117.ペットに名前を付けるのとは、ワケが違うんだ。
ペットに名前を付けるのとは、ワケが違うんだ。
車の中で延々と考え込み、もう少し結論を伸ばそうとしたところで沙絵に煽られる私。
言い出した手前、引くに引けなくなった。
「沙月嬢、本当に良いのだな?」
家に着く間際まで考え込み「これしかない」と名前を決める。
彼らに名前を言って聞かせると、素直に喜んでくれ、彼らとの距離が縮まった気がした。
「いい?」
「流石に、2,3日静養した方が良いのでは」
「ねー、元々、それ目当てだったんだし」
家に着いて、薄っすら埃が溜まっていた家を掃除し終えて、暇になった夕方。
私は仲良くなれた妖4人を誘って、家の裏庭に立っていた。
「構わない。先ずは誰から?メノウから来てみる?」
左手には、家に放置されていた古い木刀。
夕陽に染まったオレンジ色の空の下、私の前、縁側に立つ4人は、顔を見合わせて思案顔を浮かべていた。
「あー、お前達。やっても良いぞ。沙月様は、ああなったら止められないからな」
及び腰の4人に、様子を見に来た沙絵がそう言って呆れ顔を浮かべる。
沙絵の手には、5人分の木刀が握られていた。
「せっかく名前も貰ったんだし、1本位良いだろうさ。何より今の沙月様は手負いだ。片眼も片腕も無いのだから、ひょっとするとひょっとするかもしれない」
そう言って4人に竹刀を渡す沙絵。
最後の1本を手にして素振りして見せた沙絵は、裏庭に仁王立ちする私の方に顔を向けた。
「4人倒して、まだ元気があれば、私が相手になりますよ」
「乗った。何か賭けてみる?」
「んー、風呂掃除でしょうか。あそこだけ、そう言えばやってませんでしたし」
「ツマラナイの」
「なら、動けるところ見せてくださいよ。昨日の今日で、何処まで回復したのか」
沙絵はそう言うと、さっき私が名を付けた妖の背をポンと押す。
最初の相手は、白髪黄眼に和服姿が特徴的な"メノウ"だ。
「ぬぅ。余り気乗りせんが」
「片手の私に勝っても不満かな?」
渋々前に出て来るメノウ。
そんな彼女を見て、小さく口元を吊り上げた。
「ならさぁ、呪符有りで良いかなぁ?4人一斉に掛かってきていいからさぁ!」
乗り気じゃない彼らの気持ちを乗せる事が先決。
私はそう言うと、和服の裾から呪符を取り出し、黒い光を帯びさせる。
裏庭の中、私の周囲に出来上がった黒いサークル、呪符から放つ妖気は、5人の顔をハッとさせるには十分だった。
「大丈夫大丈夫。家までは壊さないと思うよ?多分」
そう言って呪符を離す。
爆発を起こす直前、私はトン!と地面を蹴飛ばした。
「さぁ、リハビリだ!」
爆発。
爆風に乗った私の体は、一気に裏庭の上空へ。
狭く小さな、町と呼べるかも分からない光景が眼下に見える。
「退屈させないでよ!」
頂点に達した私は呪符を抜き出し念を込めた。
今度の標的は、4人の妖達。
裏庭に出てきた彼らの周囲に、真っ黒なサークルが出来上がる。
「そらぁ!」
パッと手を離す。
再び爆発、4人は辛くも爆発を逃れ四隅に散った。
爆心地、さっき立っていた場所に降り立つと、目についた妖の方へ突貫する。
「"コウジ"ぃ!先ずは1発さぁ!」
目線の先、見えたのは黒いスーツ姿の男。
一瞬で距離を詰め、竹刀で突き刺さんと左腕を振るう。
「うぉ!」
あっという間の出来事。
コウジは寸での所で体を捻ると、竹刀を手で払った。
竹刀を持っていれど、今やってるのは剣道の試合じゃない。
私は払われた勢いをそのままにクルリと回ると、また一歩距離を詰め、竹刀を振るった。
今度は竹刀で止められる。
カシャン!と竹がぶつかる甲高い音が裏庭に響いた。
そのまま押して、押して、背後から殺気。
パッと即座にコウジから離れて振り向けば、首元目掛けて竹刀が飛んでくる。
その竹刀の先、真っ赤な髪が揺れているのが良く見えた。
パンクロッカー風の女、ニッカの必死な視線が私を射抜いている。
「チェ!」
首筋。
ギリギリ躱せた突きをいなして、反撃しようとした所で2つの影。
反撃を諦めて、体を屈めれば頭上で竹の交わる音がした。
「危な!」
音の主は、メノウともう一人、影かと思えるほどに黒い格好をした男、ムゲツだ。
「取ったぁ!」
一瞬の間に囲まれて、しゃがみ込んだ私の手には、竹刀と共に呪符が握られている。
耳をつんざくメノウの叫び声、ニヤリとした笑みを浮かべた私は、黒く光らせた呪符をパッと手から離す。
「あっ…やば…」
「ァハハハハ!」
そのまま地面に寝転ぶ私。
その頭上、竹刀を振るった者の顔が、真っ青に染まる。
4人の人影の周りにあるのは、夕陽に照らされた自然の光景ではなく、真っ黒な光を放つサークルだ。
爆発。
4人分の叫び声が頭上に響いた。
パラパラと、砂が私に降りかかる。
顔を左腕で守って、静寂が辺りを包んだ所で、私はスッと体を起こした。
「考えナシに真ん中さ行かないべさ」
パン!と体中の砂を払い落しながら、吹き飛んだ4人の方を見て笑う。
大した威力の爆発でもないから、4人は少々煤けただけで唖然とした表情を浮かべていた。
「でも、呪符無しだったら、4人相手は無理だったかな」
そう言って顔を縁側の方へと向ける。
そこには、ニヤニヤした表情の沙絵が竹刀を持って佇んでいた。
「片腕だけでも、何時ものような、手品みたいな芸当が出来るとは思いませんでしたよ」
「右腕が無くとも、袖さえあれば、あの程度の事は簡単さ」
「今朝ワーワー大泣きしていた人と一緒だと思えませんね。体中、砂だらけにしちゃって。風呂掃除のついでに、その体を先に洗えるようにして差し上げましょうか?」
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