127.ちょこまかと動かれると、だんだん雑になってくる。
ちょこまかと動かれると、だんだん雑になってくる。
刀を振るっても、一向にカフカの体を捉えられない。
刀が空を切るたびに、狂笑を貼り付けた根暗眼鏡の笑みが私をイラつかせた。
「いひ、ひひひひ!」
逃げまどうカフカは、相変わらずの笑みを浮かべて私をじっと見据える。
もう何度刀を振るっただろうか?
一旦足を止めると、私の傍に、私と同じような顔を浮かべた沙絵が飛んできた。
「逃げられてる?」
「はい。何故でしょうね」
「知ったこっちゃない」
息は上がっていない。
単純に、1発決めれば終わる話。
それが決まらないだけ。
同じ極の磁石みたいに、振るった刀が空を切る。
私だけが切れないのであれば、それは私の腕が悪い。
だけど、沙絵がまだ終わっていない所を見る限り、それもちょっと怪しくなってきた。
「危ない場面ばかりでしたがねぇ。なんとか、まだ、この世界に留まれそうです」
「危うい、危ない、でも、無事。いひ、ひひひひひ!」
私の正面には、カフカの狂笑。
背後からは、家栗の嘲る声色。
奥歯を噛み締めて、カフカをジッと睨みつける。
彼女は、私の表情の変化に気づくと、吊り上がっていた口角を更に吊り上げた。
「種も、仕掛けも、あるわけない。いひ、ひひひひひ」
不敵に佇むカフカは、そう言って左手を突き上げる。
「渠波根ちゃ~ん!治った~?」
その叫び声と共に、彼女の横に現れたのは、さっき真っ二つに斬り裂いた渠波根の姿。
地面からせり上がるようにして"復活"した彼女は、さっきと全く同じ姿を取り戻し、私に笑みを浮かべた。
「は~い!」
「いいでしょ。渠波根ちゃん。あの日から、ずっと、ずっと、一緒。いひ、ひひひひひ!」
「ね~!カフカちゃん。ずっと、一緒っすよ~」
泥汚れも、血の染みも、1つもない綺麗な姿で、カフカの右腕に絡み付く。
「気色悪いな」
「半年前、東京の、飲み屋で、バッタリ、会った時から!いひ、ひひひひひ」
「こうするって決めてたっすよ。あたし、防人とか良く知らんっすけど、入舸が厄介なのは、有名っしたから!」
「歪んだ愛もここまで来れば、立派なもんさ。死んでも…ねぇ?」
ボソッと毒づき、そして、ふと、試してみたい事を思いついた。
「何度でも斬り捨ててやるさ!」
それを表に出さぬように、グッと体を沈み込ませて、地面を蹴り飛ばす。
「いひ!ひひひひ!学習能力、無いのぉ!?」
カフカの煽りは無視だ。
さっきとは刀の構えを変えて、一直線に目指すのは、カフカと渠波根の"間"。
「!」
一閃。
何度目かの空振り。
だが、その刹那、カフカと渠波根がパッと離れた。
その隙間、大体人間1人分。
今度の空振りは、ただの空振りじゃない。
"避けられる"前提で放った、素人みたいな大振り。
「いひ、ひひひ!面白い、面白い!演技!」
「時代劇みたいだ、ヤケっぱちっすかぁ!」
片腕での大ぶり。
短めの刀を持ったといえど、振るった後の隙は大きい。
だが、その隙を突いてくるような相手じゃない。
「ヤケだ!ヤケ!いひ、ひひひひ!…ひ?」
振るった勢いで数歩進んだ後、足を止めて屈む私。
訝し気な声を上げるカフカ。
「え?」
その声は、すぐに驚きに包まれた。
刀を握っていた私の手、さっきまでは握られていない物が"1枚"。
真っ黒な光を宿した呪符が、"渠波根"の周囲を包んでいる。
「さぁて、硬い肉はよく弾けるんだ」
サッと顔を上げて、パッと手を離す。
狂笑が驚きに変わったカフカの顔が、星明りに照らされて良く見えた。
その顔を見て、私の疑念は確信に変わる。
「あっ!とっ…!」
爆発。
渠波根の体が、文字通り木端微塵になって辺りに降り注ぐ。
ようやく、ニヤリと笑えた私。
カフカの表情は、さっきまでと180度変わった顔に歪んだ。
「さぁて、まずは1人目だ」
間髪入れず、右袖から"赤紙の呪符"を取り出して、金色の靄を纏わせる。
死体を隠してしまえば、何処かの世界へ飛ばされたそれは、朽ち果てて消えるだけさ。
「やめ…!」
カフカの叫び声。
私はさっきまでの狂笑を真似て答えると、手にした呪符を突きつける。
「殺しはしない、もう死んでるんだもの。隠すだけさ」
そう言って、呪符から手を離そうとした刹那。
乾いた破裂音が辺りに響き渡った。
「あっ?」
「!!!」
場の空気が一瞬にして凍り付く。
金色の靄が消えた呪符が、ヒラヒラと私の手から零れ落ちた。
それから、突き刺す様な痛みが肩を突き抜けていく。
「ぐぅ!」
溜まらずその場にしゃがみ込む。
歯を食いしばり、音の方に顔を向ければ、新たな人影が、車のライトに照らされていた。
「危ない危ない。沙月さん、こっちの都合も考えて頂かないと」
ライト越しの人影、そこに、微かに見える白い煙…そして、火薬の燃えた匂い。
ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる影に、色が付いた時、私の目は大きく剥かれた。
「八波木…千彦…!?」
「渠波根には、お聞きしたいことがあるんです。何処かに隠されて、腐らせてしまっては、困りますね」
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