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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
133/300

133.引き際が潔いのは、結構なことだ。

引き際が潔いのは、結構なことだ。

深追いせず、戻れくなる前に、諦める。

ああ、大事な事だろう…だけど、その判断は、もう少しだけ、遅かった様だが。


「まだ、逃げると決まったわけじゃないでしょう?メノウ」


カフカと渠波根の乗る車を追いかけている時に鳴った電話。

その相手、メノウの言葉に、私達は少しだけ混乱していた。

内容は、美国にあるコガネ岬に、"異境"と繋がる扉が出来たというもの。

今向かっている方角とピッタリ合致するといえど、彼女達が"逃げる"とは思えなかった。


「いや、逃げるじゃろうて。出来てから、未だに開かぬのじゃ」

「出来てからって。出来てすぐでしょ?」

「違う。確かに見つけたのはついさっきじゃ。天狗から連絡があった。調べてみれば、出来てから優に1日は過ぎてるそうじゃぞ?」

「「1日?」」


メノウの言葉に、再び驚く私達。

今度は私だけでなく、運転していた沙絵も声を上げた。


「誰も気づかなかったの?」

「そうらしいの。不思議じゃな」

「何か仕掛けがあるとか?」

「分からぬ。見ないことには」

「そう。まぁ、今の状況が全てなら、いいや。分かった。ありがとう」

「で、どうするんじゃ?」


混乱の中、私と沙絵は少しの間目を合わせる。

前を向けば、トロトロ運転の黒いセダン。

裏から回って、飛ばせば、コガネ岬には早く着けるだろうが…

彼女達の行先が、本当にコガネ岬なのかが分からない。


「メノウ、扉の周囲の人払いの連絡と、前の車の見張りをお願いしたいって言ったら、出来るかしら?」


迷ってる間に、沙絵が電話に話しかける。


「出来るぞ。車は、前の黒いのじゃろ?見えておる。ナンバーは…あぁ、31-129じゃろ?」

「正解。コガネ岬の方まで来なかったら、電話して」

「分かった。任せろ!」


そこで通話が切れる。

沙絵に変わって、スマホを操作して画面を真っ暗にし、オーディオの音量を上げると、車内には再び懐かしい曲が聞こえ始めた。


「どっかで折れますか」

「この先のさ、短いトンネル過ぎた先から曲がれば?」

「そうしましょうか」


方針も決めて、後は実行に移すだけ。

ノロノロ運転の車の後ろに居るのは、もう少し。

海が望める道に現れた、短く狭いトンネルを越えると、再び運転席越しに海が見える。


「ここだ」


快晴の空の下、穏やかな海岸線の景色に目を細めている暇は無い。

真っ直ぐ行けば良いだけの道から、態々左に折れて、海から離れていく。


「遠回りですからね。ちょっと飛ばし気味で行きますよ」


静かだったエンジン音が、甲高い唸り声を上げた。

真っ直ぐ、周囲を緑に囲まれた田舎の景色の中を突き進む。

そこから、レモン街道に合流して、本来の方角に向けて、沙絵は更に車を加速させる。


「ネズミ捕りしてたらどうしよう?」

「無視で」

「あとで母様にドヤされるなぁ。それ」


片側1車線だけど、思わず飛ばしてしまいそうな道。

沙絵にとっては、幾度となく通った道。

ジェットコースターよりも速く駆け抜けて行く。


「そう言えば来年でしたっけ?余市まで高速伸びるの」

「さぁ、そうだっけ?知らないや」


信号が殆どない裏道。

距離は長いが、まぁ、あのノロさなら問題は無いはず。

出来かけの高速道路の出入り口の前を越えて、線路を過ぎて、道の駅すら越えれば、さっき走っていた道に戻ってくる。


「どうでしょうか」

「遅れてたら、メノウがなんか言ってくるでしょ」

「確かに」

「それで、扉、どうする?」

「逃がすつもりは無いです。ただ、どうしましょうか。揺らいでます。隠しても良いのですが、1日も"バレず"に扉を出せる相手ですし、"話が通じる"相手でもありますから」

「勿体ないって?」


元の道に戻った私達は、この先の話を始めた。

まだ、コガネ岬が"目的地"だと決まった訳では無いが、十中八九間違いないと見て良いはずだ。


「両方生け捕りにしてみる?」

「道具がありませんね。あと、人手も」

「捕えても、本家引き渡しだろうしね」

「そうでしたね。八波木の分の罪滅ぼしと言わんばかりに5名も送ってきましたっけ」

「でも、ウチ的には、まだ黒に近いグレーでしょ?」

「確かに。それに、捕まえるなら、家栗と八波木のペアの方が美味しいです」

「こっちには私と沙絵しかいないのに、向こうには何人か付いてたしね」

「はい」


美国までは1本道。

私達は、互いに1つ溜息を付くと、どちらともなく顔を見合わせた。


「隠しましょうか。向こうは幹部2人。こっちは雑魚2人です」

「でもさ、連中の目的、私なんじゃなかったっけ?」

「鬼沙がホテルに引きこもってるのであれば、もう厄介な相手は居ないとでも思っているのでしょうね」


沙絵はそう言うと、再び溜息を一つ。

その後で、私の方をチラリと見やった彼女の瞳は、何時もよりも弱々しい。


「現実を思い出してしまいましたね。申し訳ありませんが、実を言うと、私、少し自信を失いかけています」

「急に。止めてよ。大丈夫さ」

「そう言っていただけると助かりますが、あの日、八沙と逆の立ち位置だったのならと思うと…」

「弱音は後!まだ、怪我で済んでるんだから。ネガティブにさせないでよ」


話し合う内に直視してしまう現実。

私達は互いに口を閉じると、暫くの間黙り込む。


今から相手にする妖達は、ただの雑魚だ。

対処法さえわかってしまえば、後は造作もない相手。

なのに、なのに、何故か、恐ろしいという感情が消えなかった。


そうこうしているうちに、周囲の景色から、街らしさが消えていく。

建物が疎らに見える様になり、長いトンネルと、海が交互にやってくる。


車の数は、そこまで多くない。

沙絵は、普段よりも少し速めの速度で車を走らせていた。


「あの岩、小さくなってってますよね。昔より」


長い沈黙を破ったのは沙絵だった。

私は沙絵の向こう側に見えるローソク岩を眺めて、クスッと笑う。


「何時だったか、八沙ともそんな話してたな」


そう言っている間に、再び車はトンネルの中へ。

目的地が迫る中、私はゆっくりと"準備"を始めた。


「隠すにしても、大騒ぎにならない様にしないとね。すぐ、終わらせてあげないと」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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