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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
109/300

109.その瞬間を見てしまったのなら、それは暫く心の傷になる。

その瞬間を見てしまったのなら、それは暫く心の傷になる。

その傷は、恐らく生涯消えることの無い傷だ。

思い出そうとすれば何時でも思い出せて、私の心を抉っていく。


「人の心臓、とても、興味深い。いひ、ひひひ。でも、ここの妖、興味ない」


暗闇に包まれた埠頭の端、渠波根の心臓を手にした女が不気味に笑う。

根暗眼鏡という言葉が似合う顔ながらも、夏にしか出来なさそうな煽情的な格好の女。

そんな女と対峙していた私達の周囲に、不穏な物音が聞こえ始めた。


「カフカ。力、無い。だけど、駒、幾らでも、幾らでも、いひ…ひひひひ!」


公園の方へ振り向けば、何処から湧いてきたのか、"本性"を曝け出した妖の姿が見える。

その姿、妖の輪郭が見えてきた。

視界に映ったその姿、骨で出来た体、人を模した白い霧。


「こんなに居るとは思わなかったな」

「6号に28号…?」

「マジかよ」


見覚えのある"姿"を見て目を剥いた私達。

その刹那、"私だけ"を狙って、彼らは一斉に動き始めた。


「沙月様!」

「え?あっ…!」


妖力すらも、気配すらも上手く感じ取れない私は、彼らの動きにワンテンポ遅れを取る。

28号特有の靄に巻かれ、その中から伸びてきた"拳"を顔面に真面に食らってしまった。


「ぐぅ!」

「クソ!沙絵!」

「分かってる!」


吹き飛ぶ私。

その手を沙絵が掴みあげ、私の身体は宙に浮く。

暗闇の中、目元に1発食らって宙に浮いて、私の平衡感覚はもう何処にも無かった。


「雑魚はとっとと失せてやがれ!」


八沙と沙絵が手にした呪符の光が、暗闇の中を照らす。

沙絵が真っ赤な光を灯して辺りを真っ赤に染め上げて。

八沙の呪符が放つ真っ赤な靄が引き起こす爆発が、周囲の妖達を消し炭に変えていく。


「え、ウソ。霧、晴れる?」


ぼやけた視界の中、心臓を持っていない方の手を真っ青に光らせた妖が驚いた。


「生憎様だったな」


そう言った刹那、金色の光が辺りを埋め尽くし、取り囲んでいた妖達は何処かへ隠された。

その間に、八沙が私の前に立ち、私は沙絵に肩を貸される形で後ろに身を引く。


「すごい、すごい。興味、出てきた」

「そうかい。だが、消えてもらうぜ」

「その程度じゃ、カフカ、消えない」


元居た位置からほとんど動かずに対峙し続ける。

今の間に、渠波根の体は妖の手から離れて、地面に惨い血の海を作り出していた。


「この心臓、これを、するまで、カフカ、幾らでも、仲間、居るから!いひ、ひひひひ」


妖達が一瞬で隠されても、一切動じない。

右手に握りしめた心臓は最早ただの肉片だし、左手の青い光は、何処か"引っ張られる"感覚を受ける。

余裕を崩さぬその姿、何も出来ない私の目から見れば、随分不気味に見えた。


「動けないの?」

「動いてやろうか?」

「来て!滅茶苦茶、出来るんでしょ!?滅茶苦茶、してよ!」

「野郎…」


強い力を感じないのに、逃げも隠れもしない妖。

その不気味な態度に、私達は何故か動き出せない。

彼女から感じる妖気は、そんなに強くないというのに…何故?

その間にも、周囲には再び妖の気配を感じるようになって来た。


「街にいた妖か」

「そう!全部、カフカの、駒!さぁさぁ!早く!」

「学ばねぇ奴だ!」


再び6号と28号の妖の気配。

今度の私達は、さっきの様に呆気に取られない。


沙絵がさっきと同じように真っ赤な光で染め上げて。

八沙がクルリと振り向き、真っ赤な靄を纏わせた。


私を間に置いて、2人はすれ違う。

八沙は妖の方へ、沙絵は目の前の"カフカ"の方へ。


「お!?いひひ!そう来た!」


私はその場から動かずに、空になった右袖の中に腕を突っ込んだまま立ち尽くす。

八沙の放った爆風を背後に感じ、目の前、沙絵が向かった"カフカ"の方に目を向けた。


「やっぱ!天邪鬼!その程度!」


真っ赤な閃光で目くらませ。

そこまでは沙絵の思い通り。

真っ黒な光を放つサークルで囲んで、後は呪符を離すだけになった刹那。


"カフカ"の表情が一気に歪む。

口角を吊り上げ、待ってましたと言わんばかり。

"カフカ"の視線が下を向く。


「いひひひひひひひひ!」

「覚悟!」

「沙絵、待っ…」


沙絵の手から呪符が離れる。

直後、パチパチと音を立てていたサークルが一気に爆発した。


「くっ…」


背後で爆発。

目前でも爆発。

2つの爆風に晒された私。


「!?」


一瞬、目の前に嫌な気配を感じ、咄嗟に体を半分ズラす。

咄嗟に左へ、右腕の無い体で、バランスを崩しながらすっ飛んで行く。


刹那。

ふら付いた私の目の前に1人分の人影。

真っ赤な血を全身に浴びたその姿は、さっきまで真っ青な光を宿していた"カフカ"だった。


「あら!残念!」


思いっきり剥かれた目が、"カフカ"の顔を捉える。

体に違和感が1つ。

さっきまで立っていた位置に漂っていた、中身のない"右袖"を"真っ青な光"が貫いていた。


「天邪鬼より、鈍くない!いひ、ひひひひひひひ!」


一瞬の間に、"カフカ"は爆風の中へと姿を消す。

それを深追いすることなく、沙絵が飛び込んだ先に足を踏み出せば、首元から凄まじい量の血を噴き出した沙絵が呆然と立っていた。


「沙絵!沙絵!沙絵!」


半狂乱になって叫ぶが、沙絵は首を抑えながらも一切動じず、私の方に手を上げると、その手を下に指した。


「大丈夫ですよこの程度。それより沙月様、下を見てください。遺体が無くなってます」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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