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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
135/300

135.想像すると、耐え難い光景が思い浮かぶものだ。

想像すると、耐え難い光景が思い浮かぶものだ。

カフカと離れ離れになった渠波根の行く先、それは何処へ行っても変わらない。

人のいない世界に飛ばされて、カフカの術もかからず、ただ死体に戻って朽ち果てていくだけなのだから。


「エグイ未来予想図が浮かんだんだけど」


沙絵が、カフカを失って生気を失った渠波根を”隠した”直後。

私は、そう言って苦い表情を浮かべた。


「別に、このまま焼き場に行っても良かったのですがね。表向きには、彼女は”失踪者”ですから。誤魔化さないといけない相手が多すぎます」

「確かにそうだけどさ、隠す前にはもう、死んでたよね、アレ」

「ええ。風雷カフカの術で修繕、強化されていた様ですが。死後硬直も、腐敗も始まっていましたね」

「なら、カフカの横に居ても長持ちしなかったんじゃないの?」

「どうでしょうね。捕まえた当初は体温がありましたから、それが、カフカを失って急激に”死んでいった”ので」


出現していた異境への扉も、私達の手で”閉じられて”、元通りになった展望台。

所々にオレンジ色の血が付着している以外は、普段の光景に戻っていた。


「腕が1本。そう言えば、外にもう1本飛んできましたっけ」

「そういえば。ごめん、片付け面倒だった」

「まぁ、見つからないなら、それでいいんじゃないですか?こんな、ホラ」


展望台の上に転がっていたカフカの左腕を掴みあげた沙絵は、私にその腕を見せつける。

切り口から止めどなく溢れ出て来るオレンジ色の血、青白い肌も相まって、パッと見では人の腕のように見えるものの、よく見れば見る程、ジョークグッズにしか見えなくなってきた。


「まぁ、いっか。人気ないし、この辺」


そう答えると同時に、沙絵はヒョイと展望台の向こう側に腕を放り投げる。

腕が消えた方、目の前に小島を望める景色をジッと眺めると、私達はどちらともなく階段の方へと足を踏み出した。


「完了報告しないと」

「そうですね。あとは、この辺の"掃除"も、お願いしておきましょう」


登って来た道を降りていく。

2人が並んで歩けるかどうかの狭い獣道。

降りていく間に、沙絵は何人かに電話で結果を報告する。

近くで、沙絵と相手の会話を聞いている限り、もう一方の方も上手くいったみたいだ。


「残るは鬼沙だけか」


通話を切って、少し間を置いた後で、ボソッと一言。

沙絵は何も答えずに、肩を竦めて見せた。


「どうするんでしょうね」

「本家が居るなら、素直に真正面から会いに行きそうだけどね」

「後は鬼沙1人だけ…なんて知れたら、人前でも容赦無く暴れそう。今の、状態ならね」


獣道を歩く私達の足取りは、最初は軽やかだったのに、段々と重くなってくる。

厄介事が、殆ど一気に片付いたはずなのに、残った1つが大きすぎた。


「そうだ、沙月様」

「何?」

「小樽には戻らなくていいそうですよ」


重くなった空気を変えようと、沙絵は少し作った様な声で話題を変える。


「え?」

「本家も来て、77号は消えて、他の妖も掃討中。人手は足りますから」


 ・

 ・

 ・


コガネ岬を後にして、車に乗って帰路に付く。

向かう先は、小樽ではなく、その反対。

この間も1日だけ寝泊まりした、昔の家だ。


「後の事は、一旦考えない様にしましょうか」


海の見えない、緑に囲まれた道を駆け抜けて行く。

窓を開けてみれば、暑いながらも、ちょっと涼しく感じる風を感じられた。


「目も腕も無いままなんだけど」

「それは、おいおい考えましょう。最悪、"新しく"出来ますから」

「前にも聞いたけどさ、どうやって?」

「"黄紙の呪符"で治癒させれば可能です。人には使いたくないのですが…」

「"黄紙の呪符"?あぁ…」

「その中に入ってます。私や八沙の様な妖の"とっておき"なんです」


言われた通りに目の前の小物入れを開けると、あまり見たことが無い呪符が数枚、無造作に収められている。

この間、異境で初めて見た呪符…"黄紙の呪符"を手にしてみると、私が使う中でも一番効果が強い、"赤紙の呪符"以上の力を感じ取れた。


「それは、妖にしか扱えません。今の沙月様でも、恐らく無理です」

「そう。でも、これを使ってどうやって治すのさ。今の私は、こんなんでも人でしょ?」

「その辺は変わりないですよ。傷の手当と同じです。患部に当てて、呪符越しに念を流すだけ。そうすれば、1日かそこらで生えてきますし、目も見えるようになるでしょう」


サラリととんでもない事を言っているような気がする。

私は少しだけ、口をポカンと開けると、そっと呪符を元の場所に戻した。


「ちゃんと元に戻るの?それ」

「ええ、戻りますよ。沙千様が、過去に経験しています。空襲を受けた時…」

「生々しい話になりそう」


沙絵の言葉に割り込んで止める。

そして、ふと、サイドミラーの方に目を向ければ、丁度後ろから、凄い勢いで1台の車が近づいていた。


「凄いの来るよ」


暗い色の車。

沙絵も、バックミラーの方に目を向ければ、私と似たような顔を浮かべる。


「もうじき入舸ですし、急いでも意味が無いのですがね。楽しいんでしょう、きっと」


そう言いながら、沙絵はウィンカーを上げて進路を譲った。

車の速度が落ちていく。

そろそろ家が見えてくる頃合い。

ミラーに映った車、一気にその姿が大きくなっていく。


「え?」


影が間近に迫った刹那。

背中に、突き抜けるような衝撃。

体が軋む音、鉄が軋む音…ガラスが砕け散る音が、同時に耳を突き抜けていった。


「くっ!」


エアバックは開かない。

一気に滑りだした私達の車、目の前には緩やかな左カーブが迫りくる。

対向車がいれば、一巻の終わり。


前を見据えて剥かれた目。

周囲を流れる景色が遅く感じた。

背筋を凍らせる様な速さで横に流れる車。

そこに再び、背後からの衝撃が1つ。


対向車線にはみ出す車。

幸いにも、そこにも、その先にも、他車はいない。

カーブを越えて、直線に入るが、私達の車の鼻先は、道路の外を向いている。


この状況で、無事に切り抜けられる未来を、描ける訳が無かった。


「お願い、止まって!」

「クソッ…!ブレーキ…利かない!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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