126.今の自分がどうなっているか、理解しておかないと痛い目に遭う。
今の自分がどうなっているか、理解しておかないと痛い目に遭う。
周囲を取り囲んだ死体を片っ端からなぎ倒していく中で、私は1つ忘れていた。
それに気づいたのは、沙絵共々死体を呪符で"壊して"、"隠した"後だ。
「いひ、ひひひひ!全然、ダメ、じゃん!」
現れた死体の、最後の1体を金色の光に包み込んだ直後、私達から逃げまどう事しかしなかったカフカが明るい声でそう叫んだ。
暗闇に包まれた夜、星空の明かりの下。
現れた死体の数は、報告に上がっていた数を足しても足りない程の多さだった。
それらを、呪符を使ってあっという間に始末する。
カフカ達3人は、歪んだ笑みに翳りを見せつつも、余裕な態度は崩さない。
「言ったでしょう。死体ですからねぇ…それに、相手は"あの"入舸家です」
「そう、確かに、そう。ダメだ、こりゃ、いひ、ひひひひひいひひ!」
死臭が立ち込める草原。
埋められていた彼らが、這い出てきた穴があちこちにあるせいで、一気に荒れ果てた土地になった。
「何がしたかったんだか」
最後の1人を隠した私は、呪符を1枚取り出して、真っ黒な光を纏わせる。
暗闇の中、一際大きな黒いサークルが、3人の周囲を取り囲んだ。
「おやおや?」
「次はアンタ方さ。まさか、見逃してもらえるだなんて思っちゃいないでしょ?」
パチパチと音を立てるサークル。
左手に持った呪符は、赤紙でも何でもない普通の呪符だが、今の私は妖そのもの。
何時も以上に大きく、それでいて、何時も以上に"黒が深い"サークルが出来上がっていた。
「何が目的かは知らないけど。私が目当てだというのなら、あの時に攫えば良かったのさ」
「それは、ダメ。鬼沙、許さない。いひ、ひひひひひ!」
「そうかい。その鬼沙は今、ホテルでノンビリくつろいでる頃だろうよ」
そう言って、呪符を突き出す。
その刹那、カフカの顔が狂笑に歪んだ。
「そう。そうさ!いひ、ひひひひ!その通り!やれよ!やってみろよぉ!」
地味な根暗眼鏡女の甲高い声が辺りに響く。
家栗も、渠波根も、カフカと似たような笑みを浮かべ、逃げも隠れもしない。
私の横で、沙絵は手にした呪符に金色の靄を纏わせた。
「じゃぁ。また、どこかで」
パッと手を離す。
呪符は、一瞬のうちに燃え尽きて、真っ黒なサークルが一気にヒビ割れた。
爆発……
しない?
パラパラと呪符の破片が飛んで行く。
風に舞って飛んだ先、3人の笑う顔に、呪符の破片が当たった。
「いひ、ひひひひひひ!」
一瞬の静寂ののち、カフカの笑い声が辺りに響く。
目を剥いて、ふと沙絵の方を見てみれば、沙絵が手にしていた呪符も、同じようにパラパラと破片になって飛んでいた。
「バカだね。入舸沙月。力ある。頭無い。いひ、ひひひひひひひ!」
そう言ってヒラヒラと"左手"を振るカフカ。
私はその仕草で、さっきまで覚えていた事を思い出す。
「呪符か」
震える手。
私の頭の中で、何かがプツンと切れた。
「ハッキリした。今、こっち側。鬼沙、求めていたもの!カフカ達、求めていたもの!いひ、ひひひひひ!そして、あと一人!」
「うるさいなぁ…呪符が効かないのならさぁ、そんなの、斬り刻んでやればいいのさ!」
カフカの言葉に被せるようにして叫ぶ私。
一歩足を踏み出して、一本しかない腕を刀の鞘に当てた。
左手は、利き手じゃない。
けども、使えないわけじゃない。
一瞬の内に距離を詰めて、3人の中のド真ん中。
笑みを崩さぬカフカ目掛けて突っ込んでいく。
「いひ!ひひひ!」
「逃げるなら、逃げてみれや!」
一閃。
刀は空を切る。
パッと3人が飛びのいた。
2人が私の視界の先、もう1人は何処か別の場所。
私は2人の方だけに目を向けて突き進む。
「いひ!ひひひひひ!その顔、口調、鬼沙、そっくり!」
「ほざけ!」
渠波根の手を引いて逃げまどうカフカを追いまわす。
片腕がない上に、不安定な足場では、普段の速さは出せなかったが…
2人の女を、それも1人が死体と化した奴等を追いかけまわすには十分な速度。
足元を数回蹴飛ばして、一気に低空飛行へ持ち込む。
ヒュウ…と風を切る音が耳に聞こえてきた。
「いひ!ひひひ!渠波根ちゃ~ん!」
「ほいさ!」
完璧にカフカを捉えた刹那。
目の前に渠波根が"飛んで"来る。
一閃。
満面の笑みを浮かべた女を真っ二つに斬り捨てた。
勢いは殺さず、そのまま、真っ直ぐカフカの元へ。
着地。
柔らかい地面を蹴飛ばして、もう一度空中へ。
「壁は消えたぜ?」
一瞬のうちにカフカの目の前。
歪んだ笑みが、視界に大写し。
「いひ!ひひひひひひひひ!ひーっひっひっひ!」
ちょこまかと逃げ惑うカフカ。
右に左に逃げるが、そもそもの速度が段違い。
体勢を整え、左手に力を込めた。
ヒュ!っと風を斬る音が辺りに響く。
一閃。
手応えは、無し。
私は目を大きく見開いた。
刀に付いた"死肉"と、微かに斬れたカフカの髪の毛が飛んでいく様がハッキリ見える。
「ハ・ズ・レェ~!いひ、ひひひひひひひ!」
その叫び声と共に、私の鳩尾にカフカの足が突き刺さる。
「眼も、手も、無いのなら。次、鬼沙、何を取るかな?いひ、ひひひひひひひひひひひ!」
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