124.ちょっとの違和感が、何かに繋がっている。
ちょっとの違和感が、何かに繋がっている。
結局、私達が1日中探し回っても、結果は思っていた通りだった。
何の手掛かりも無し、だけど、確実に被害が増えている現状に変わりはない。
「賭けにしては、有り得ない事を思いつくもんさ」
沙絵の車の助手席で、コーラの缶を片手に呟いた。
窓の外は、もう夕暮れ時を通り越して、夜の真っただ中。
エンジンもかけていない状況、車内は計器類の明かりも一切無く真っ暗闇。
街灯の明かりも届かない位置に停めたせいで、沙絵の車は見事に闇に紛れていた。
「ウチの連中が手出し出来るわけがないですからね。ただ、昔聞いた噂話を信じただけですよ」
沙絵は期待薄といった具合で、そう呟いてハンドルにもたれかかる。
エアコンも付けていない車内…熱帯夜になりそうな夜だけど、今はそこまで暑く感じない。
開いた窓から入ってくる、くすんだ香りの潮風が、程よい温度を保ってくれていた。
「噂ねぇ」
昼間、式外公園で沙絵から軽く聞いて、そのまま聞き流した噂話。
荒唐無稽な話だったが、何も得られないまま1日を終わらせるよりかはマシだろうと言って、噂話を鵜呑みにしてやって来たのは、件の軍艦が寄港している近く。
「77号が、なんだってそんな連中と?」
「映画の中だとよくあるでしょう?死体を動かしたりだとか、そう言うのを大真面目に研究している軍だなんて」
「大昔の映画だね」
「どこかで聞いたことがあるんですよ。防人が持ってる妖の情報の中だったかな?唯一、海外の、その手の組織と接点がある組織の話。それが、70台のどれかだった気がするんです」
沙絵はそう言うと、コンビニで買って来た菓子パンに齧りつく。
夕食も食べずに、家にも帰らずに、私達はただの噂話だけで見張りに来たのだった。
「もし、正解だったらどうするのさ。手だしも何も、出来ないよ?」
「その場合は…もう、京都任せにするしかないでしょう。私達は一家離散してバラバラに逃げてみましょうか」
「冗談じゃないや」
「あの中だったとして、中に入られたら何も出来ませんから。ただ、連日私達に被害が出て、毎日死体が消えている以上、出入りする隙は必ずあるわけです」
「そこでなんとかするっきゃないって?」
「はい。まぁ、まずは、荒唐無稽な噂話が本当かどうか、眺めていましょうよ」
ここに着いたのはついさっき。
時間にして、夜の8時頃。
まだまだ夜はこれからだけど、私は少しだけ眠気を感じていた。
「1日、2日動かないだけで、これだもの」
「どうかなさいましたか?」
「眠くって。体力無いな」
「それは、腕も眼も片方ないのですから。慣れない間は疲れやすいはずですよ」
「そう?」
「はい。疲れ…特に妖の場合は、精神面の疲れが如実に体調に出ますからね。仕方が無い事です」
海の音と、外の喧騒しか聞こえてこない車内。
私と沙絵は、適当に雑談して時間を潰す。
窓の向こう側、遠くには、思ったほどの大きくない軍艦が見えていた。
暫く、そのまま何も状況は変わらない。
沙絵はパンを食べきってしまい、私はコーラの缶を空にする。
それでも、目の前の光景に変化は無い。
3つ付いたメーターの左端にデジタル時計があるのだが、今は消えて消えてしまっている。
だから、沙絵のスマホで時間を確認するのだが、思った以上にゆっくり進んでいるようだ。
1度目の確認では、20時47分、2度目は21時12分。
私達の体感では、もう2時間は経っているというのに、まだ、1時間ちょっとしか過ぎてない。
「あるとしたらさ、船から出て来る感じ?」
「でしょうね」
「夜も、街は監視されてるはずだよね?」
「ええ。交代で確認しています」
「被害は全部明け方だったっけ」
「ええ」
「ならさ、このまま朝まで待つのもありうる?」
「どうしましょうか」
「どうしましょうかって。朝まで覚悟なら付き合うけど」
「であれば、沙月様は適当な所で仮眠を。無理はさせられません」
「ありがと」
暗がりの車内。
ただでさえ眠気を感じるのに、明かりがこうも無ければ、目を閉じればすぐに眠りつけそうだ。
私は小さく欠伸を1つつくと、眠たげに目を擦る。
「ん?」
擦った時、私は自らの指に微かな違和感を覚える。
暗がりの中、眠たげな頭を動かして、自分の手に目を向けようとした刹那。
「ぁ!」
沙絵の驚いた声が耳に届いた。
「!」
小さいながらも、しっかり耳に響く声。
完全に気が抜けていた私は、ビクッと姿勢を正して窓の外に目を向ける。
「あ…」
そして、ずっと眺めて居た船の外。
3人分の人影を見た私は、一気に眠気が醒めていった。
家栗我伊助、風雷カフカ、そして渠波根朱莉…
「追いかける?」
「いえ。まだです」
シートベルトをする私、沙絵ははやる私を手で制すると、スマホを取り出して誰かにメッセージを打ち込む。
「メノウ達には、私達が家に帰るまでは外に出ていろと言ってます。1度補足できれば、それでよし。一旦、泳がせましょう」
沙絵の言葉に頷いて窓の外を見ると、3人は何処かへ歩いていく。
それを片目でジッと追いかけると、彼らは視界から消えていった。
「さぁて。何処に隠れ家があるのでしょうか」
視界から3人が消えて少し経った後。
沙絵はゆっくりと赤いスイッチを押す。
照明とライトが灯り、直後にはエンジン音が聞こえてきた。
「今、通話をメノウと繋いでます。操作は任せましたよ」
そう言って、スマホを私に押し付けると、沙絵はクッとレバーを動かして車を発進させる。
私は、助手席の窓を閉めて、呼び出し状態のスマホをスピーカーモードにすると、丁度メノウと通話が繋がった。
「聞こえておるかの?」
電話越しに聞こえるメノウの声。
風を切る音が混じっていた。
「お疲れ、メノウ」
「おぉ、沙月嬢か。良いのか?体に響くぞ?」
「ありがと、でも、そうも言ってられないから。で、どうなってる?」
ゆっくりと動き出した車、まだ静かな車内に、メノウの驚いた様な声が聞こえてきた。
「今、運河通りじゃ。近くにいる入舸の者も気づいておらんようじゃぞ?」
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