138.暗がりの中が、こんなにも明るく感じるとは思わなかった。
暗がりの中が、こんなにも明るく感じるとは思わなかった。
満身創痍だった体は、あんなにも動かなかったというのに、それが嘘みたいに調子がいい。
今なら、何だって出来そうな位…実際はそんなことないのだけれど、この自惚れが続く間に、事を始めてしまいたかった。
「元治殿、沙月嬢を、頼みましたぞ」
10日、すっかり日が暮れた頃。
1日ぶりに帰って来た我が家で昼間の時間を過ごした後。
私達はメノウに見送られて、夜の闇へ繰り出した。
私は右目右腕が無い以外、普段通りの和服姿に、家にあった刀を2本腰から下げている。
モトは、狐面とピアスで"強化"している以外、概ね私と同じ格好をしていた。
今の私達は、普通の人には"見る事が出来ない"、妖の姿。
今回の1件で妖化が進んだ私はいいとして、モトがここまで強い妖力を発揮出来るとは思わなかった。
だけど、良いニュースがあると言えば、たったそれだけ。
たった一つの、それもちっぽけな良いニュース以外は、私達が最近得た情報はどれも悪いニュースばかりだった。
「不安になって来た?」
「ならないわけ無いだろ」
家から出て、街灯の無い道を歩いていく。
浮ついた感じを纏ったまま、それを拭えぬまま、私は待ち合わせ場所に向かっていた。
「今日で終わりだと思えばさ、何か、頭が軽くて、ね?」
どこか投げやりで、適当なことを言うような口調でお道化る私。
家の留守を守るのは、メノウ達、"沙絵の配下の妖"だ。
それ以外の家の者達は、京都からやって来た防人共々何処かへ姿を消してしまった。
「付き合わされる身にもなってみろよ」
「なら、逃げても良かったって話さ。ちゃんと、言質は取ったからね」
「逃げれるかよ。この状況で、やるしか、無いじゃないか」
フワつく私。
緊張の面持ちを隠せないモト。
1日の空白期間を終えた後、行き成りの"仕事"は、鬼沙を"隠す"事。
私達は、互いに自分を繕いつつ、全身に流れる嫌な汗までは誤魔化すことが出来なかった。
「震えてるよ?」
「そっくりそのまま返してやる。お互い様だ」
震えていても、足取りは緩めない。
今から行く先は、隣の家の裏庭みたいな場所。
人が立ち入る事の出来ない場所、そこは、妖達のテリトリー。
そこに、今回の騒ぎの元凶が待っている。
入舸鬼沙。
昔、私に仕えていた鬼。
死んだはずの男。
いつの間にか私のアドレスを持っていた彼から、煽るような文言と共にメールが送られてきたのは、ついさっきの事だった。
メールに添付された1枚の写真。
そこには、眩い輝きを放つ、不思議な宝石のような石がズラリと並べられていた。
その写真に、添えられていたのは、味気ない一言。
"後は沙月だけ"
宝石をよく見れば、その1つ1つにはシールのような物が貼られていた。
ある石には"入舸沙絵"、ある石には"入舸沙雪"…悪趣味にも程がある。
何を暗示しているか、考えたくなかった。
「家の人には連絡入れた?」
「するかよ。速攻出張ってきて、俺だけ連れ戻されて終わりだ」
「やるねぇ」
短い道中、家から歩いて3分で、約束の場所までやってこれる。
藤美弥神社の裏手は、我が家から見て目の前にある様なもの。
普通の道から、よく目を凝らさねば見つからない"獣道"へと入って行く。
「この道さ、人だったら見えないんだよね」
「じゃ、ちゃんと見えてる俺は、めでたく半妖になれたって訳だ」
「めでたくないけど、今回に限って言えば、めでたいな」
「素直じゃない奴」
「正直、今の私を見れるだなんて、思ってもいなかったから」
明かりの無い獣道。
1人分の幅の道を、歩いていくと、やがて広場が目の前に広がってくる。
「着いた」
快晴の夜。
疎らに見える星が、広場を照らしている。
人であれば、真っ暗闇にしか見えないだろうけれど、妖になりかけた私達の目には、広場が凄く明るく見えていた。
「何だよこれ」
獣道を越えて現れた光景に、モトが呟く。
普段であれば、だだっ広い広場に、古びた"社"が1つポツリと佇むだけ。
それだけの広場なのに、ただ、社の周囲にこの近辺に住まう妖達が集まって踊り明かすだけの広場なのに、今日はその様子が少し変だった。
「さぁ?」
広場の隅、私に送られてきた"宝石"がズラリと、丁寧に並べられている。
1つ1つが眩い輝きを放っていて、それが広場を明るく照らしていた。
「鬼沙に聞けば、分かるだろうさ」
そう言って、社の方まで歩いていく。
モトの背丈程の高さの、小さな社。
その屋根に飛び乗って、屋根の上に座ると、モトが横にやって来た。
「罰当たり」
「何を今更。今何時?」
「8時半過ぎ」
「じゃ、鬼沙はまだ来ないよ。21時。9時キッカリに来るだろうね」
遠くに聞こえる海の音と、虫の鳴き声が支配する空間。
私達は、そこまで広くない屋根の上に並んで、ボーっと空を眺めてみる。
「やり口は非道な割に、沙月には真っ向から挑むってのも、不思議だよな」
暫く空を眺めていると、不意にモトが呟く。
私は、それに何かを言いかけたが、口を閉じた。
「何が目的か知らないけど、あの事故の時に、一緒に連れ去っても良かったのに」
「何が言いたいの?」
「何も、ただの感想。1人だけになっても、入舸の人間を1日足らずで連れ去れるだけの力があるのに、沙月だけは特別扱いだよなって」
何気ない疑問。
思っていても、口には出さなかった疑問を、モトが口にした途端。
私の頭の中に、何かが渦巻いていく。
「彼らは、私が"目的"だったのさ。私"で"何をしたいかは知らないけど。鬼沙は、真っ向から狩りたいだけだと思うよ」
「その割には、酷い様だよな。傷だらけで、目も、腕も無いんだ。噂に聞いてる話じゃ、誤魔化し嫌いって聞いてたんだけど」
「知ったこっちゃない。ずっと昔とは、違うってことでしょう。最期の時だけ、真っ向から挑めれば良いって事なんじゃない?……!!!!!!」
そう言った刹那、私達の背筋が凍り付くほどの妖力を背後から感じた。
顔を見合わせて言葉を失う私達、ゆっくりと振り向けば、獣道に1人分の人影が見える。
「ちょっと違うんだなぁ、沙月ぃ。お前には、分かりっこねぇ話だもんなぁ」
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