表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
142/300

142.追い詰められているはずなのに、何故か気分が良い。

追い詰められているはずなのに、何故か気分が良い。

モトの体を貫いて、私の体すらも貫いた鬼沙の拳。

痛みすらも感じず、寧ろ気持ちいいと思える程の感覚に浸っていた。


「ッフフ…ァハハハ…」


鬼沙に吹き飛ばされた先。

広場の中央、崩れた社の破片が、傷口にめり込んで鈍い痛みを発した。

頭の上、雲一つない星空に、未だ鳴りやまない花火が咲き乱れる。

目の前には、大量の血を流して、動けなくなったモトの姿。

こちらに向いた顔は、痛みに歪む顔のまま、空気を求め、もがき苦しんでいる。


「さて、邪魔者は消えたぜ。あと、1人だ」


モトが、瞬き一つする間に"宝石"へと姿を変えた。

鬼沙が、私を見下ろしている。

その表情は、鬼そのもの。


「チンケな呪符なんか要らねぇ。"隠す"ってのぁな。最初はこの力だったってわけよ」


広場の何処かへ刀を飛ばし、身動きの取れない私に、鬼沙は言った。

呪符が無くとも、"金色"に輝く右手。

その光から感じる力は、普段、私達が妖を隠す際に発現させるそれとよく似ている。


「ツマラネェよな。別に、要らねぇ掟よ。俺にとっちゃ、呪符なんて子供だましだ」


モトが姿を変えた宝石を、軽々と拾い上げて、それを広場の隅に投げ捨てた。

鬼沙の目は、その間も、ずっと私の方を向いている。

私も、彼の目を睨みつけながら、感情の抜け落ちた笑みをずっと向けていた。


「じゃ、次は……ゥぐ…私か!…ハッ!…やりなよ…やれよ!」


吹き飛ばされてから、私は思考が定まらない。

ずっとフワフワしている感じ。

目の前に鬼沙がいても、怖くも何ともない。

モトが死にかけていたというのに、哀れみ1つ、心配1つ浮かんでこない。

そのまま、今日、私達が鬼沙に殺されたとしても、それが本望だったと思えるほど。


「お前」


鬼沙は、そんな私を見下ろして、何もしてこない。

私は、微かに動く左手…和服の裾で隠れた左手に"最期のとっておき"を握りしめたまま、鬼沙の顔を見つめ続けた。


「やれよ!臆病者!裏切り者!半端者!…」


左目をこれでもかと開いて叫ぶ。

花火の破裂音よりも大きな声で、この広場一帯に私の叫び声が響いていた。


「あぁ、なら、望み通り。テメェは殺してやらぁ!!!!!!!!!!」


煽られるたび、赤くなった顔を更に真っ赤に染め上げた鬼沙。

震えて、歯を砕こうかというほどに噛み締めて、それが一気に発散する。

目で追えない程の速さで、"何か"が私の視界を覆いつくした。


刹那、感じた事がない程の力を感じる。

全てが、現実ではないと思える感覚。

現実を訴えるのは、周りの音と光だけ。


鈍い音。

地面が抉られた音。

上がる土煙、花火の光が、細かな砂の1粒1粒を照らしていく。


「あ!?…消えた…?だと?」


花火が途切れ、一瞬の静寂と闇が戻ってくる。

私の視界の先、少し間を開け下の方を見下ろして、呆然と立ち尽くす鬼沙の背中が見えた。

スタイルの良い男の姿。

白いYシャツを、血と土で汚し、仕立ての良いパンツや靴はもうボロボロだ。


一際大きな花火が一発、私の背後で打ちあがる。

それは、花火大会の最後を飾る一発。

その花火の光が、広場の上…見下ろした先、鬼沙の眼前に、私の影を作り出した。


「嘘だろ…」


放心したような鬼沙の声。

その前に映った私の影は、人というには無理があった。

頭から伸びた、体を覆える程の翼が、私が人で無いことを伝えている。


意識せずとも、空を漂うことが出来た。

勝手に羽が動いて、上下にユラユラと羽ばたいている。

白菫色の羽、時折舞い散る羽は、記憶にあるソレより艶やかだ。


「鬼沙ァ、随分、小さく、見える」


自分のものとも思えぬ甲高い声。

何も手にしていない左腕を、顔の前に持ってくる。


青白い肌を持つ人の手は視界に映らず、映ったのは、肘から先が"何か"に変わった姿。

肌が徐々に白い毛で覆われ、5本指はそのままに、黒く鋭い爪が生えた手。

ゆっくりと動かせば、人だった時と同じように動かせた。


「刀、もう、要らない。持てないかな?」


宙に漂いながら、全身を見回す。

若干やせ細った体。

ボロボロで、血だらけの和服はそのまま。

足元、和服から出た足は、人の足に、猛禽類の足が混ざり合った形をしていた。


「沙月、だよな?」


眼下で鬼沙が問いかけてくる。

私は、暫く鬼沙の顔を見つめると、ゆっくり小さく頷いた。


「ああ」


頷いただけで、地上に降り立とうとは思わない。

ユラユラと、宙を漂ったまま。

フワフワとしていた思考は、段々と1点に集まっていく。


「鬼沙」


鬼沙の名を告げると、鬼沙は少しだけ体を震わせた。


「何だ」

「石に変えた連中、もう、そのままでいいよ」


ボソッと呟くように本心を言う。

鬼沙の顔は、驚きに染め上げられた。


「何を言って…」

「邪魔だもの。どうせ、人間風情に、何も、出来やしない」


そう言うと、私は左手の先に真っ黒い靄を繕わせる。


「おぉ…綺麗」


何の光も通さない靄。

キラキラ輝いて見えるのは、靄そのものの輝き。


「お前、遂に…」

「どうしたのさ、鬼沙。これが、この私の姿が、望みだったんでしょう?」


さっきとは立場が逆の様だ。

唖然とする鬼沙に、私は無邪気な笑みを向ける。


「腕を切って、目を抉って。周りの"使い物にならない"人間を全部消してくれた。あぁ、変だな。矛盾してる気がする。ァハハハハハハハ!何がしたいんだかサッパリ分からない!」


左手に繕わせた靄は、呪符で作るそれ以上…私は、その手を鬼沙の方へ突きつけた。


「妖が戦っても意味は無いのに!不思議だ!不思議なんだけど、鬼沙、お前だけは、必ずこの手で"殺して"やるよ。今日を、新しい命日にしてやろう…必ず…殺す。殺してやる」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ