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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
134/300

134.得意の手品を封じてしまえば、ただの雑魚の出来上がりって訳だ。

得意の手品を封じてしまえば、ただの雑魚の出来上がりって訳だ。

展望台の屋根の上に座って、1人景色を眺めながら、これからの一連の流れを何度も思い描いていた。

何度思い描いても、来る未来は変わらないから、きっと、上手くいくはずだろう。


「良い景色」


獣道の様な狭い林道を歩いた先にあるコガネ岬。

その先端にある展望台から見える景色は、何度見ても気分が晴れ晴れするものだ。

普段であれば、こんないい天気の日にここに来れば、何人かとすれ違ったり、展望台で誰か他人が居るものだが、今日は1人にもすれ違わずにここに来れた。


「暫く独り占め出来るだなんて、贅沢。見慣れてるけどさ」


今いる展望台の屋根の下には、77号の妖が使うであろう”扉”がある。

それを目当てにやって来るであろう風雷カフカと、渠波根朱莉を隠す為、この辺り一帯に立ち入り制限をかけて貰ったお蔭だ。


結局、メノウから連絡は来なかった。

私達が美国入りして、諸々準備が整った頃に、トーカーからメッセージが1つ、飛んできたのみ。


”来たぞ”


と、短い一言だけ。

それを受けて、私は展望台の屋根の上に。

沙絵は展望台の下の茂みに姿を隠して時を待つ。


きっと、カフカは私達の妖力に気づくだろう。

だが、この間の夜の雰囲気から察するに、何処に居るかまでは勘付かないはずだ。


「結構歩くっすね!」


波風の音、木の葉や枝が擦れる音…鳥の鳴き声に混じって、渠波根の声が聞こえてきた。

私は、腰に下げた刀に手を当てる。

そっと、刀を握ると、そのまま、ゆっくり引き抜いた。


「割と。この上に、創ってくれた。仲間が」

「異境、行くの初めてなんすよね。ま、長女でもないし当然っすけど」

「異境、こっちでは、そういうけど、カフカからすれば、こっち、異境」


話し声。

砂利の上を歩く音。


その音は、やがて木の床を歩く音に変わり、階段を上がってくる音となる。

私は、その音から居場所を推測しつつ、じっと息を潜めて待ち構えた。


「渠波根ちゃん、ストップ」


カフカの声。

足音が消える。


「なんすか?」

「さっきから、妖の、気配する。いひ、ひひひひひ!この気配!入舸沙月だ!」

「まさか!?」

「する!いひ、ひひひひ!この辺りの何処かに!」

「追いかけてきたんすか!?嫌だ。入っちゃいましょうよ!」

「いひ!ひひひひひ!そうだね!どうせ、扉を開ければ、もう…!」


グッと足に力を込めた。

パッと低く、前に飛び出し、体は一瞬宙に浮く。

そのまま、体を下に沈み込ませ、刀を持った手先で、屋根のヘリを掴んで急旋回。


「Good Morning!」


グルリと回転させて、前を向いた時。

不意に口から出てきたのは、中学の頃の、担任の先生のご挨拶。

上から”降って来た”私、扉の"目の前"に降り立つ私を見つめた2人の表情は、驚きに染まる。


「ウソ…!」

「入舸…沙月!」


叫び声が上がる。

それを聞き流しつつ、着地と同時に前へ一歩。


一閃。


カフカの左肩から先が斬り飛ばされた。

左手は、渠波根の右手を握ったまま、オレンジ色の気色悪い血飛沫を上げる。


「あぁ!」


勢いは殺さない。

そのまま、更に一歩踏み出して、右足を伸ばした先…カフカの鳩尾に1発蹴りを入れた。


吹っ飛ぶカフカ。

それを追いかけ、更にもう一歩足を踏み込む。


「待…!」


私の横。

呆然と、場を見守るしかない渠波根が叫んだが、もう遅い。


一閃。


カフカの右肩から先が、展望台の向こう側へと落ちていく。


「ふぅ…」


そこでようやく足を止める。

オレンジ色の血を吸った刀、その血を薙ぎ払って納刀。

そのまま、展望台の手すりにぶち当たったカフカを見下ろすと、ニヤリと口元を吊り上げた。


「この…!あっ!」


背後から渠波根の声。

何者かの足音と共に、その声は塞がれる。

チラリと背後を見やると、沙絵が渠波根を羽交い締めにしていた。


「いひ、ひひひ…入舸、沙月。片手、片目、なのに、どうして」

「往生際が良いね。もう少し、諦めが早ければ、放ってたのに」

「えぇ。もう、遅い。いひ、ひ、ひ、ひ…動け…ない」


ガックリと力を失い、首を垂れるカフカ。


「本当に諦めたの?」

「無理、いひ、ひひひひひ!カフカ、達、力、無い、カラ、カラ、ひひひひひひ!」


両方の肩からは、止めどなくオレンジ色の血が流れていた。


「…死体を操るとはね。で、質問なのだけど」


"本性"を見せない事に、少し違和感を感じつつ、私は気になっていた事を尋ねる。

既に、左手に持った呪符は、金色の光を纏っているのだが、やる前に確認したい。


「渠波根と離れたらどうなるのさ?」

「いひ?ひひひひひ!それは、勘弁」


答えらしい答えでは無いが、良く分かった。

私はそれを聞いて、意地の悪い笑みを返す。


「そう。無理な注文だね。私にも、行き先は分からないんだな、これが」

「え…?」


淡々と告げると、カフカが絶望に染め上げられた顔をこちらに向ける。


「防人は、妖を何処かに隠すだけさ。行き先は知らない。行った先で頑張りなさい」


そう言うと、左手に握った呪符を、パッと離す。

刹那、金色の光がカフカの身を包み込んだ。

断末魔のような叫びを上げたカフカの姿、何の抵抗も出来ずに、光に包まれ消えていく。


「そっちは向こうじゃただの死肉さ。カフカが迎えに来てくれるまで、残ってるかな?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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