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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
参章:消えた花火の行方
105/300

105.雨に流れない証拠は、きっと何かの役に立つ。

雨に流れない証拠は、きっと何かの役に立つ。

血とかその辺は、簡単に雨に流されて消えていくのに、物は案外ちゃんと残ってるものだ。

そういう物が無いのであれば、きっと標的はまだ近くに潜んでる。


「八沙、随分とかかりましたね」


車から降りて開口一番。

沙絵は半分だけ開けた目を八沙に投げかけた。


「しゃぁねぇだろ?沙月が何時、起きっかも分からねぇのによ。せっかち過ぎなんだ」


昨日と変わらない、土砂降りの墓場。


「でぇ?何か分かったか」

「幾つかね。昨日、ここに来た時とはまた変わってる。けど、それだけ」

「そうか。じゃ、鬼沙のヤツ、まだ近くに居やがるのかな?」

「鬼沙はもう死んだのよ?その墓の中に骨あるでしょ?きっと別の誰かさ」

「そう思うだろうけどもよ、沙月に聞いてみれや。鬼沙だって言うぜ?」

「え…」


私は2人のやり取りを眺めつつ、左手を胸に当てて縮こまる。

肌寒いが、寒いわけじゃなく、風が強いが、別にこうなるほどじゃない。


単純に、昨日、自分がここで死にかけた光景がフラッシュバックしていたから。

自分に起きた事を思い返すと、すぐに頭の中を焦りと恐怖が支配していた。


「おう、それよりも、悪ぃ。ちょっと任せるわ。ワシも、気になる所があるんでな」


八沙は沙絵に私を任せると、鬼沙の墓の方へと進んでいく。

沙絵は、驚いた顔を浮かべたまま、私の傍までやって来た。


「沙月様、申し訳ありません。行き成り、こんな所に連れて来て」

「いい。いいよ。大丈夫だから」

「強がる必要は無いのですよ?」

「いいって!」


傍まで来てくれた沙絵に優しく話しかけられても、目に力が籠ったまま、つっけんどんな反応しかできない。

そんな私を見て、陰りの見える苦笑いを浮かべた沙絵は、強引に私の手を取った。


「本当ならば、夏休みが終わるまで静養していて欲しいのですが」

「無理なのは、分かってるから」

「はい…それで、その。昨日、沙月様を襲ったのは鬼沙だという話ですが…」

「本当。ここで、鬼沙に行き成り襲われたの」


雨の中、私は沙絵に昨日起きた事を話す。


鬼沙が突然背後から現れて、右腕を斬り取ったこと。

その後、痛めつけられ、鞄の中にあった呪符で、自爆に巻き込んでやったこと。

それすらも難なく躱され、右目が抉られたところで意識を失ったこと。


土砂降りの中、沙絵はそれを黙って聞き入れ、そして顔を青褪めさせた。


「鞄の中のとっておき。"赤紙の呪符"のことですよね」

「そう。真っ赤な靄で、死んでも良いから相打ちに出来ればと思ったのだけど」


私はそう答えると、言葉を紡ぐのを止めて溜息を1つ。


「全然、駄目だった。全く効かないで、そのままお腹を打ち抜かれて吹き飛んで、倒れたところで右目を」

「なるほど」


沙絵は私の話を聞いて、元々険しそうだった表情を更に険しくする。


「一体、何が起きてるの?」


ようやく震えが収まって来た私がそう尋ねてみると、沙絵は少しだけ口ごもった。


「言ってよ。この身体じゃ、力になれそうにないけど」

「そうですね。昨日、沙月様が美国へ向かった直後から、小樽で色々とあったのですよ」


沙絵はようやく口を開く。

そこで、沙絵の口から語られた事は、俄に信じがたい事だった。


曰く、小樽で"本家の防人"の姿が確認されたらしい。

それとほぼ同時に、妖の数も急増。

対処に手を焼いていた所に、私が倒れたとの知らせが入ったとのこと。


「何故、本家が?」

「逃げ込んできた妖を追っていたそうです。実際、妖達は皆、お尋ね者でしたから」

「じゃ、そっちに任せれば良かったじゃん」

「こう言ってはなんですが…"位だけ高い木偶の坊"にも程がありまして。一般人へ被害が出る前に動いたという感じです。その折、八沙から連絡が来て、沙雪様と飛んでくる事になりました」

「へぇ…」

「昨日だけで色々と有り過ぎて、何が何だか。私共も分かっておりません」

「母様は?」

「沙雪様は、小樽で指揮を取ってます。沙千様が京都との連絡を」

「そっか」


私は少し俯いた。

沙絵がそっと私の左手を引いて体を寄せる。


「沙雪様が、あそこまで取り乱したのは見たことが無かったですよ」

「そんなこと、聞いてないじゃん」


そう言って、沙絵に頭をコツンと当てた。


「おぉい!そろそろ話し終わったかぁ?ちょっとこっちさ来てみろ!」


丁度、墓の方を見ていた八沙が私達を呼び寄せる。

私と沙絵は、顔を見合わせると、鬼沙の墓の方まで歩いていった。


何の変哲もない、去年までと何ら変わり映えしない墓。

八沙がいるのは、その裏側。

普段なら、墓を掃除する為だけに回り込む方。


「何かあったの?」


雨に濡れた墓石の上に乗って、そっと八沙の方へ近づくと、八沙は何も言わずに一点を指さした。


「うわ」

「そんな…」


指をさされなくとも、そこまで行けば、彼が何を言いたいかが理解できる。


「昨日は気づかなかったけどもよ。手の込んだやり方だぁな。裏から開けるって、普通、やるかぁ?」


八沙の呆れた声。

私達の視界には、墓の裏に、ひっそりと掘られた小さな穴が見えていた。

この土砂降りで、穴の中には水が溜まってしまっているせいで見づらいが、この穴の位置から察するに、繋がる先は墓の下の納骨棺。


「普通、そっから開けないよね。というか、晴れてたら確実に分かったんだ。掃除の時に」

「分かったところで、結果は変わらねぇさ」


私の言葉に、八沙の言葉が被さった。

その後、言葉を失う私達。

その間にも、小さな穴には、少しずつ大粒の雨が溜まっていった。


「この様じゃ、中の骨がどうなってっかもわかんねぇでや」

「他の手掛かりは、昨日見つかった呪符の破片だけだもんね」

「畜生。沙月が鬼沙にやられたって言うから、まさか骨が無くなってたりしねぇよなと思ったらこの様かよ」


毒づく八沙。

八沙も沙絵も、鬼沙の事は良く知っていた。

妖が生きてきた年月を考えれば当然なのだが、私以上に長い付き合いなのだ。


「どうするよ?今回のヤマ。マジで鬼沙がやってんなら、誰の手にも負えねぇぜ?」

「だろうね。私が全力出しきっても、涼しい顔してたもの」

「一旦、家に戻りましょう。相手が1人分かっただけでも収穫…今は、ね…」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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