本、私的には攻めきれたかな?という所でお腹の虫に負けて練習終了。

それぞれ私服に着替えて、居間で駄弁っていた。


「ありがとうございます。沙月様の我儘に付き合って頂いて」


駄弁っていた所に、沙絵が料理を運んできてくれる。

今朝の事で忙しくなってしまったから、簡単にインスタントラーメン。

それにトッピングがついて、おにぎりと玉子焼きが付いてきた。


「ありがと」

「すいません、お昼…頂いちゃって」

「いえいえ、無理を言っているのはこちらですから」


沙絵の分もあって、3人でテーブルを囲むお昼。

普段と違う状況に、ほんの少しだけ高揚感を感じたが、すぐに今の現実を思い起こして曖昧な笑みしか浮かべられない。


「「「いただきます」」」


いつもよりも少し遅い昼食。


「そう言えば、今朝の話は本当ですか?霊を操ったというのは」


最初こそ無言で食べ始めた私達だったが、話はすぐに今朝の事に。

沙絵が正臣の方を向いてそう尋ねると、正臣はコクリと頷いた。


「はぅ…すいません、はい。そうですね」

「そうですか…沙月様も見ていたんですよね?」

「見ていたというか、うん。目の前で起きた事だし」


話題は、小樽に現れた"外国人の妖"ではなく、正臣の変化について。

沙絵はラーメンを啜りつつ、正臣の体をジッと見回すと、私の方を見て首を傾げた。


「沙月様は、何か思い当たる節がありますか?」

「え?無いけど」

「沙月様と同じ匂いがするんですよ。冗談ではなく、真面目な方です」

「は?」


私と正臣は顔を見合わせる。

何か思い当たる節はと言われても、思い当たる事はこれっぽっちも無い。


「何さ、やっぱり正臣の力は私のせいなの?」

「どうでしょうね。影響を色濃く受けてはいると思うのですが…どんな些細な事でも良いんです。お二人の事でしょうから、キスもしてないでしょう?」

「当たり前でしょ!」

「と言えど、それに近い事はなさりませんでしたか?あるとすれば、回し飲みとか、その辺です」


冗談を一切言わない沙絵程怖いものは無い気がする。

顔を赤くして否定した私に、ニコリともせず続けた辺りに、冗談では済まされない空気が感じられた。


「そういうのもしてない…よね?私達」


私はおにぎりを食べつつ正臣に確認を取るが、正臣もすぐに私に同調してくれる。


「してない…よな。ずっと前は分からないですけど、最近は特に…」

「そうですか…昼食の後、出来れば実際に霊を操る所であったりを見せていただきたいですが…お時間、ありますか?」

「はい。元々、1日中バイトかなって思って開けてたので、大丈夫ですよ」

「では、私と街に出ましょうか。沙月様はお留守番です。申し訳ないですが…」

「分かった。でもさ、沙絵。原因分かった所で、何かあるの?」


どうやら、日曜日の午後は1人寂しく

少なくなったラーメンを啜りつつ、合間に尋ねると、沙絵は「はい」と頷いてから呪符を数枚取り出してテーブルに上げた。


「もし、沙月様由来であれば、今、沙月様の部屋中に張り巡らせてる妖封じの呪符で効果を消せるかもしれません。そうではなく、正臣君の元々の体質だったのであれば…打つ手は無いのですが」

「試しに使ってみるのも無しか…」

「呪符は本来、体に毒ですからね…どうしても治したいと言われれば、試しても良いのですが…」


沙絵はそう言って正臣の方に視線を切ると、正臣は僅かに引きつった笑みを浮かべて首を傾げる。


「正臣君は、どうでしょう。力に困っているのであれば、近日中に対応しますが」

「いえ、大丈夫…です…今の所」


沙絵の確認に、正臣は私の方をチラチラ見ながら答えた。

その回答に、私はちょっと思うところがあるのだが…こればかりは本人が決める事。

私は苦い笑みを浮かべたが、それ以上は何もせずに、残った玉子焼きの方に箸を伸ばす。


「…そうですか。では、実際の力の程を見て、どうするかも相談しなければいけませんね」


沙絵はいつか私が正臣に言った事と似た様な事を言うと、私の方に目を向けた。


「街中に出た食人鬼の方は、未だ特定に至っておりません。見かけは外国人とのことですが、それ以外に特徴を覚えていませんか?」

「全く。一瞬だったもの、見たの」

「それなりに多いんですよねぇ…引き続き見回りはしますし、上空からメノウとニッカがいますから、何かが起きても遅れを取ることは無いと思うのですが…」


沙絵はそこで言葉を切ると、僅かに目を細めて、小さくため息を一つ。


「沙月様にも出番が回るかもしれません。そうならないように善処しますがね…」



お読み頂きありがとうございます!

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