159.心霊騒ぎというのは、いつの時代も盛り上がる話なのだろうか。
心霊騒ぎというのは、いつの時代も盛り上がる話なのだろうか。
ファミレスを出て、少し歩いた所にある"明治ガラス会館"の辺りまでやって来ると、その周辺だけ、少し人が多い様に見えた。
私と正臣はその光景を見て、一瞬顔を歪めたが、お仕事となれば引かない訳にいかない。
ゲンナリした表情を浮かべながらその人混みの中に飛び込んで、周囲を見回す。
「沙月、手、貸して」
「うん」
狭い店内、多い客…棚のギリギリにまで出張ってきているガラスの置物。
私と正臣は、手を握って逸れないようにしながら、心霊騒ぎの原因を探し始める。
「こんなに人居れば、来るわけないって」
「言えてる。けど、何か感じない?」
「残念なお知らせだよね。奥の方だ、店の奥」
ここに集まったのは皆…というわけでもないのだろうが、殆どの客のお目当ては、噂になってる心霊騒ぎの様だ。
イッターをやってるわけでもないから、どういう噂が流れているかは知らないが…
たかが心霊騒ぎでここまで集まるとは思わなかった。
最近、その手のテレビ番組を見かけなくなったから、興味が薄れているのだろうか?と思ったがそうでもないらしい。
「うわっアブね」
「気を付けてよ?」
「大丈夫。沙月も気を付けてよ?」
正臣に手を引かれて、私は店の奥まで進んでいく。
途中、ガラスの置物に体を引っ掛けそうになってヒヤヒヤしながらも奥までやって来ると、ようやく一息落ち着けるだけの広さがある場所まで出てこれた。
そこは店の隅…ガラスの置物が周囲にない、何てことの無い空間。
三ノ輪さんの話によれば"ガラスの置物の位置が変わる"とのことだったから、きっとこの辺りに人は居ないのだろう。
「大盛況…だね」
「店が儲かってればね」
隅で一呼吸している間に、正臣の方をチラリと見れば、彼から僅かに悪霊の気配。
ハッとした顔を彼に向けてみれば、正臣はニヤリと笑ってこちらを見返した。
「1回位は期待に沿っておく?」
「バカ騒ぎになったら収拾付かなくなるからダメ」
「やっぱそうなるか」
騒ぎの原因である悪霊を纏わせているであろう正臣は、何の影響も受けて無さそうな様子でそう言うと、目を瞑って自らに憑りついた悪霊を祓ってしまう。
私は、その様子を何んとも煮え切らない気持ちを浮かべたまま眺めていた。
「終わりっと」
「1匹だけだったの?」
「あぁ、そうらしい」
「その為にここまで来て、もう一回これを押し抜けるのか…」
アッサリ問題解決…私と正臣は目の前に広がる人混みを見てガックリと肩を落すと、意を決して人混みの中に入ろうと足を踏み出す。
その2歩目を踏み出した時。
「あ、動いた!」
遠くで誰かが叫び声を上げる。
ドッと盛り上がる店内。
私達は更に熱気を帯びた人混みに突っ込む気が一瞬で失せて、再び隅の空きスペースに避難した。
「どういうこと?」
「分からない。居る気配も無い、無いよね?」
「えぇ…間違いない。なら、見間違い?」
「それこそ、心霊現象だったりして」
「私達で感知できなけりゃ、確かにそうだ」
遠巻きに盛り上がりを眺める私達。
スマホを持って右往左往する人達を眺めるのは、どこか滑稽だ。
やがて、盛り上がりを見せた人混みは、それ以上何も起きない状態が続くにつれて盛り下がってゆき、次第に人が掃けてくる。
「今だ」
人が掃けだしたところで、私達もその流れに乗って店の外へ。
入ってくる時よりもすんなりと進んで外に出て、店から離れると、私達は深い溜息をついた。
「心霊騒ぎ、これからもありそうだね」
「あぁ、幽霊がデカい事起こすって、出来るの?」
「いや、実体が無ければ無理。正臣に憑りついて暴れるなら話は別だけど」
「ゾッとすること言うなよ」
店から離れつつ、本来回る予定だった場所の方に足を向けて歩き出した私達。
少し歩いて、ふと右手に違和感を感じて持ち上げると、ギュッと握られた正臣の手がくっ付いてきた。
「あ、ごめん」
「おっと、うん…悪い」
気付けばずっと握っていた手。
私と正臣は、それに気付いてようやく顔を赤く染めると、パッと手を放して距離を取る。
「と、とりあえず、次に行こう。明日が忙しくなっちゃうし」
「そうしよう。…うん」
ちょっと気まずい空気…だけど、街中から感じる"悪霊"の気配を感じてしまえば、それに浸ってもいられない。
店を後にして向かうは、この間学校帰りに訪れたサンシャインモールの近辺。
そこへ近づくにつれて、薄ら寒い、どこか気分が滅入る気配を強く感じ始めた。
「多いな」
隣を歩く正臣が、暫くの沈黙を破って一言。
私はポケットの中で呪符を弄りながら、それに頷いた。
ピリピリする感覚、恐らく、この手の感覚が鋭い一般人であれば、簡単に体調を崩してしまいそうな程の空気感。
「体は大丈夫?」
「全然平気」
「そう…」
「沙月は?」
「何にもさ」
陰鬱な空気の中に入っていく私達。
個人経営の食堂を始めとした、小さな店が軒を連ねる通りに入っていくと、通りを薄っすらとした靄が覆いつくしている。
「うわぁ…」
即座に正臣の方へ靄が吸い寄せられていき、その度に私は呪符を彼に貼り付けて祓っていった。
入れ食い状態…貼っては祓ってすぐに別のを貼っての繰り返し…
私に憑りつこうとしてくる靄もあったが、それらは私に触れようとした瞬間には蒸発した。
「沙月、ちょっと待って。"聞き出せない"」
「了解」
何気ない動きでお祓いを進めていた手を止めて、暫く正臣のペースに任せる。
彼は歩きながら靄を取り込み続け、"交信"すると、私の方を見てニコリと笑みを見せた。
「何か分かったの?」
私がそう尋ねると、正臣は中に入り込んでいた悪霊を自力で祓ってから頷く。
「ヒントになりそうな事が1つだけ。もう少し他の連中に聞いて回って、後でまとめて教えるよ」
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