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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その参
147/300

147.1度戻ってしまえば、あとはトントン拍子に事が進む。

1度戻ってしまえば、あとはトントン拍子に事が進む。

9月も中旬、モトが退院した週の土曜日。

朝、目を覚まして、壁に掛かっていた鏡を確認した私は、病室で1人歓喜した。


「凄い。1日で変わってる」


午前中、病室にやって来た正臣は、開口一番にそう言って、ベッドの脇まで来た。

手にはコンビニの袋、中身は頼んでいた食べ物と飲み物だ。


「はい。良いの?勝手に食べて」

「ありがと!後でお金払うね」


テンションの高い私を見たせいか、ちょっと不安げに見える正臣。

彼から、"人"に戻った手でコンビニ袋を受け取ると、そのまま中身をベッドの上に開けた。

中身は、ペットボトルのお茶と、イコマのホットスナック…暖かいザンギ。


「ま、その顔見てる限りは大丈夫なんだろうけどさ」

「うん!検査は午後だけど、大丈夫」

「おいおい…」


呆れ顔で椅子に腰かける正臣。

丁度、彼のスマホが震えだす。

スマホを取り出す彼、私はそれを横目に見ながら、早速ザンギを1つ口に入れる。


「んー…美味しい…良かったぁ」


1口食べただけで分かった。

ちゃんと、人に戻れている。

目を閉じて、味わって、感動に浸った。


「泣くほどか?」


目を開けると、ぼやけた視界に正臣の笑みが見える。

目じりを拭えば、自然と泣いていたらしい。

顔を少し赤くして頷くと、正臣はポンと頭に手を乗せてきた。


「耳も角も翼も、どこ消えたんだか」

「さぁ?髪に戻ったとか?もう、どうでもいいや。今はこれがあれば十分」


そう言ってザンギをもう一つ。

味わって食べて飲み込んで、ペットボトルのお茶を喉に流し込んだ。

ここ半月以上、何の味もしないもので"生かされてきた"のだ。

お茶だけでも涙が出て来る。


「その調子だと、後の面々が来るまでには、目が真っ赤になってそう」

「ハハハ…確かに」

「雨吹さん、そろそろ来るって。穂花と楓花も。多分、3人同時かな」

「そう。にしてもさ、休みなのに良いの?病院なんか、つまらなかったでしょ」

「毎日でもないし。それに、暇に殺されそうになってるの見てると、ねぇ?」

「ねぇ?って言われても。危険だったんだよ?何時暴走するか分かったもんじゃないじゃないでしょ」

「それは大丈夫だよ。沙絵さん達があちこちにお札貼ってたから」

「え?そうなの?」

「知らなかった?ベッドの下とか、壁紙も貼り換えてたりして…もう、大工事さ」


正臣に知らされる衝撃の事実。

ベッドの下に手を伸ばせば、確かに何かの紙に触れられて、指先がピリ付いた。


「それに、最後の方は元治もそうだったんだけど、何だかんだ周りで動ける人がスタンバってたしね」

「そうなんだ」


そう言いつつ、残ったザンギとお茶に手が伸びる。

正臣は、そんな私を見て呆れ顔を浮かべつつ、ちょっとホッとしている様な顔を見せた。


「来たんじゃない?」


一瞬静まり返った病室。

外からは数人の足音と喋り声が聞こえてくる。

それは私の病室の前で止まり、ノックの音が聞こえてくる。


「どうぞ」


それに反応すると同時に、勢いよく扉が開かれて、3人が病室内に飛び込んできた。


「沙月!」

「治ってるのです!」


ベッドの上に座った私を見て驚く3人。

ジュン君に、穂花に楓花だ。


「え?ちょっと…待…!」


私が何かをいう前に、勢いそのまま飛び込んできた3人に抱き着かれる。


「痛い痛い痛い痛い痛い!!」


人に戻ったと言えど、怪我はそのまま。

まだ、全身に包帯が巻かれたままだ。

さっきまでとは別の涙を流しつつ叫ぶと、3人はパッと私から離れた。


「戻っただけで、治り切っていないからね…」

「そうだったの。ごめんなさい」

「ごめんなのです」


すぐに離れてくれたとはいえ、今の一瞬で全身が痛い。

暫く息が荒れて、何度か深呼吸を繰り返すと、ようやく落ち着いた。


「ごめんね、来てくれてありがと。もう、大丈夫だから」


ふーっと長い溜息を付くと、3人は気まずそうな顔をこちらに向ける。

その横で、苦笑いを浮かべたままの正臣。

ベッドの上に置いていたペットボトル類をテーブルに避けると、3人はそれぞれベッドの隅に腰かけてきた。


「昨日、正臣と来た時はまだ凄い格好のままだったのですよ」

「朝起きたら、戻っててね。1日でこの通り」

「不思議なものね。でも、戻ったせいなのか、少し肉付きも良くなったんじゃない?」

「あぁ、そうかも。ちょっと体が重たい」

「昨日までが軽すぎただけよ」

「そうなのです。沙月、元々軽い方なのですよ」


そう言いつつ、ジュン君が私の手を取って、まじまじと見始めた。

獣のそれから、人に戻ったばかりの手。

少々、記憶にあるそれよりも肌が白すぎるが、もう、感覚は元通りだ。


「それにしても、6時に正臣からトーカー来て驚いたのですよ」

「そうね。良い目覚ましになったわ」

「ねー、一瞬、嫌な予感がしたんだから」

「ごめん。俺も沙月から5時にトーカー来て叩き起こされたんだ」


ベッドの周囲で話す4人。

私は、今朝の事を思い出して、また顔を赤く染めた。


「ごめんなさい。その、嬉しくて…あ、嫌な予感って?」

「嫌な予感は嫌な予感よ。もう無いとは思ってたけど、万が一ってあるでしょ?」

「え?」


意図が察せず聞き返す私。

楓花は私の顔を見返すと、少しだけ呆れたような、それでもどこかホッとしているような顔をこちらに向けた。


「ピーって心電図が鳴ってるの、初めて聞いたもの。あんなの、二度と聞きたくないわ」

「あぁ、そういうこと」

「そういうこと…って…」

「まぁまぁ、沙月はそん時寝てたみたいなもんだし」


呆れ顔だけになった顔をこちらに向けた楓花を、正臣がたしなめる。


「…その様子なら、再来週位から学校来れそうだな」


話題転換…正臣がそう言うと、ジュン君がコクリと頷いた。


「そうですね。でも、沙月、最初は補習だらけだと思うのですよ。暫く、忙しいです」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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