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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
117/300

117.ペットに名前を付けるのとは、ワケが違うんだ。

ペットに名前を付けるのとは、ワケが違うんだ。

車の中で延々と考え込み、もう少し結論を伸ばそうとしたところで沙絵に煽られる私。

言い出した手前、引くに引けなくなった。


「沙月嬢、本当に良いのだな?」


家に着く間際まで考え込み「これしかない」と名前を決める。

彼らに名前を言って聞かせると、素直に喜んでくれ、彼らとの距離が縮まった気がした。


「いい?」

「流石に、2,3日静養した方が良いのでは」

「ねー、元々、それ目当てだったんだし」


家に着いて、薄っすら埃が溜まっていた家を掃除し終えて、暇になった夕方。

私は仲良くなれた妖4人を誘って、家の裏庭に立っていた。


「構わない。先ずは誰から?メノウから来てみる?」


左手には、家に放置されていた古い木刀。

夕陽に染まったオレンジ色の空の下、私の前、縁側に立つ4人は、顔を見合わせて思案顔を浮かべていた。


「あー、お前達。やっても良いぞ。沙月様は、ああなったら止められないからな」


及び腰の4人に、様子を見に来た沙絵がそう言って呆れ顔を浮かべる。

沙絵の手には、5人分の木刀が握られていた。


「せっかく名前も貰ったんだし、1本位良いだろうさ。何より今の沙月様は手負いだ。片眼も片腕も無いのだから、ひょっとするとひょっとするかもしれない」


そう言って4人に竹刀を渡す沙絵。

最後の1本を手にして素振りして見せた沙絵は、裏庭に仁王立ちする私の方に顔を向けた。


「4人倒して、まだ元気があれば、私が相手になりますよ」

「乗った。何か賭けてみる?」

「んー、風呂掃除でしょうか。あそこだけ、そう言えばやってませんでしたし」

「ツマラナイの」

「なら、動けるところ見せてくださいよ。昨日の今日で、何処まで回復したのか」


沙絵はそう言うと、さっき私が名を付けた妖の背をポンと押す。

最初の相手は、白髪黄眼に和服姿が特徴的な"メノウ"だ。


「ぬぅ。余り気乗りせんが」

「片手の私に勝っても不満かな?」


渋々前に出て来るメノウ。

そんな彼女を見て、小さく口元を吊り上げた。


「ならさぁ、呪符有りで良いかなぁ?4人一斉に掛かってきていいからさぁ!」


乗り気じゃない彼らの気持ちを乗せる事が先決。

私はそう言うと、和服の裾から呪符を取り出し、黒い光を帯びさせる。

裏庭の中、私の周囲に出来上がった黒いサークル、呪符から放つ妖気は、5人の顔をハッとさせるには十分だった。


「大丈夫大丈夫。家までは壊さないと思うよ?多分」


そう言って呪符を離す。

爆発を起こす直前、私はトン!と地面を蹴飛ばした。


「さぁ、リハビリだ!」


爆発。


爆風に乗った私の体は、一気に裏庭の上空へ。

狭く小さな、町と呼べるかも分からない光景が眼下に見える。


「退屈させないでよ!」


頂点に達した私は呪符を抜き出し念を込めた。

今度の標的は、4人の妖達。

裏庭に出てきた彼らの周囲に、真っ黒なサークルが出来上がる。


「そらぁ!」


パッと手を離す。

再び爆発、4人は辛くも爆発を逃れ四隅に散った。

爆心地、さっき立っていた場所に降り立つと、目についた妖の方へ突貫する。


「"コウジ"ぃ!先ずは1発さぁ!」


目線の先、見えたのは黒いスーツ姿の男。

一瞬で距離を詰め、竹刀で突き刺さんと左腕を振るう。


「うぉ!」


あっという間の出来事。

コウジは寸での所で体を捻ると、竹刀を手で払った。


竹刀を持っていれど、今やってるのは剣道の試合じゃない。

私は払われた勢いをそのままにクルリと回ると、また一歩距離を詰め、竹刀を振るった。


今度は竹刀で止められる。

カシャン!と竹がぶつかる甲高い音が裏庭に響いた。


そのまま押して、押して、背後から殺気。

パッと即座にコウジから離れて振り向けば、首元目掛けて竹刀が飛んでくる。

その竹刀の先、真っ赤な髪が揺れているのが良く見えた。

パンクロッカー風の女、ニッカの必死な視線が私を射抜いている。


「チェ!」


首筋。

ギリギリ躱せた突きをいなして、反撃しようとした所で2つの影。

反撃を諦めて、体を屈めれば頭上で竹の交わる音がした。


「危な!」


音の主は、メノウともう一人、影かと思えるほどに黒い格好をした男、ムゲツだ。


「取ったぁ!」


一瞬の間に囲まれて、しゃがみ込んだ私の手には、竹刀と共に呪符が握られている。

耳をつんざくメノウの叫び声、ニヤリとした笑みを浮かべた私は、黒く光らせた呪符をパッと手から離す。


「あっ…やば…」

「ァハハハハ!」


そのまま地面に寝転ぶ私。

その頭上、竹刀を振るった者の顔が、真っ青に染まる。

4人の人影の周りにあるのは、夕陽に照らされた自然の光景ではなく、真っ黒な光を放つサークルだ。


爆発。


4人分の叫び声が頭上に響いた。

パラパラと、砂が私に降りかかる。

顔を左腕で守って、静寂が辺りを包んだ所で、私はスッと体を起こした。


「考えナシに真ん中さ行かないべさ」


パン!と体中の砂を払い落しながら、吹き飛んだ4人の方を見て笑う。

大した威力の爆発でもないから、4人は少々煤けただけで唖然とした表情を浮かべていた。


「でも、呪符無しだったら、4人相手は無理だったかな」


そう言って顔を縁側の方へと向ける。

そこには、ニヤニヤした表情の沙絵が竹刀を持って佇んでいた。


「片腕だけでも、何時ものような、手品みたいな芸当が出来るとは思いませんでしたよ」

「右腕が無くとも、袖さえあれば、あの程度の事は簡単さ」

「今朝ワーワー大泣きしていた人と一緒だと思えませんね。体中、砂だらけにしちゃって。風呂掃除のついでに、その体を先に洗えるようにして差し上げましょうか?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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