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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
107/300

107.バレないだろうと思ってバレた時は、凄く恥ずかしくなってしまう。

バレないだろうと思ってバレた時は、凄く恥ずかしくなってしまう。

頭の中で「もうバレたお終いだ」と思っても、まだ、ブラフだろうか?等と考えてしまう。

それで、都合のいい方に解釈して、嘘を貫き通そうとして、失敗するんだ。


「ねぇ、誤魔化そうとしても駄目よ?沙月」


夕方、手掛かりを一切掴めないまま訪れた、家の近くのスーパー。

八沙の目立つ車は家に置いて、沙絵と共に傘をさしてやって来たスーパーで、私は穂花と楓花に囲まれていた。


「なんで、分かるのさ。この格好で」


ちょっとの間、2人を誤魔化そうと必死だった私は、諦めて左手を上げる。

八沙が施してくれた変装は、普通じゃバレようが無いはずだった。

意地になって変えていた声色を元に戻した後、周囲を見回して、他に知り合いがいないか確認した。


「この雨じゃ、人も来ないわ」

「誰か来て、その人に私だってバレたく無いのさ」

「でしょうね。親戚の子って事にしてあげる。私達ですら、ちょっと迷ったんだから、問題なく誤魔化せるわ」


スーパーでも、人通りの無い所。

明るいながらも、どこかどんよりとした所。

そこで、申し訳程度にあるベンチに座っていた私は、穂花と楓花をジトっと見上げた。


沙絵は買い物。

家に居ても気分が沈むばかりだった私は、ついて来はしたものの、片腕で戦力外。

すぐ終わるからと、人気の無いベンチで休んでいようとしたら2人に見つかって今に至る。

何も考えていなかった自分のミスの様なものだ。

家に居れば良かったと後悔しても、もう遅かった。


「に、しても凄い恰好ね。その目はもの貰い?」

「ワケアリ」


穂花と楓花にも、普段通りの対応が出来ない私。

ちょっとだけ毒気のある口調になる私を見て、2人は顔を見合わせた。


「夏休みでグレた、とかじゃなさそうよ?」

「ええ。そうみたい。らしくないわね」


そう言いながら、何時ものように私の左右に腰掛けようとしてくる2人。

私は咄嗟に"左側"を開けようと、右端に移動した。


「え?」

「いいから、座るなら、そっちに座って」

「沙月…?」


私の動きに、2人の顔が訝し気なものに変わる。


「本当に、どうしたの?」

「どうかしてるのさ」

「ちょっと、こっち向きなさ…い…!!??」


不機嫌さを隠さない私に、2人はいつものように構ってくる。

楓花が私の肩を掴んでそう言った時、彼女の表情が一瞬のうちに歪んだ。

肩を掴んだ手、右肩を掴んだその手が、腕に滑り降りてこようとして、中に何も入って無い袖をギュッと掴む。


「沙月、貴女!」

「もう、喋るな!」


"事実"を知ってしまって叫んだ楓花に、思わず怒鳴る。

誰もいないスペースで、人より低めな私の怒声が響いた。


「ごめん」


楓花が表情を曇らせ手を引く。

その様子を見ていた穂花が、楓花と同じように私の肩を掴むと、楓花がやったような動きをして、全てを察したようにこちらに目を向け、唖然とした表情を浮かべた。


「これ以上、何か言うようなら、本当に怒る。ごめん、今の私、真面じゃないから」


棒読みみたいな声色でそう言った時、この空間に、新たな人影が1人見えた。


「あっと」


買い物袋を手にしてやって来たのは、変装したままの沙絵だ。

普段のちょっと露出度高めな、解放的な格好ではなく、地味で芋っぽい感じのチャラ女姿。

穂花と楓花は、沙絵の声を聞いて沙絵だと気づいたらしく、2人は更に驚いた表情を深めた。


「こんにちは」

「沙絵、もうバレてるよ」

「そうでしたか。この気まずさは、何かありましたね」


他人行儀な挨拶に、ボソッと簡潔に今を伝えると、すぐに普段の笑みを浮かべてくれる。


「申し訳ありません。ちょっと色々と、こちらも訳アリでして」

「みたい、ですね。その…」

「沙月様は、暫くはこの調子だと思います」


そう言いつつ私の右隣までやって来た沙絵は、2人の見えない裏で私の背中をつねった。


「いっ…!」

「もうすぐ元に戻るはずですから、戻ったらまた遊んであげてくださいね」


そう言って頭を下げる沙絵。

更に背中をつねられる力が強まり、私は小さく俯いた。


「その、ごめんなさい」


別れ際に一言。

穂花と楓花も、ちょっと気まずそうな、曖昧な笑みを浮かべて頷いてくれた。


そのまま、沈んだ気分のままスーパーを後にする。

外に出て、傘をさすと、沙絵が私の方をジッと見つめてきた。


「何」

「いえ。あの様子では、事故みたいなものだったのでしょうけれど。治ったら、ちゃんともう一回、謝りに行くのですよ?」

「分かってる」


雨が降りしきる中。

沙絵と共に、家までの帰り道を歩いていく。

坂を登って、3月まで通っていた中学校の前を過ぎて、藤美弥神社の前を通って更に上へ。

家に戻ってきたころには、雨が降っていることもあってか、空はかなり暗かった。


「ただいまー」


扉を開けて、傘を開いたまま玄関に置いて、家に上がる。


「おかえりなさいませ」


沙絵の声に、家の奥から反応があった。

沙絵の下に付いている妖だ。

黒いスーツに赤い瞳を持った男が、沙絵から買い物袋を受け取って奥に消えていく。


「あの人達も来てるんだ」

「沙雪様が招集したがっていたので。だから、今日は簡単に作れる鍋物になったんです」

「そう」


私は素っ気ない返事を返すと、1人自室の方へ歩いていく。

夕食時まではまだ時間があるだろうから、それまで部屋で1人になりたかった。


「待ってください。沙月様」


部屋に入りかけた私の左腕を沙絵に掴まれる。

足を止めて、背後へ振り向くと、変装を解いて素に戻った沙絵の姿が見えた。

その顔は、いつも以上に真剣そのもの。


「もうすぐ7日です。その前に、あんなことがあったのでは…お気持ちを察しきれませんが。沙月様、今は、沙月様だけの危機ではないのです。少しは"戻ってきて"下さい。でなければ、私共も今の沙月様をお譲りできません」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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