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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
125/300

125.分かってしまえば、簡単な事なのにと言える。

分かってしまえば、簡単な事なのにと言える。

だが、それも分からなければ、難攻不落の謎のまま。

メノウの導きで、私達が向かった先は、思ってもみなかった場所だった。


「まぁ、隠れるならこういうところだよね」


暫くのドライブののち、沙絵が路肩に車を止める。

目の前には、件の3人が乗って来た車が止まっていた。


「そうじゃが、この妖力で何故、入舸の者が気づかないのじゃ?」

「ねぇ。目立つ気がするんだけど」


ハザードを付けて止まった車の車内。

スマホ越しに、メノウと共に今の状況を怪しむ。


夜、寄港しているアメリカの軍艦から出てきた妖と死体。

それを追いかけてやって来たのは、余市側、街の隅にある、古びた廃墟。

海沿いではなく、山側…レモン街道沿いにある、朽ち果てた一軒家。


「それに、そんな所で止まったら、バレバレじゃぞ?」

「メノウ。それは良いのさ。彼らに用事があるんだもの。向こうから来てもらわないと」

「そうかの?」

「そう。問題は、なんだって正々堂々と動けるかだ。とりあえず、案内ありがとう。一旦切るよ」

「分かった。気を付けるのじゃぞ」


メノウとの通話を切る。

ここは、街灯も殆どない道の途中。

目の前に停まった、何の変哲もないセダンに人影は見えない。

そこから目線を右に向けて、道路を渡った先、雑草の生えた草原の中にポツリと佇む廃墟の方から、妖気を感じた。


「さて、正々堂々と行こう」

「はい」


沙絵と言葉を交わすと、沙絵は車のエンジンを止める。

一瞬のうちにライトが消え、周囲は真っ暗闇と化した。


私は、こっそり自らの腕に呪符を張りこみ念を込める。

体が軽くなるのを感じると、ゆっくり助手席のドアを開けて外に出た。


「トランク開けて」


星空の下。

1人だったら、絶対に来たいとは思わない場所。

沙絵がトランクのロックを解除すると、私は車の後ろに回って手を入れる。

ちょっと上げれば、あとはシューっと音を立てて、勝手に開いた。


「まだ、呪符が効かないなら、この手に限る」


そう言って取り出したのは、昨日、沙絵が取り寄せていた私の刀。

脇差程度の長さの刀を取り出すと、それを腰に下げた。

それからもう一本…車から降りてきた沙絵に、彼女の刀を渡す。


「どうも」

「じゃ、行こうか」


準備万端。

トランクを閉めると、道路を渡って草原の中へ。

そっと足を踏み入れると、思った以上に草は短く、歩くのにそこまで気を使う必要は無さそうだ。


「周囲に気配は無し、か」


堂々と、真正面から廃墟に近づいていく。

崩れかけの廃墟、赤い屋根が特徴的な古い建物を目指して、1歩1歩近づいていく。

道路から、草原に入って、建物まであと少しと言うところまでやって来た時。


建物の方から物音が1つ。

私達はピタリと足を止めた。


「いひ、ひひひひひ!」


廃墟から聞こえてくる笑い声。

聞き覚えのある声、背筋がゾクッと冷え込んだ。


「車、変だと思ったら、どうして、まさか、どうして、どうやって、ここへ?いひ、ひひ」


廃墟から出てきたのは、3人の男女。

私達がここ2日ほど、追い求めていた妖が2体と死体が1体。


露出高めの、派手な格好の若い女。

暑そうに思える、キチっとしたスーツの中年男。

この間とは違う、地味な私服に身を包んだ"防人の家系"の若い女。


求めていた姿を見止めた私と沙絵は、片足を半歩後ろに引いて得物に手をかける。


「秘密にしておくさ。今夜は、貴方達に、お別れを言いに来たの」

「えぇ!?いひ、ひひひひ!お別れだなんて、まだ、早いよ!」

「聞きたいことが山ほどあるけれど、」

「それは、カフカもだよぉ。いひ、ひひひ!ねぇ、先生?」

「そうですねぇ。先生も、この2人に興味が湧いてきましたよ。んん、あぁ、沙月さんだけは、元より我々の"捕獲対象"だったわけですが」


距離を置いて言葉を交わす。

カフカの腕には渠波根が引っ付いていて、その横に並んだ"先生"こと家栗は自然体でそこに佇んでいた。

背後には、潰れかけた、古びた廃墟。

彼らが一様に浮かべている、生気を感じない不気味な笑顔と組み合わせて見てみれば、その光景はタチの悪い心霊映像の様だ。


「あら、話せそうかな?ひょっとして」

「冗談でしょう。真正面から入って来たことを、ちょっと後悔していますよ」


星空の下、温い風が私達の周囲を吹き抜けていく。


「いひ、ひひひ。鬼沙の、言った、通り!正面突破しか脳が無い!」


対峙したまま膠着状態となっていた所を変えたのは、カフカだった。

感情の一カケラも感じない、壊れた笑みをこちらに浮かべてそう叫ぶと、ゆっくりと腕を上げる。


「褒めて、つかわそう!カフカ、逃げない!戦ってあげる!」

「先生としては、逃げたいのですがねぇ…今の沙月さんでは、分が悪すぎます」

「大丈夫、大丈夫、もう、ズレ、出た後!」


渠波根に掴まれていない方、"何も手にしていない"左腕を上げると、私達の周囲から一斉に何かの物音が聞こえてくる。


「……!」


ゾッと辺りに増える殺気。

全身の毛が逆立つような、哀しい怒気。

沙絵と共に、周囲を見回せば、何も無かった草原のあちこちから、人の手が"生えて"きた。


「バカみたいに、前から来た。いひ、ひひひひひ。なら、カフカも、前から」

「仕方がありませんねぇ」


周囲の地面が、ボコボコと音を立てていく。

それを見回して、ふと3人の方を見やれば、家栗もカフカと同じように左腕を掲げると、その音は更に数を増やした。


「沙月様、これは」

「若い人間。そこの家出娘みたいに、大事に扱って欲しいものだね」


沙絵と背中合わせになって、周囲の光景を見回す。

地面を突き破った手、そこからゆっくりと時間をかけて出てきたのは、若い人間。


「渠波根ちゃんだけは別なの!いひ、ひひひひひひ!渠波根ちゃん、宝物!」


私達の周囲を囲んだ動く死体、彼らの、生気が失われた眼が一斉にこちらを向いた。


「所詮、手駒、使い捨て!もう、いいよ!大放出さ!いひ、ひひひひひひひひひひひひ!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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