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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
肆章:過剰遊戯
162/300

162.気持ちが落ち着かないのに、更にかき混ぜないで欲しい。

気持ちが落ち着かないのに、更にかき混ぜないで欲しい。

土曜日の夜、正臣と行動している時に"再会"した妖と死体のコンビと共に訪れた居酒屋で、私は目を点にして困惑していた。


「木偶の坊だ?」

「はい。ちょっと、ちょっかい出して"見せて"欲しいらしいっすけど、何も起きないって」


目元をピクつかせた私の前で、さも当然と言った様な口調でそう言うのは、妖の付属品である死体の女。


「ちょっかい?」

「はい。大暴れされても困るっすから、悪霊を撒いてるっすけど。何も起きないって言われてますね。あたし達はその辺を知らないっすけど」


アッサリ告げられた悪霊騒ぎの原因。

私と正臣は、口元を僅かに引きつらせて、唖然とした顔を浮かべ向かい側の2人を見据える。


「それ、誰の仕業?」

「誰のって…その本の持ち主っすね。主というより、組織なんすけど」

「「……」」


出て来る単語に現実感を感じない。

ただ、悪霊の大量発生だと思っていた時が懐かしく感じる。

私は悪霊騒ぎが自分達の手に負えない事を感じつつ、手元に渡された冊子を開いて中身を確認した。


「これ?インビジブル・サークル?って読むの?」

「どれ…あぁ、多分」

「そうっす。インビジブル・サークル。アメリカにある組織っすね」

「いひひ…組織、よりも、秘密結社」

「まぁ、そうとも言うっすけど。怪しさが増すっすね」

「怪しいどころじゃないんだけど。迷惑なんだけど」

「なら、止めてみれば良いじゃないっすか。防人さんの仕事でしょ?」


渠波根はそう言うと、嫌な類の笑みを作って私達をジッと見つめてくる。


「余り事を大きくしたくないんすよ。雑魚狩り出来る様に悪霊にしたのに、入舸家の長女様は何も働いてくれてないって言われて、ウチらが出張ってくる事になったんす」

「メッセンジャーって訳。なら、すぐに帰って本体がウチに来るように伝えてくれる?」

「嫌っすよ。それに、どうして絵描きさんだけ狙って来てるか、分かるでしょ?」


私は心底嫌な顔を浮かべて渠波根を睨みつけた。

否定出来ず哀しいが、彼らの様な存在が私に拘る理由と聞いて、幾つか思い当たる節がある。


1つは、鬼沙も言っていた"防人の体制"問題。

鬼沙の話が正しければ、気が遠くなるほどの間、防人はたった一人の鬼を長として動いている組織と言う事になる。

正直、その辺の話になんて興味も無いし…私が出張る気など一切無いが、延々と1人が力を握り続けるワンマン組織。

その中ですら、厄介なゴタゴタがあるのだから、外の連中とどうこうできる協調性が無いのは聞かずとも分かるだろう。


もう1つは、私達防人に海外色が一切無いと言う事。

冷静に考えてみれば、この"人ならざる存在"が日本にしかいないという訳が無い。

小さい頃は不思議に思わなかったが…近頃色々目にする中で、ふと気付いてしまった。

私達は、外人アレルギーと言っても良いくらい、外国人と接しない。

まぁ…地域別でギスギスするのだから当然ともいえるが、このご時世に、海外と繋がっていない巨大組織というのも滅多に無いだろうさ。


「京都の力ある人間に言っても聞く耳持たず、他の連中は戦力的に論外。となれば、なんか北海道に突然変異種みたいなのがいるじゃないっすか」


渠波根の言葉は、妖の側ではなく、防人の家に生まれた人間としての言葉の様に聞こえた。


「インビジブル・サークルがどうして絵描きさんを知ったかは知らないっすけど。外の話を聞けば、厄介がられてる見たいっすねぇ、防人の人達って」


実感の籠った一言。

私が何も言えないでいるうちに、テーブルには私と正臣が頼んだ料理が運ばれてくる。

向かい側には、妖と死体の分のビールが置かれた。


「お供え物にしちゃ、デカいビールだこと」


一旦途切れた会話。

私が毒づく様にそう言うと、横に座っていた正臣が私の腕を突いてきた。


「いひひ…やっぱり、正臣、君、似合ってる」


それを見ていたカフカが笑いながらそう言うと、一旦隅に避けた"インビジブル・サークル"の冊子を取り上げて、中身を開く。


「いひひ…絵描きちゃん、木偶の坊。動いてないでしょ?」

「動いてるさ。今日も、わんさか湧いた悪霊退治に1日が潰されたんだ」

「へぇ?いひひ…話、違うジャン」

「どこでのぞき見してるか知らないけど、悪霊如きで"向こう側"に行かないっての」


私はそう言いながら、焼きホッケに箸を入れる。

正臣は私の方に注意を向けつつも、ザンギを取って口に入れていた。


「いひひ…渠波根ちゃん。どうしよっか」

「どうしましょっか…ん?待つっす。そこの彼氏さんは夜から合流でしたか」

「…彼氏じゃないし、そうじゃない。手伝ってもらってただけ」

「へぇ…やっぱ、北海道の人間は変わってるっすよ」


何気ない所から情報を与えてしまった気がする。

私が僅かに口元を歪めた一方で、渠波根は邪な考えなど浮かんで無さそうな顔を私と正臣に向けると、ビールをグイっと飲んでコクコクと頷いた。


「本家に見つかれば、ドヤされるっすよ~」

「脅し?」

「いえいえ、チクる気は無いっす。ただ、やっぱ、適任は絵描きさんだなって」

「木偶の坊らしいけどね。結局、ちょっかい掛けて何をさせる気さ」

「サークルの目的は、ただ、絵描きさん本来の実力を見たいだけっすよ」

「その先は」

「どうでしょうねぇ…絵描きさんを担ぎあげて防人を乗っ取らせるとか、はたまた勝手に交流し始めるとか?」

「そんなのやったら、隠されるだろうな。手足もがれてさ」


渠波根の言葉に、あっけらかんとした声で返すと、隣にいた正臣の表情が僅かに曇る。

私はそれを横目に見て僅かに目を細めると、向かい側の2人はしたり顔を浮かべた。


「大丈夫っすよ。絵描きさんなら」

「いひひ、そう、絵描きちゃん。戻ってくる」

「戻ってきてもお尋ね者。なら、向こうで暮らすね」

「そう言ってのける人間も中々っすけど…とにかく、早い所"実力"を見せてもらわないと」


ビールジョッキを片手に持ったまま渠波根は、そう言うと、何かを思い出した様な素振りを見せて更に続ける。


「外人に常識は通じないっすからね。目的の為なら、何をしでかすか…」

「アンタ方も大概だけど」

「それとは別っすよ。ま、何れ分かる事っす。後少しで監視してるのとは別の"エージェント"がやって来るっすから、それまでにはキッチリ"決めて"貰わないと」


そう言ってグイっとビールを飲み干す死体。

私は心底呆れた様な表情を浮かべると、箸を持った手をヒラヒラ振って見せた。


「無茶言わないで。話したけりゃ幾らでも話してあげるから。それだけにしなさい」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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