140.正気を感じられるほど、怖さが増していく。
正気を感じられるほど、怖さが増していく。
ハッキリと分かったことが1つある。
鬼沙は、決して正気を失っておらず、頭を回し、考え抜いて、行動をしているだけなのだ。
「ケッ…!」
初撃は単調な爆発から。
私とモトは、それを左右に跳んで交わした。
刹那、爆発。
小さな社が木端微塵になって砕け散る。
「モト、呪符は使うな!効かない!」
「分かってるよ!」
躱してすぐにそう叫び、私は刀を鞘から抜いた。
着地して、鬼沙に切先を向けた時、星空が輝いていた頭上を光が彩る。
「特等席で見せてやるって言ったよな。約束は果たしたぜ」
打ち上げ花火。
境内で眺めるよりも、大きく美しく見えた。
その光に照らされて、逆光になった鬼沙の表情は伺えない。
「何年遅いと思ってるのさ」
一瞬の会話。
私は足を踏み出して、一気に低空を駆け抜ける。
鬼沙の向こう側、モトも刀を抜いて、私と同じように鬼沙の方へと迫っていた。
「可愛くねえ奴」
一閃。
空を切って、急停止。
モトの刃すらも交わした鬼沙は、私達の間合いの一寸先まで逃げてニヤけた顔をこちらに向ける。
攻めの手を緩めない。
その顔目掛けて足を踏み出し、刀を振るう。
軽くいなされたが、鬼沙の目線は私の瞳。
「おぉ、おぉ!」
死角から迫る、モトの太刀筋が鬼沙を襲う。
寸での所で気づいて体を一捻り。
鬼沙のスーツを切り裂いただけで、鬼沙は間合いから飛びのいた。
「アブねぇ~」
緊張感の無い声。
頭上に響く花火の破裂音よりも大きく聞こえたその声は、余裕の色が色濃く感じられる。
「タイマンじゃねぇのは、チト、想定外だったわな」
そう言って、2人並んだ私達を見据えると、鬼沙はグッと体を沈める。
トンと地面を蹴り飛ばす鬼沙。
刹那、軽い地震が起きた。
二手に別れる私達。
今度の鬼沙は、私の方を目掛けて飛んでくる。
「くぅ!」
刀を手にした手。
後退しながらも、残った片目で動きを捕らえた。
一撃。
風を切り裂く音と共に振るわれた拳を寸での所で躱しきる。
チッと右頬を掠めると、黒い靄が血の代わりに噴き出てきた。
「嘘だろオイ…」
珍しく引いた声を上げる鬼沙。
攻撃の手は緩まず、振るってない方の手で私の首元、和服の襟を掴みあげて持ち上げる。
即座に鬼沙の喉元へ、下駄の歯を食い込ませて逃れた私は、お返しとばかりに刀を振るった。
一閃。
刃は鬼沙の肩を切り裂く。
「ぐ!」
初めて鬼沙の呻き声を聞いた。
血を飛び散らせて飛びのく鬼沙。
片腕のせいで動きが鈍った私の横を、モトが通り抜けていく。
一閃。
モトの刀も、鬼沙の肩の皮を切り裂いた。
これで、両肩。
私は刀を手にしたまま、懐に仕舞った呪符を1枚取り出す。
「下がって!」
「あぁ!」
距離を開けた鬼沙。
その両手、さっきまでと違って、今はしっかり開かれている。
「試してやるさ!」
手にした呪符は、ただの呪符。
真っ黒な光を纏わせて、鬼沙の周囲にサークルを作り出して、パッと手を離した。
爆発。
鬼沙を再び爆風が包み込む。
さっきのような、軽い手応えは感じない。
再び刀を構えて、爆風が揺らぐのを待ち構えた。
「前だ!」
モトの叫び声。
刹那、花火の照らす広場の中に舞い上がった煙が、微かに揺らめく。
右足を一歩後ろにズラして、揺らいだ爆風をジッと見据えた。
"影"が視界に映り込む。
何かを手にした影。
輪郭がボヤけて見えたそれは、黒いスーツ姿の男の影。
私は逃げずにその影を待ち構えた。
一閃。
真正面から飛び込んできた影に向けて刀を振るう。
手応えは、薄い。
即座に振り返って影を追う。
背後、同タイミングで振り向いたのは、真っ赤な瞳を血走らせた鬼沙の姿。
それを見た私は、全身の毛を逆立てた。
揺らぐ影、振るわれる腕。
それに合わせて体を動かして、振るわれた拳を躱して一瞬動きを止めた時。
片目しかない顔の前、視界一杯に、鬼沙の大きな掌が映し出される。
「あ?」
私の周りの時間が止まった。
花火の光、破裂音、それらが永遠に感じられる程に引き伸ばされる。
刹那、全身を、体感したことのない痛みがつんざいていった。
「沙月!!!」
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