157.学校でまで、仕事はしたくないのだが…
学校でまで、仕事はしたくないのだが…
騒ぎになってからでは遅すぎる。
だから、私は周囲の目を気にしながらも、動くしかなかった。
「ごめんね、手伝ってもらって」
「別にいいわ、これ位。付いてきたいって言ったのは私なんだし」
穂花を連れて、放課後の校舎を回る私。
楓花も来たがっていたが、部活の用事で別行動。
私の手には急ごしらえのお札…それを持って、広い高校の中を巡り歩いていた。
今やっているのは、お札をあちらこちらに貼り付けて"結界"を作る事…
何時か、中学校で是枝蛇先生がやっていた事とよく似ている。
意図は全然違うが…兎に角、結界を作って"周囲"への被害を最小限に抑えたい。
「そういえば、貰った御守りだけど」
「?」
「沙月、何時だったか私達の背中に何か書いてくれた時があったじゃない。それと似てる?効果な気がするんだけど、何か違うの?」
「あぁ…あれの弱い版さ。今はまだ妖が手を出してきてないから…悪霊退散の方が近いか」
「へぇ…」
「本当は、皆を家に集めて書きたいんだけど…あれ、お面被らなきゃだし」
「今の沙月には出来ない事ね。そう言えば、どうなの?順調に人に戻れてるのかしら?」
「それは…どうなんだか。まだ簡単に"妖に振れる"から、何んとも」
「そう…人と接する時間が多ければ良いんだっけ?」
「一応ね。だから、皆が居てくれるだけでありがたいのさ」
聞かれると誤魔化しにくい内容の会話を交わしつつ、高校のあちこちに札を貼って回る私達。
今いるのは4階の一番隅…女子トイレの、清掃用具の入ったロッカーの角にお札を貼り込んで外に出る。
次は、今いる場所とは反対側…この間、正臣に呼び出されて言った美術室。
「この辺、部活やってないのね」
「金曜日だしね。文化系の部活って、火曜と金曜が休みなんだって」
「そうだっけ?」
「そうだって。勧誘された時にしつこく言われたのを覚えてる」
「勧誘…どの部活にされたのかしら?」
「オカルト研究部に、占い同好会。なんか、ソレっぽく見えたんでない?」
「ふっ…似合ってるわね。特に前者。入れば良かったじゃない」
「それは…ねぇ?面倒だったから、美術部の幽霊部員になったのさ。籍だけの」
私は目元をピクつかせながら穂花の方にキツい目を向けると、彼女は口に手を当てて黙り込んだ。
「せっかく"快適"になったのを、自分から壊しにはいかないさ」
そう言いながら、美術部の扉に手をかけて中に入っていく。
お札を貼る場所に、場所以外の拘りは特にない。
適当に見回して、埃を被っていた棚を見つけると、その周辺の見られなさそうな場所にお札を貼り込んだ。
「これをやるのも嫌でさ。1か月で勝手に消える様にしてんだけど。バレたら厄介」
「まぁ…性質の悪い悪戯程度にしか見られないでしょうけど」
美術室を出た私達は、周囲に誰もいないことを確かめながら、階段を降りていく。
階段の踊り場に差し掛かった時、下の方から勢いよく駆け上がってきた男子生徒とすれ違った。
「おっと。大丈夫?」
「あっ、ご、ごめん!」
「いえ、大丈夫…あぁ、千羽君」
「あれ、藤美弥さんに…入舸さん?どうして4階に?」
「ちょっとした用事よ。そっちこそ、部活?」
「いや、休みなんだけどさ…忘れ物を取りに部室にね」
「そう。何部だったっけ?」
「ま、漫画研究部…美術室を間借りしてやってるんだよね」
「へぇ…そうだったっけ…あ、ごめんなさい。引き止めちゃったわね」
「いや、それじゃ」
踊り場でクラスメイトと言葉を交わし、千羽君は再び階段を駆け上がっていく。
それを見送った私達は顔を見合わせると、何も言葉を交わすことなく、3階の方まで降りて行った。
「大丈夫でしょ」
「そうね。さっきので…お札は品切れかしら?」
「うん、終わり。とりあえず、気休めだけど…ないよりはマシさ」
3階まで降りた私達は、更に階段を降り、1階まで降りて行った。
お札さえ貼り込めば、もうここに用事は無い…後は帰るだけ。
正臣との悪霊退治は明日でもOKだったから明日に回したし…今日はもう何も無い。
「あ、やっと来た。遅い!」
生徒玄関まで行くと、広場のようになった休憩スペース?の様な所で、用事を済ませた楓花が私達の事を待っていた。
鞄を手にして私達の元まで駆け寄ってくると、私を間に挟むように左隣に陣取る。
「お待たせ。そっちの用事の方が早かったわね」
「本当に大した用事じゃ無かったもの。学校中を回ってた姉様と沙月を探そうかと思い始めてた頃よ」
「探してたら行き違いになってたさ。で、電話であーでもないこーでもないって始まるんだ」
「だと思ったから、大人しく待ってたの。もう帰るんでしょ?」
「うん。後は帰って寝るだけさ」
下駄箱で靴を履き替えて、外に出ると、肌寒い風が通り抜けていった。
体を震わせると、左右に並んだ穂花と楓花が私に体を押し付けてくる。
「寒くなってきたわね」
「ねー…あっという間に冬だ」
私は苦笑いを浮かべつつ、上着のポケットに手を入れて、肩を強張らせた。
そろそろ、スカートの下に黒タイツでもいい時期だろうか…
いや、日中の事を考えると暑いと言い出すのだろうけど…
「沙月も、寒さに弱いわね」
「元旦のあの日は平気そうなのにね」
「"あっち側"にいるうちは平気。寒さも暑さも大して感じないから。でも、今は寒いのも暑いのもダメ…う~…寒…こういう中途半端な気温が一番嫌いさ」
そう言いながら、上着のポケットに突っ込んだ手を忙しなく動かす私。
ちょっとでも暖まりたい欲が出過ぎていた。
学校を出て、バス停までは歩いて3分程度…
放課後のちょっと人が掃け出した遅めの時間帯だから、バス停に着いても、生徒の影は疎らにしか見えなかった。
出来ていた列の最後尾に並んで、バスがやって来るのを待つ。
チラリと腕時計を見やれば、次のバスが来るのは大体5分後だ。
「帰り、どっか寄らない?」
「どっかね。どこか…」
「賛成~」
周囲に人が居るところでは、"仕事"に近い話題はご法度。
只の女子高生らしい?会話を続けつつ、バスが来るのを待ち構える。
「夜…にはちょっと早いわね」
「ちょっと遠いけど、マリーナベイにでも行ってプリでも撮ってみる?久しぶりに」
「珍しい事言うのね…まぁ、別に良いけど。沙月は?」
「おまかせ。良いよ、2人の好きにしてくれて」
そう言うと、私はポケットから手を出して、フーっと両手に息を吹きかける。
僅かに白くなった吐息…私は何てことの無い日常風景の中に身を置いているものの、何処か浮ついた感覚が抜け切れていなかった。
「あぁ、プリクラ撮るなら、心霊写真が出来上がりそうだけど。それでもいいなら、ね」
お読み頂きありがとうございます!
「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。
よろしくお願いします_(._.)_




