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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
137/300

137.まさかそうなるだなんて、思ってもみなかった。

まさかそうなるだなんて、思ってもみなかった。

ベッドの上、体を起こした私の足元に、ヒラヒラと落ちてきたのは、1枚の羽。

それを手に取った時、部屋の空気が一気に凍り付いた。


「どうしたのさ、距離取っちゃって」


羽をベッドの脇に捨てた私は、私から離れて構えたモトを見て苦笑いを浮かべた。

窓から差し込む光は、夕方特有のオレンジ色を宿していて、その光がモトと私の間を遮っている。

左手で頭を弄ってみると、後頭部…襟足よりちょっと上の方に、柔らかくも、感触がコリっとした何かを感じられた。


「よく、枕で寝られたな。こんな頭でさ」


未だに構えを解かないモトを他所に、私は口元を吊り上げながら、その感触を確かめた。

その感触は、右と左に計2つ。

ハッキリと分かる、コリコリした感触から周囲を探ってみれば、フワフワとした羽毛の様な手触りが感じられる。


「沙絵も、冗談で言ってたはずなんだけどね」


その感触、手に感じた"羽"の感触をつまみ上げて、プチっと抜いてみる。

その手を顔の前に持って来ると、髪色と同じ…白菫色の羽が見えた。


「沙月、大丈夫なのか?」


ようやく、恐る恐るといった感じでモトがベッドの脇に戻ってくる。

私は手にした羽を彼の方に飛ばすと、肩を竦めて頷いた。


「この通り。私は私のままだけど」

「そうか。良かった」

「なにさ、あぁ、この間戻ってから暴れた話、知ってたからか」

「あぁ。急に見境無くなるって聞いてたから、ちょっとね」

「ごめん。そうだった。でも、今は大丈夫。鏡とか無い?その辺にあったと思うんだけど」


また、さっきまでと同じ位置で会話を交わす私達。

私の問いに、モトは周囲を見回すと、机の上に置かれていた手鏡を取って私に寄越した。


「ありがと」


それを手にして、鏡で自分の頭を見て回る。

片目しかないから、そこまで広範囲には見えないが、後頭部に生えた"翼"は、小さいながらも、正面から見て"ある"ことが分かる程度には自己主張している様だ。


「これじゃ、空も飛べなさそう」

「飛べたらいよいよだぜ。しっかし、凄いな、その頭。重くないのか?」

「全然、寧ろ、少し軽く感じる?」

「まさか」

「本当本当、脳みそでも少なくなったのかな」


そう言って笑うと、ようやくモトの引きつった表情が苦笑いに変わる。


「元々小さい方だったんじゃないの?」

「失礼な。これでも、ちゃんとそれなりの高校に受かってるんだぞ」

「はいはい。とりあえず、ちゃんと沙月のままで居てくれて良かったよ」


苦笑いを浮かべたままのモトをジトっとした目で見つめると、彼はスマホを取り出して何かを確認していた。


「諸々の面倒ごとは下に居る妖達がやってくれたし、あとは家の人達に任せればいい。その体じゃ暫くは動けないだろ?」

「それが、無理なんだ」

「は?どうして?」

「沙絵が鬼沙に攫われた。8月10日の21時に、藤美弥神社の裏で会おうだって」


驚きを徐々に深めていくモトに、私は淡々と、さっきの出来事を話していく。

さっきの出来事は、さっき鬼沙に突っ込まれて事故に遭った時の話。

モトは何も言わずに、相槌だけを打ってくれていたが、その顔は段々と青褪めていた。


「知ってるか分からないけど、鬼沙、本家の人間がどうこうできる相手じゃないでしょ」

「それは、そうだろうけどさ。沙月、無茶だろ。呪符で治療してその体なんだぞ?」


モトに言われて、私は自分の体に視線を移す。

さっきまで着ていた和服とは、違う意匠の和服を着せられている体。

不思議と、痛みは感じない。

そこから伸びる手足には、もれなく赤いシミが付いた包帯が巻かれていた。


「動けないだろ?酷い状態だったんだぜ」

「確かに。痛みは無いけど、動かそうと思ったら、ちょっと鈍いや」


手をヒラヒラ振りながら苦笑いを1つ。

鬼沙のいう、10日の21時は明後日だ。

こんな体じゃ、ただ行ってやられるのがオチというもの。


「兎に角、時間も場所も分かってるのなら、本家の人間に…」

「待って。沙絵が居るの。無理でしょう」

「…なら、聞くが。沙月、出向く気じゃないよな?」

「出向く以外無いでしょ?」

「正気か?歩くのも覚束ないはずだぞ?足が両方とも折れてるかもって…」

「打つ手は、ちゃんとあるから」


押し問答。

客観的に見れば、頭がおかしいのは私の方だろうか。


「さっき私が着てたやつ、何処にある?」

「何処にって。捨てたんじゃないかな。血だらけだから、どっかの袋に分けてると思うけど」

「そう。取ってこれる?」

「何を考えてるか先に言ってくれ」


モトの目をジッと見据える私。

彼も、真面目な目をこちらに向けていた。


「あの和服に隠した呪符が欲しいの」

「呪符?でも、血だらけだぞ、きっと」

「良いの。隠した呪符は、沙絵のとっておきだから」

「とっておき…赤紙とかじゃなくて?」

「そう。時間が無いの。お願い」


そう言って、モトに向ける顔を更に険しくする。

彼は、私から目を逸らして、少しの間考える素振りを見せると、諦めたように手を上げた。


「待ってて」


一言、そう言って、小走りで部屋から出ていく。

昔の家らしく、モトの足音が遠くに行っても、ここまで良く聞こえた。


「後悔するのは、後で良いから」


その間に、私はもう一度、手鏡で自分の顔を映し出す。

鏡に映った私の顔、今朝の私は、見慣れない眼帯を着けて、鬼のような角を生やし、ヒョコヒョコと動く狐の耳が頭に乗った姿だった。


それが、今はどうだろう?覚えている姿に加えて、後頭部から生えた、なんの鳥ともに似つかない小さな翼が増えている。

白菫色の羽毛、よく見れば、羽の先端部分には、黒い模様が付いていた。


「次は、何処が変わるかな」


そう言いながら、手元に目を向ける。

まだ、手足は人間のままだが、頭がこうなってしまった以上、首から下が変化しない保障は何処にも無い。


「沙月、持って来たぞ」


ジッと鏡を見ていると、和服だけが入ったゴミ袋を手にしたモトが戻ってくる。


「ありがと。それにしてもさ、妖力も、体も、強くなったんじゃない?」


袋を私の傍に置きに来た彼にそう言うと、モトは少し嬉しそうな顔を浮かべて頷いた。

そのまま、間近に来た彼の襟首に手を伸ばし、掴んでギュッと顔を近づける。


「ねぇ、モト。またさ、私の相棒になって欲しいんだけど。良いよね?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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