表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
128/300

128.水差し野郎が1人出ると、場は急激にしらけるものだ。

水差し野郎が1人出ると、場は急激にしらけるものだ。

死んでいるはずの渠波根をこの世から隠す間際、沙絵が家栗を追い込んだ瞬間の出来事。

周囲に再び静寂が戻り、その中心に立つ男は、ニヤリと下品な笑みを浮かべていた。


「入舸家のお嬢さんも、相変わらず単純なお方だ」


星空の下、これっぽっちも人気の無い、小樽の一角にある古い廃墟前の草原。

その中を、ゆっくりとした足取りで歩いてくるのは、京都から来た木偶の坊。

防人の中でも、それなりの位にいる八波木千彦その人だった。


京都訛りの、胡散臭く、独特な風貌をした中年男。

仕立ての良い、チャコールグレーのスーツに身を包んだその姿は、この場には不釣り合い。

その向こう側、道路上には、ライトが付いたままのセダンが1台、ハザードを付けて停まっていた。


「その姿は、また一段と向こう側に近づいたようで」

「お陰様でね」

「そのまま妖になってくれれば、直々に隠して差し上げるのに」

「アンタみたいなのには無理な話さね」

「で、77号が相手だと言っただろ?なんだって、刀やら、呪符やら、持ってるんだ?」


八波木が来た途端、カフカも家栗も、逃げようとする素振りもなく動きを止める。

順調に彼らを追い詰めていた私と沙絵は、思わぬ人物の登場に、何も出来なかった。


私の場合は、何かしようにも出来ないのだが。

八波木の手に握られたのは、日本では普通見られない、黒光りする拳銃。

さっき、渠波根を"隠そう"とした私の肩を貫いたものだ。


「随分な挨拶ですね。防人が防人を撃つだなんて、有り得ませんよ?」


沙絵は私の傍に居て、後ろ手で呪符を幹部にあてて治してくれている。

その沙絵の顔は、滅多に見ない程に怒りが滲み出ていた。


「呪符に当てようとしたら、外してね。悪かった。すまないね」


悪びれもしない八波木。

その回答が、更に私達の血を沸騰させる。

八波木は、見せびらかすように手にしていた拳銃を懐に仕舞うと、私達とカフカ達の間に割って入った。


「風雷カフカに、家栗我伊助。77号の中じゃ大物だ」

「その大物、なんだって照会に2日かけたんです?」

「他にも組織が多いからに決まってるだろ!?入舸みたいな妖連中が居るせいでな、遅々として排除が進まないのさ!」


沙絵の言葉に怒鳴る八波木。

こちらに怒り顔を見せつけると、カフカ達の方に振り向く。

八波木の向こう側、カフカと家栗の表情を見てみたが、彼らはどんな表情も浮かべていなかった。


「でも、77号は別だ。隠す必要も無い。無害だからな」


そして、サラっととんでもない事を言い出す。

傷が癒えた左腕を刀に当てたが、沙絵がそっと止めてきた。


「無害な上に、ちゃんと話せる相手だろう?」


八波木の言葉に頷く2人。

私と沙絵の表情がまた1つ、険しくなっていく。


「なんだ。見つけるまでに手間が掛かっていたのは認めるが、見つけてからは、何も隠せだなんて、ワタクシは一言も言ってないぞ!確保しろと言ったはずだ!」


徐々に怒気を含む声色。

八波木はそう言うと、クルリと私達の方に振り向いた。

その顔色は、怒気を含んだ、荒げた声を出しているにしては青白い。


「それに、報告を聞けばなんだ?随分と厄介な所から出てきたそうじゃないか」

「ああ、アメリカの艦隊だっけ?何か問題でも?ここは小樽さ」

「沙月さん、アンタ、本当に頭の回らない子だな。居た場所が問題だと、何故思わない?」

「知ったこっちゃない。ここで、問題を起こした。それだけで隠す理由には十分さ」


八波木を煽る私。

子供に煽られれば、なんの考えも無さそうな彼の顔は、赤くなるはずだろう?

だが、八波木は怒声ばかり張り上げて、顔の色は変わらぬまま、青白い。


「……」


私は沙絵を突いてみる。

目だけ合わせて意思疎通、彼女も、考えている事は同じらしい。


「入舸の次期頭首がこの様ではねぇ…早いとこ、ここの管轄を変えなければ。まぁ、いいです。お二人さん、お帰りなさい。後は、ワタクシの仕事だ」


黙り込んだ私達に、八波木がそう言って詰め寄ってくる。

手を懐に突っ込んだその姿、言いたいことは良く分かった。


「分かりましたよ。報告だけ上げておきます」

「それもいい。こっちがやる。この場の惨状をどう収集付けるつもりだったんだか…理解に苦しむな。妖怪風情じゃ、この程度はよくある事って?」

「この状況は、私達では無いのですがね」

「そっちがけしかけた様なものでしょう。あの鬼を見張ってるからと言って、尻尾振って出てきた様なものじゃないか…全く」


そう言いつつ、八波木が私の体を突き飛ばす。

数歩後ろに下がると、私と沙絵は目を合わせて小さく頷いた。


「帰りましょうか」


そう言って、沙絵と共に草原を後にする。

沙絵を一歩先に進ませて、私は少しだけ歩調を狭めた。


「エンジンを」

「承知しました」


背後からは、八波木の事務的な声が聞こえていた。

この状況、きっと、上空のメノウとニッカも見ていることだろう。

声までは聞こえないだろうから、私達が八波木に手柄を取られた様に見えるのだろうか。


「野郎…」


私は道路を渡らずに、沙絵が車に乗り込むのを眺めていた。

エンジンがかかり、ライトが灯り、Uターンして私の前にやって来る。


「ああ、沙月さん!報告には、貴女の名前を入れないでくださいね!」


止まった車、独特な、縦長のドアノブに手をかけた時。

背後から、ふざけた口調の八波木の声が聞こえた時。

私はピタリと動きを止めた。


「沙絵さんが見つけて、ワタクシが対処した!それが、今日の"事実"ですから!」


助手席に窓が開きつつ、八波木の声を背で感じる。

何時も以上に目を見開いた沙絵が、私に"ヤレ"と言ってきた。


「分かりました。そうしましょう」


絞り出すように言って、振り返る。

右から、そっと振り返ると、八波木の勝ち誇った笑みが視界に映った。


「なら、これを、口止め料にしてもらえませんかね」


その言葉と共に、"治った"左腕を突きつける。

その手には、"真っ黒な靄"を纏った、"赤紙の呪符"が握られていた。


「…おい、なにを考え…」


八波木の言葉も待たず、パッと離す。

意地の悪いニヤケ顔…

ピリピリと、靄を纏った呪符は砕け散っていく。

刹那、手にしていた呪符は、その威力を発揮した。


「さぁて、どんな結果になるでしょうかね?八波木さん?」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ