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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
129/300

129.想像通りと言えたが、状況は思った以上に酷いものだ。

想像通りと言えたが、状況は思った以上に酷いものだ。

暗闇の中、派手な爆発と共に見せられた光景は、私と沙絵の想像通りの結末。

だが、その想像が当たってしまったとなれば、最早問題は私達の手の内に入らない。


「さぁて、逃げよ!」


爆発の結果を目の当たりにした。

苦笑いを、引きつらせた笑みに変えつつ助手席のドアを開ける。

座って、ドアも閉め終わらないままで、沙絵は車を急発進させた。


「まさか、冗談でしょ?」


エンジンが甲高い音を響かせる。

その騒音に負けない様に声を張り上げた私は、沙絵の方に顔を向けた。

沙絵も私と同じように、ニヤつきながらも、口元を引きつらせて笑っている。


「まさかでしたね。八波木、まさか、あの男も死体だったとは」


車に飛び込む直前。

呪符の爆発をモロに食らった八波木の身は、渠波根と同じように、木端微塵に砕け散った。

生きている妖や、人であれば、怪我は免れないにせよ、派手に砕けるはずもない威力。

これでハッキリしたことは、八波木も何処かのタイミングで"殺された"という事。


「電話です。あぁ、メノウでしょうかね、きっと。沙月様、お願いします」


レモン街道をひた走る私達。

沙絵に投げ渡されたスマホをキャッチして、通話ボタンをタップする。

このタイミングで、助手席と運転席の、開いていた窓が閉まった。


「もしもし?」

「おい、さっきのは何が起きたのじゃ?あれは、防人の人間じゃろう?」


電話に出るなり、メノウの声がスピーカー越しに聞こえてくる。

その声色だけで、メノウ達の反応も想像できるというものだ。


「メノウ、お疲れ。こっちも驚いてるから逃げてるんだけどさ。そっち、何か変わった?」

「いや、不気味なほどに動きがないわい。防人も…あぁ、たった今、"復活"した様じゃぞ」

「そう。2人共、バレて無いよね?」

「ここまで高いと、バレる距離ではないじゃろうな。おお、奴等何か話し始めたわ」

「そう。そのまま見張りお願い出来る?その廃墟から、何処に戻るか…そこまでお願い」

「任せておけ」

「じゃあ」


短い会話。

通話を切ると、私は溜息を一つつく。

ここまで来て、ようやく体中の緊張が解けていった。


「とりあえず、速度落としてよ」

「そうしましょうか」


カッ飛んでいた私達。

沙絵が車を減速させると、周囲に響いていた甲高い音が半減した。


「これで、眠れない夜になりましたね」

「全くさ。で、どうしよう。おばあちゃん、起きてるかな」

「どうでしょう。もう、75ですからね。元々、早寝早起きな方ですし」

「まぁ、誰か家に居るか」


そう言いつつ、ナビの上に付いたデジタル時計に目を向ける。

22時38分。

これから時間は、瞬く間に過ぎていくのだろう。


「家にかけてみるよ」

「お願いします」


沙絵のスマホを操作して、自宅に電話をかけてみる。

相変わらずスピーカーモードのまま。

ラジオも付けていない車内に、電話の呼び出し音が鳴り響いた。


「…出ないか」

「変ですね。1人か2人は、待機しているはずですが」


中々電話が繋がらない。

それでも、呼び出しを止めずにジッと待つ。

少し経つと、ガチャッと繋がった音が聞こえた。


「はい」

「もしもし?私、沙月だけど」

「沙月様!?一体どこに居たんです?」


電話に出たのは、声から察するに漁酒会の鴉天狗の女だろうか。

偶に、家の中の事を手伝いに来てくれる、女中さんみたいな妖。

そう言えば、軍艦を張りこんで、そこからレモン街道までドライブに出かける羽目になったことを、家の人間に全く伝えていなかった。


「今ね、レモン街道。ちょっと緊急事態でね」

「緊急事態って。はぁ、驚かさないでくださいよ…こんな時間に」

「でも、おばあちゃん、何も言わないでしょ?」

「何時もの事ですからね。今は状況が状況なんです。沙雪様の事もありますし…!」

「ァハハ…ごめんなさい。で、おばあちゃん、寝てる?」

「はい、先程」

「悪いけど、起こしてくれる?」

「え?」

「京都から来てる、八波木とか言う防人が居たでしょ?」

「ああ、あの、使えない」

「そう。あの男、今回私達に襲い掛かって来た77号と繋がってたんだ」


電話越しに、簡潔に理由を伝えると、向こうからはなんの反応も返ってこない。

絶句している様だ。


「今、沙絵の下に付いてる龍と鳥が見張ってる」

「承知しました。沙千様に起きてもらいましょう。沙月様、あとどれくらいです?」

「んー…今、信号越えて、塩屋駅越えたあたり」

「分かりました」

「あと、こんな時に悪いけれど、軽く何か食べれるものを…昼から、殆ど食べてないんだ」

「何があったかは、後で聞かせてもらいましょう。軽食作っておきますよ」

「ありがとう。お願いね。じゃ、後で」


そう言って、通話を終えた。

それと同時に、沙絵が消していたオーディオの音量を上げ、ラジオの音が聞こえてくる。


「終わったら、お腹空いてきた」

「まだ終わりじゃないのですが。同感です」


さっきまで、民家の見える通りを走っていた私達。

それを通り過ぎれば、再び周囲は真っ暗闇。

もうじき、ちょっとした山登りだ。


「コンビニでも寄ろうかと思ったのですが、大丈夫そうですね」

「ええ。大丈夫」


通り慣れた道、周囲に他の車も、妖の気配も感じない。

つかの間の平和な時間。

すっかり消えていた眠気が、再び私を覆い始めた。


「ぁあ…ん…」

「寝てて良いんですよ?」


欠伸した私に、沙絵が言う。

私は小さく首を振ると、サンバイザーを下げた。


「まだ寝ないよ。寝て起きたら、また顔が変わってそうだし」


そう言いながら、サンバイザーに仕込まれた鏡のカバーを開けて自分の顔を鏡に映す。

暗い室内だが、自分の顔を見る位の明るさは十分にあった。


「もう変わってますけどね」


沙絵の一言と、私が自分の変化に気づくのは、ほぼ同時だった。

鏡に映った自分の顔を見るなり、私は口を半分開けて固まる。

沙絵は、そんな私の様子を見て小さく笑うと、レバーを握っていた手で私の角を突いた。


「片方だけではバランスが悪かったですからね。それに、角も立派な大きさになったじゃないですか」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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