161.殺気立っても仕方が無いが、そうなるのも仕方がないだろう。
殺気立っても仕方が無いが、そうなるのも仕方がないだろう。
私は真正面に座った女2人を睨みつけながら、ここをどう切り抜けようか考え続けていた。
自分一人だけならまだしも、正臣が居るのが非常に不味い…
こんなことがあるから、正臣に"こちら側"へ来て欲しくないのさ。
「そんな殺気立っちゃダメっすよ。ここはあたし達持ちで良いっすから」
「いひひ…そう、目的、違う。もう一度、飛ばされるの、御免」
やって来たのは、駅近くの居酒屋チェーン店。
どうしてこんな状況になったのかと言えば、どうしてだろうか…
別に、あの駅前で見逃す手もあったはずなのに…何故か"見逃したくない"と思ったからか。
「そして、お兄さんは初めてっすよね。あたし、渠波根朱莉って言うっす」
「いひひ…カフカは、風雷カフカ」
「ちょーっと、彼女さんに用があったもので。巻き込んでごめんなさいっす」
「いえ…あ、自分は羽瀬霧正臣です」
「ふむ、正臣君っすね」
「ひひひ…お似合い。正臣」
イライラする私を他所に、初対面の正臣は普通に挨拶を交わしてしまっている。
いずれにせよ、私の我儘なはずだ。
それに正臣を巻き込んでいるのだから…最悪だな。
「チッ…」
私は心の底から湧き上がってくるイライラを隠す素振りも見せず、分かり易く舌打ちをしてみせる。
「で?どういう風の吹き回しさ?」
「あら、やっぱり、なにもしてこないんすね」
「出来ないの。私達防人は、何かが無いと動かない」
「鬼沙さんが強いてたルールじゃないっすか。時代遅れの」
渠波根の言葉が私に突き刺さる。
それを聞いてギリッと歯軋りをする私に、それを見てニンマリ笑うカフカ…そして、蚊帳の外のまま、私と向こう側を交互に見ている正臣。
「に、しても。絵描きちゃん。その格好、地味」
「ウチの姉ちゃんもそうっしたが、変わらないもんっすねぇ…」
多分、今、一番居心地が悪いのは正臣だろうか…
別に、正臣は帰してしまっても良かったのに、何故か言い出せなかった自分がいた。
私はイライラしたまま頭を爪先で掻きむしると、2人の言葉に何も反応することなく正臣にメニュー表を押し付ける。
「怖いお姉さんの奢りだって。好きな物、多めに頼んでいいよ」
「え?でも…」
「いいから。どうせこの2人は"何も食べない"んだし」
「いひひ!…そう…食べない。カフカも、渠波根ちゃんも、食べ物、要らない」
「そうっすね。あたしもカフカも飲み物だけで良いっすから。お好きにどうぞ」
困惑する正臣だったが、3人に言われて渋々といった様子でメニューを捲り始める。
後で私も何か頼むとして…今は"無害"な妖の方へ、再びキツイ視線を向けた。
「で、何の用?」
「それは…また後で話しましょうよ。大丈夫っす。人の常識の中の話っすよ」
「死人と妖の常識でなくてか?」
「あはは…相変わらずっすねぇ…彼氏さん、良いんすか?こんなので」
「いひひ…ひひひ…渠波根ちゃんも、中々…」
「え?いや、その…」
「色恋沙汰に見られたのは初めてだ。友達でしかない」
グイグイ来るのは渠波根の方…
彼女の言葉に青筋を浮かべながら答えると、彼女は、浮かべていた人当たりの良い表情をフッと消して真顔になる。
「そんな、ただの友達を、こんな所に連れてくるだなんて。どういう神経してるのかしら」
冷たい声色、全然違う口調。
私は口元を歪ませると、鼻で笑って肩を竦める。
「そりゃ、人の常識として話したいんでしょ?なら、別に居ても構いやしないさ」
強めの口調でそう言うと、隣にいた正臣が私を突いてメニュー表を渡してきた。
チラリと正臣の方を見やると、目で何かを訴えている様子…私は少しだけ落ち着きを取り戻すと、溜息をついてメニューを開く。
「いひひ…そういう、関係。丁度いい、コンビ」
その様子を見ていたカフカがボソッと一言。
私はヒクヒクと口元を歪ませたが、ちょんと正臣に突かれて、言葉を放つのをグッと堪えた。
疑念、怒り…そして情けなさに罪悪感。
頭の中で渦巻く感情が全く定まらない中で、頼むものを決めた私は、メニュー表を置いて向かい側の2人に目を向ける。
「良いの?」
「良いですって。ビール2つあれば、それで」
「……そう。本当に奢ってくれる気?」
「ええ。その分、話は聞いてもらうっすけど」
「……そっ。なら、ありがと」
2人に確認を取るのは、最低限のマナーだろう。
人生で一番に迫る位に嫌そうにお礼を言って、テーブルに備え付けられたスイッチを押す。
気の抜けた電子音が響き、すぐに店員がやってきて、私達はそれぞれ注文を終えた。
「さて」
「そうだ。話の前に1つ」
「何っすか?」
一段落して、渠波根が口を開いたところで、横槍を入れる。
向こうの話の前に、1つだけ確認しておきたいことがあった。
「鬼沙の居場所を知らない?」
「はぁ…知らんす。そんなもの、絵描きさんにやられた後の事は知らないっすよ」
「そう」
「でも、聞いていた話とは違うっす。興味あるっすね」
どこかへ消えた裏切り者の事を尋ねると、向かい側の2人は僅かに表情を変えて食いついてくる。
「聞いてた話?」
「えぇ。絵描きさん、鬼沙さんを倒したんでしょ?いつもみたいに隠さず、殺したと聞いてるっすけど」
アッサリとした口調で告げられた内容に、隣の正臣の表情が僅かに曇る。
正臣が知ってるのは"そこから先"の話…私も、脳裏に苦痛だった入院生活の光景が浮かんできた。
「いひひ…絵描きちゃん、凄い格好になって、鬼沙倒した。そう聞いてる」
「えぇ。違うんすか?」
「殺してなんか無いよ。殺し損ねたが正しい。やったと思ったら、居なくなってた」
間違いを訂正すると、カフカと渠波根は顔を合わせて何かを目で語り合う。
そして再び私の方に目を向けると、渠波根は溜息を一つ付いた。
「ちょっと違ったっすけど、問題ないっすね。いや、今の状況は問題大ありかな?」
「それで本題が変わってくれれば楽だったのに」
「いやいや、手間が掛かってるっすからね?」
そう言いながら、渠波根は肩から下げていた鞄を開けて、中から冊子を1つ取り出す。
「宗教なら間に合ってるけど」
「そんなベタなボケをくれるとは思いませんでしたよ」
それを見て一言、呆れ顔を浮かべた渠波根が、そう言いながら冊子を私の方へと滑らせた。
見てみれば、その冊子は小難しい英語が並んでおり…洋書の様だ。
「防人の辞書に国際協調って言葉、乗ってないっすからねぇ…入舸さん家でどうかって」
冊子を見て、難しそうな内容に顔を歪めた私を他所に、渠波根が話を続ける。
「海外から視察も来てるんすけど。思った以上に絵描きさんが木偶の坊で、困ったなって」
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