129.想像通りと言えたが、状況は思った以上に酷いものだ。
想像通りと言えたが、状況は思った以上に酷いものだ。
暗闇の中、派手な爆発と共に見せられた光景は、私と沙絵の想像通りの結末。
だが、その想像が当たってしまったとなれば、最早問題は私達の手の内に入らない。
「さぁて、逃げよ!」
爆発の結果を目の当たりにした。
苦笑いを、引きつらせた笑みに変えつつ助手席のドアを開ける。
座って、ドアも閉め終わらないままで、沙絵は車を急発進させた。
「まさか、冗談でしょ?」
エンジンが甲高い音を響かせる。
その騒音に負けない様に声を張り上げた私は、沙絵の方に顔を向けた。
沙絵も私と同じように、ニヤつきながらも、口元を引きつらせて笑っている。
「まさかでしたね。八波木、まさか、あの男も死体だったとは」
車に飛び込む直前。
呪符の爆発をモロに食らった八波木の身は、渠波根と同じように、木端微塵に砕け散った。
生きている妖や、人であれば、怪我は免れないにせよ、派手に砕けるはずもない威力。
これでハッキリしたことは、八波木も何処かのタイミングで"殺された"という事。
「電話です。あぁ、メノウでしょうかね、きっと。沙月様、お願いします」
レモン街道をひた走る私達。
沙絵に投げ渡されたスマホをキャッチして、通話ボタンをタップする。
このタイミングで、助手席と運転席の、開いていた窓が閉まった。
「もしもし?」
「おい、さっきのは何が起きたのじゃ?あれは、防人の人間じゃろう?」
電話に出るなり、メノウの声がスピーカー越しに聞こえてくる。
その声色だけで、メノウ達の反応も想像できるというものだ。
「メノウ、お疲れ。こっちも驚いてるから逃げてるんだけどさ。そっち、何か変わった?」
「いや、不気味なほどに動きがないわい。防人も…あぁ、たった今、"復活"した様じゃぞ」
「そう。2人共、バレて無いよね?」
「ここまで高いと、バレる距離ではないじゃろうな。おお、奴等何か話し始めたわ」
「そう。そのまま見張りお願い出来る?その廃墟から、何処に戻るか…そこまでお願い」
「任せておけ」
「じゃあ」
短い会話。
通話を切ると、私は溜息を一つつく。
ここまで来て、ようやく体中の緊張が解けていった。
「とりあえず、速度落としてよ」
「そうしましょうか」
カッ飛んでいた私達。
沙絵が車を減速させると、周囲に響いていた甲高い音が半減した。
「これで、眠れない夜になりましたね」
「全くさ。で、どうしよう。おばあちゃん、起きてるかな」
「どうでしょう。もう、75ですからね。元々、早寝早起きな方ですし」
「まぁ、誰か家に居るか」
そう言いつつ、ナビの上に付いたデジタル時計に目を向ける。
22時38分。
これから時間は、瞬く間に過ぎていくのだろう。
「家にかけてみるよ」
「お願いします」
沙絵のスマホを操作して、自宅に電話をかけてみる。
相変わらずスピーカーモードのまま。
ラジオも付けていない車内に、電話の呼び出し音が鳴り響いた。
「…出ないか」
「変ですね。1人か2人は、待機しているはずですが」
中々電話が繋がらない。
それでも、呼び出しを止めずにジッと待つ。
少し経つと、ガチャッと繋がった音が聞こえた。
「はい」
「もしもし?私、沙月だけど」
「沙月様!?一体どこに居たんです?」
電話に出たのは、声から察するに漁酒会の鴉天狗の女だろうか。
偶に、家の中の事を手伝いに来てくれる、女中さんみたいな妖。
そう言えば、軍艦を張りこんで、そこからレモン街道までドライブに出かける羽目になったことを、家の人間に全く伝えていなかった。
「今ね、レモン街道。ちょっと緊急事態でね」
「緊急事態って。はぁ、驚かさないでくださいよ…こんな時間に」
「でも、おばあちゃん、何も言わないでしょ?」
「何時もの事ですからね。今は状況が状況なんです。沙雪様の事もありますし…!」
「ァハハ…ごめんなさい。で、おばあちゃん、寝てる?」
「はい、先程」
「悪いけど、起こしてくれる?」
「え?」
「京都から来てる、八波木とか言う防人が居たでしょ?」
「ああ、あの、使えない」
「そう。あの男、今回私達に襲い掛かって来た77号と繋がってたんだ」
電話越しに、簡潔に理由を伝えると、向こうからはなんの反応も返ってこない。
絶句している様だ。
「今、沙絵の下に付いてる龍と鳥が見張ってる」
「承知しました。沙千様に起きてもらいましょう。沙月様、あとどれくらいです?」
「んー…今、信号越えて、塩屋駅越えたあたり」
「分かりました」
「あと、こんな時に悪いけれど、軽く何か食べれるものを…昼から、殆ど食べてないんだ」
「何があったかは、後で聞かせてもらいましょう。軽食作っておきますよ」
「ありがとう。お願いね。じゃ、後で」
そう言って、通話を終えた。
それと同時に、沙絵が消していたオーディオの音量を上げ、ラジオの音が聞こえてくる。
「終わったら、お腹空いてきた」
「まだ終わりじゃないのですが。同感です」
さっきまで、民家の見える通りを走っていた私達。
それを通り過ぎれば、再び周囲は真っ暗闇。
もうじき、ちょっとした山登りだ。
「コンビニでも寄ろうかと思ったのですが、大丈夫そうですね」
「ええ。大丈夫」
通り慣れた道、周囲に他の車も、妖の気配も感じない。
つかの間の平和な時間。
すっかり消えていた眠気が、再び私を覆い始めた。
「ぁあ…ん…」
「寝てて良いんですよ?」
欠伸した私に、沙絵が言う。
私は小さく首を振ると、サンバイザーを下げた。
「まだ寝ないよ。寝て起きたら、また顔が変わってそうだし」
そう言いながら、サンバイザーに仕込まれた鏡のカバーを開けて自分の顔を鏡に映す。
暗い室内だが、自分の顔を見る位の明るさは十分にあった。
「もう変わってますけどね」
沙絵の一言と、私が自分の変化に気づくのは、ほぼ同時だった。
鏡に映った自分の顔を見るなり、私は口を半分開けて固まる。
沙絵は、そんな私の様子を見て小さく笑うと、レバーを握っていた手で私の角を突いた。
「片方だけではバランスが悪かったですからね。それに、角も立派な大きさになったじゃないですか」
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