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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
118/300

118.片腕だからと言って、舐めてかかってこられては困る。

片腕だからと言って、舐めてかかってこられては困る。

眼と腕を失っていても、今の私は妖そのもの。

沙絵の初撃を難なく竹刀で弾き返した私は、真っ黒に光らせていた呪符をパッと離した。


「舐めてたな?」


背後に飛びのきながら、ニヤリとした笑みを浮かべる。

夕陽に染まった沙絵の顔、ほんの少しだけ、沙絵の本性が滲み出ていた。


「クッ!」


さっきまでの余裕な表情は何処へやら。

沙絵は呪符が引き起こした爆発を間一髪のところで躱すと、一旦私と距離を置いた。


「ふー。沙絵も煤だらけになっちゃえば良かったのに」

「いいえ。遠慮しておきましょうか」

「そう言えば聞いてなかった。呪符の色に制限付けよっか?」

「金色じゃなければ何だって良いですよ!」


裏庭で言葉を交わす私達。

沙絵はその言葉の直後、スッと取り出した呪符を真っ赤に染め上げた。


「言いながらはズルいって!」


オレンジ色の空が、真っ赤な光に染め上げられる。

背筋がヒヤリとした私は、目を瞑って手にした呪符を真っ黒に光らせた。


轟音。

爆発。


一瞬、私の中の平衡感覚が失われる。

耳が効かなくなった刹那、閉じていた目を見開くと、目の前には沙絵と共に迫る竹刀の先端が見えた。


「…!」


咄嗟に何かを叫んだが、その声は耳に響かない。

空中、変な姿勢で上空に打ちあがった私。

咄嗟に手にした竹刀を交わらせると、そのまま突っ込んできた沙絵とぶち当たる。


「チェ!」

「おしい~」


裏庭の上空。

爆風に乗って再び上空へ打ちあがる。

再びオレンジ色の空が私達の体を照らした時。

私の上には顔を綻ばせた沙絵がいて、その向こう側には雲一つない空が見えた。


「流石に痛いと思うんですよね」


沙絵の手には、真っ黒な光を宿した呪符。

不自然な姿勢、私の左手は地面に向けられ、沙絵の方には中身のない右袖が漂っている。

絶体絶命の瞬間、私の背中は、真冬のような寒さを訴えてきた。


「でも、いっかな」


でも、私は、まだ笑わない。

笑うには、まだ早い。


「そ~れ!」


パッと沙絵の手から離れる呪符。

私の周囲に展開されたサークルが、パチパチと音を立てる。

その瞬間、口元をニヤリと吊り上げた。


「え?」

「ハッ!」


グルリと空中で体を捻る。

今は亡き右腕側を地面に、左手に持った竹刀を沙絵の方へと突きつけた。

その竹刀の先、パチパチと黒光りする呪符が、妖しく沙絵を照らしている。


「もっと、高みを目指さないとね」


大爆発。


私の体は、一気に地面に向かって行く。


爆発。


沙絵のサークルが放つ爆発が、更に私の落下を勢いづけた。

爆発の黒い煙に沙絵の体が隠され、私は地面に向かって一直線。


地面まであと少し。

するすると袖から呪符を3枚ほど取り出すと、それらに念を込める。

呪符を向けた先は裏庭。

落下地点に出来たサークルの影を見止めた瞬間、私はパッと呪符を離す。


大爆発。


落ちていた私は、瞬時に上昇気流に飲まれてシェイクされる。

だが、それも一瞬の間。

宙で不自然なほどの減速をやってのけた私は、ゆったりと裏庭の上に着地した。


「ふー」


ボサボサになった髪を弄りつつ、溜息を付く頃には、ドサ!っと目の前に人が落ちてくる。

真っ黒に煤けて、白菫色の髪がボサボサに爆発して、さっきの汚れ一つない恰好から随分な様変わりを見せた沙絵だ。


「一丁上り」


さっきと同じで、爆発自体には黒煙と風を引き起こす以外の効果は乗せていない。

高所からの落下も、沙絵ほどの妖ならノーダメージ。

沙絵はすぐに飛び起きると、体を見回して溜息をついて、竹刀を地面に放り捨てた。


「まさか、片腕でもそんなにお強いとは思いませんでしたよ」

「腕よりも、辛いのは片目さ。その辺は気を使ったな?」

「まぁ、死角を攻めても良かったのですが。そう思ってしまうと、妙な意地が…」

「職業病、いや、種族病かな」


戻って来た沙絵の横で、そう言ってニヤリと笑って見せる。

沙絵は奥歯を噛み締めるような、分かり易いほどに悔し気な顔を浮かべていたが、縁側の方まで戻ってくると、脱力して”何時もの”沙絵の顔に戻った。


「いい運動だった。ありがとね」


縁側で観戦していた4人に向けて言うと、彼らは一様に深く頷く。

彼らが私を見る目は、さっきまでと随分違っていた。


「さぁ!風呂掃除は任せた!」

「え?嫌ですよ?」

「沙絵?」

「…やりますって。沙月様は休んでいてください」

「ありがと。じゃ、お言葉に甘えて」


靴を脱いで縁側から家の中へ。

ボサボサになった髪を撫でつけながら居間の方へ戻ろうとすると、沙絵が私の首根っこを掴んで引き留めた。


「その前に、ここで着替えちゃってくださいね。あと、ベッドは使わない様に」


驚いて振り返ると、持って来た私の泊り道具一式を渡される。

驚きつつも、自分の体を見回せば、そう言われても仕方が無かった。


「洗濯と、この辺の掃き掃除は、メノウ達に任せますから」

「ありがと」


着替えると言っても、和服だけ。

パッと帯を取って脱いで、仕込んだ呪符を抜き取って、着替えに袖を通せばもう終わり。

これからはもう夜で、後は寝るだけなのだから、寝間着にしている着物に袖を通す。


「初日から飛ばし過ぎましたが、情報を得られる迄はここで大人しくしていないといけませんからね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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