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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
141/300

141.無意識の行動が、私をこの世に押しとどめてくれた。

無意識の行動が、私をこの世に押しとどめてくれた。

全身を貫く痛み、真正面からきたこの痛みは、普通であれば、体に風穴が出来るはず。

だけど、無意識のうちに、ほんの少しだけ後退したお蔭で、風穴が出来ることは阻止できた。


「おしいな」


広場の隅まで吹き飛ばされた私。

即座に起き上がるが、口の中は鉄の味。

プッと気色悪い液体を吐き出せば、どす黒く汚れた血が吐き出された。


「こ…の…」


雲一つない夜空を、無数の花火が彩っている。

その明かりが、広場を照らす中、私は鬼沙を睨みつけて歯を食いしばった。


このまま追撃が来たのなら、成す術もなくやられてしまう。

でも、鬼沙は私を見据えてニヤニヤするだけ。


気が抜ければ、そのまま崩れ落ちそうな中。

震える足で体をなんとか支えて、懐から取り出した"黄紙の呪符"を体に貼り付ける。


「しぶといな」

「ハッ…」


モトが私の傍に寄ってきた。

治癒用の呪符を手にした彼を、手で制して止めると、ニヤリとした顔をモトに向ける。


「大丈夫さ」

「おいおい」


体に入り込んだ呪符が、痛みを一気に消していった。

そのまま刀を構えなおすと、こちらの様子を伺ってくる鬼沙の方へ足を踏み出す。


広場の草原の上、僅かだが、低空を真っ直ぐ突き抜けた。

さっきよりも1段階速い速度。

揺れて歪む視界、ハッキリとピントが合っているのは、迎え撃つ鬼沙の姿。


一閃。


普段よりもワンテンポ早い所で刀を振るう。

同時に急停止。

チッと鬼沙の胸元、上質なスーツ越しに肌を薄く斬り裂いた。


「騙されたな」


勢いそのままに来るであろうと踏んでいたのだろう。

反応が一瞬遅れた鬼沙は、見事フェイントみたいな動きに引っ掛かってくれる。

余裕そうな表情が、一瞬のうちに真っ赤に茹で上がった。


「この!」


踏み出された足。

広場を再び大きく揺らす。

すぐに地面を蹴飛ばして、僅かに宙へ浮けば関係ない。

それに…


「もう一人いるんだよ?」


私だけを見て目を血走らせた単純脳細胞に煽りを一言。

ハッとした鬼沙の顔、斜め後ろ、死角から姿を見せたのは、妖力がまた増えたモトの姿。


一閃。


モトの刀が鬼沙の右腕を捉えた。

一刀両断とまではいかなかったが。


「クソッ!」


手前に私、斜め後ろにモト。

躱すとなれば、一番遠い所。

鬼沙の動きが、手に取るように分かる。


花火が照らす広場、鬼沙の腕から噴き出た血をかいくぐって、前へと足を踏み出した。

一瞬のうちに、左右の視界が混ざり合う。


そして、刀を振るった。


ヒュッと風を斬り裂く音を纏わせて。

1発で決めようとはせずに、軽く、何度も何度も斬り刻む。


「畜生が!」


斬り刻むのは、鬼沙じゃない。

猛攻の合間に、鬼沙は真っ赤に血走らせた目をこちらに向けた。

そのまま、刃の合間をかいくぐって拳を一発。


重い一撃。


鳩尾のすぐ横を貫いた。

淀んだ空気と共に、血を吐き出して飛ばされる。

だけど、吹き飛ぶほどじゃない。

せいぜい、2,3歩よろけるだけ。


「ァハハ!ハッ…!らしくもねぇ手品は、もう使えねぇな!」


体制を整えて、間合いの開いた鬼沙の姿を見て叫ぶ。

彼の羽織っていた黒いスーツは、ボロボロだ。

黒い布に交じって、内側に仕込まれていた呪符がハラハラと広場に散っていく。

その様を見て、私の頭は、何か良からぬことを思い描いていた。


「呪符の持ち球はもうゼロだ。連中が使ってた、青い光ももう出せないよな?」


スーツを脱ぎ捨てて、血が滲んだ白いYシャツを晒した鬼沙にそう言うと、彼は何も答えなかった。

ほんの少しだけ、呼吸を荒くした程度で、まだまだ余裕は崩れ切っていない。


「舐めやがって、敢えて斬り捨てなかったな」

「さぁ、どうだか。私を殺そうともしない鬼に言われてもね」

「…ふざけやがってぇ!」


刹那。

鬼沙の輪郭が今まで以上にブレた。

それに合わせて地面を蹴飛ばす。


さっきまで私が居た所へ、鬼沙の拳が突き抜けた。

風を切る音が、今まで以上に大きくなる。


「本気になった!さぁ、やれよ!」


鬼沙の中で何かが切れた様だが、私はとっくに感情が振り切れている。

外した様を見て笑うと、鬼沙は何も言わずにこちらを向いた。


再び一撃。

今度は躱しきれずに、腕の無い右肩を貫く。


痛みに顔を歪める間に、もう一発。

胸を貫き、勢いそのままに、右頬を拳が突き抜けていく。


一瞬のうちに、意識が何処かへ吹き飛んで戻ってくる。

ボロボロの体、歪んだ顔で、精一杯の笑みを鬼沙に向けた。


「殺せよ。やれるもんならなぁ!」


まだ、私は沈まない。

鬼沙からの猛攻も止まらないが、半分ほど躱して、もう半分は真面に食らう。

段々と体中の力が抜けてきた。

だけど、それでいい…そのまま…


鬼沙の一撃を真面に腹へ食らって宙に浮く。

刹那、私の視界に何か、鬼沙以外の影が映り込んだ。


「邪魔しやがって。テメェから先に消してやらぁ!」

「モト…!!」


お読み頂きありがとうございます!

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