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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
140/300

140.正気を感じられるほど、怖さが増していく。

正気を感じられるほど、怖さが増していく。

ハッキリと分かったことが1つある。

鬼沙は、決して正気を失っておらず、頭を回し、考え抜いて、行動をしているだけなのだ。


「ケッ…!」


初撃は単調な爆発から。

私とモトは、それを左右に跳んで交わした。


刹那、爆発。

小さな社が木端微塵になって砕け散る。


「モト、呪符は使うな!効かない!」

「分かってるよ!」


躱してすぐにそう叫び、私は刀を鞘から抜いた。

着地して、鬼沙に切先を向けた時、星空が輝いていた頭上を光が彩る。


「特等席で見せてやるって言ったよな。約束は果たしたぜ」


打ち上げ花火。

境内で眺めるよりも、大きく美しく見えた。

その光に照らされて、逆光になった鬼沙の表情は伺えない。


「何年遅いと思ってるのさ」


一瞬の会話。

私は足を踏み出して、一気に低空を駆け抜ける。

鬼沙の向こう側、モトも刀を抜いて、私と同じように鬼沙の方へと迫っていた。


「可愛くねえ奴」


一閃。


空を切って、急停止。

モトの刃すらも交わした鬼沙は、私達の間合いの一寸先まで逃げてニヤけた顔をこちらに向ける。


攻めの手を緩めない。

その顔目掛けて足を踏み出し、刀を振るう。

軽くいなされたが、鬼沙の目線は私の瞳。


「おぉ、おぉ!」


死角から迫る、モトの太刀筋が鬼沙を襲う。

寸での所で気づいて体を一捻り。

鬼沙のスーツを切り裂いただけで、鬼沙は間合いから飛びのいた。


「アブねぇ~」


緊張感の無い声。

頭上に響く花火の破裂音よりも大きく聞こえたその声は、余裕の色が色濃く感じられる。


「タイマンじゃねぇのは、チト、想定外だったわな」


そう言って、2人並んだ私達を見据えると、鬼沙はグッと体を沈める。


トンと地面を蹴り飛ばす鬼沙。

刹那、軽い地震が起きた。


二手に別れる私達。

今度の鬼沙は、私の方を目掛けて飛んでくる。


「くぅ!」


刀を手にした手。

後退しながらも、残った片目で動きを捕らえた。


一撃。


風を切り裂く音と共に振るわれた拳を寸での所で躱しきる。

チッと右頬を掠めると、黒い靄が血の代わりに噴き出てきた。


「嘘だろオイ…」


珍しく引いた声を上げる鬼沙。

攻撃の手は緩まず、振るってない方の手で私の首元、和服の襟を掴みあげて持ち上げる。

即座に鬼沙の喉元へ、下駄の歯を食い込ませて逃れた私は、お返しとばかりに刀を振るった。


一閃。


刃は鬼沙の肩を切り裂く。


「ぐ!」


初めて鬼沙の呻き声を聞いた。

血を飛び散らせて飛びのく鬼沙。

片腕のせいで動きが鈍った私の横を、モトが通り抜けていく。


一閃。


モトの刀も、鬼沙の肩の皮を切り裂いた。

これで、両肩。

私は刀を手にしたまま、懐に仕舞った呪符を1枚取り出す。


「下がって!」

「あぁ!」


距離を開けた鬼沙。

その両手、さっきまでと違って、今はしっかり開かれている。


「試してやるさ!」


手にした呪符は、ただの呪符。

真っ黒な光を纏わせて、鬼沙の周囲にサークルを作り出して、パッと手を離した。


爆発。


鬼沙を再び爆風が包み込む。

さっきのような、軽い手応えは感じない。

再び刀を構えて、爆風が揺らぐのを待ち構えた。


「前だ!」


モトの叫び声。

刹那、花火の照らす広場の中に舞い上がった煙が、微かに揺らめく。

右足を一歩後ろにズラして、揺らいだ爆風をジッと見据えた。


"影"が視界に映り込む。

何かを手にした影。

輪郭がボヤけて見えたそれは、黒いスーツ姿の男の影。

私は逃げずにその影を待ち構えた。


一閃。


真正面から飛び込んできた影に向けて刀を振るう。

手応えは、薄い。


即座に振り返って影を追う。

背後、同タイミングで振り向いたのは、真っ赤な瞳を血走らせた鬼沙の姿。

それを見た私は、全身の毛を逆立てた。


揺らぐ影、振るわれる腕。

それに合わせて体を動かして、振るわれた拳を躱して一瞬動きを止めた時。

片目しかない顔の前、視界一杯に、鬼沙の大きな掌が映し出される。


「あ?」


私の周りの時間が止まった。

花火の光、破裂音、それらが永遠に感じられる程に引き伸ばされる。

刹那、全身を、体感したことのない痛みがつんざいていった。


「沙月!!!」


お読み頂きありがとうございます!

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