自惰探偵

　　うーん、頭が痛い。しかも何だ？この寝心地の悪さは・・・。僕は重い瞼をゆっくり持ち上げると、いつもと全然違う天井が見えた。白いタイルと金属の棒がある。そして、揺れているナイフ。刃先が僕の方に向いてるよ。僕、先端恐怖症だからどけて。嘘だけど。いつもは普通の家の壁と同じ素材の天井なんだけどなぁ。まあ壁紙な訳だ。何時の間に変化したんだろ？化学反応でも起こしたのかなぁ？あれ？でもタイルはともかく金属の棒は、どうやってできたんだろう？もしかして、僕知らない間に錬金術が使えるようになってるの？

　うわっはーい！僕は億万長者になれるぞー！

　・・・馬鹿な事は置いといて、ここは何処だろう？そして僕は誰？いやー、僕は金成悦哉なんだけれども・・・。そして、彼女いない歴４３年という悲しいエロ親父なんだけれど、それが何か？ふん、リア充死ね！

　おっと、またそれた、それた、フヒヒサーセンｗｗｗ。全く僕はなんて奴なんだろう？いや、僕は金（以下略。

　そんなこんなで多分、十分ぐらいしてから僕は気付く。それは昨日、深夜アニメの録画予約をし忘れていた事である。しまった！僕とした事が！あー、今週はヘタレ主人公が、結局優柔不断に政治をすすめていき、そして、地球が滅びるという山場の話なのに！ってか地球滅びるのに最終回じゃないのが凄い。いや、前回は太陽爆発したけれど・・・。

　僕がそうやって残念がっていると、水の滴る音が届いた。おっと、ちゃんと状況把握しないとお話が進まなくて困る、主に作者が。うーんと、今わかるのは鼻に伝わってくる「弱酸性　オオレ」石鹸の匂いや、僕が寝ている場所が緑色の直方体の中だという事から考えて、ここはどうやらお風呂の様だね。そして、僕は身体がすっぽりと浴槽の中に入っているという訳ですよ。足丸めた状態だからきついな―。どう、僕正解でしょ？皆褒めて、褒めて！女性の方なら彼女になって―。野郎なら金を出せー！

　しかし、一体全体何故僕はこんな場所に居るのだろう？別に僕には浴槽フェチとかそんな危険な人間じゃないし、僕の家のお風呂はもうちょい古いし、第一僕の両手と両足は縄で縛られているんですよー。しかも、口までガムテープ貼られてるんです。

　「モガ、モガ、ガー」

　ほら、何か喋ろうとするとモガになっちゃうんだよ。モカじゃないよ？ここ重要。テストにでます。多分、きっと、恐らく、メイビー、プロバブリー。うんつまり、出ない。ちなみになんて言ったか分かる？教祖様に聞いてね。

　そう言えば、さっきから気になっているんだけど、上にあるナイフって何かな～？なんかどんどん下に落ちている希ガス。いやー、肉切り包丁ってのは分かるよ、分かりますよ。それでお肉を切って料理を作るのさ。いくら馬鹿な僕でも、それぐらい知ってるのさ、ベイベ～。

　しかもそのナイフには、ロープがついていて、上にある金属の棒（きっと洗濯物を干すのに使うんだな）にそのロープが引っ掛かって斜め下に伸びてる。それ以降は、浴槽の壁に阻まれ見れなかったが、また少ししたらまた斜め上にロープが伸び、自分のいる浴槽の反対側の端にある金属棒に結び付けられている。分かりづらかったら御免。その見えない部分が非常に気になる。何とか見れないかなー？千里眼持ってないからな～。しかし、千里眼が無理なら、マインドスキャ・・・、目を潰してまで見たい訳じゃないし・・・。

　ところで、今聞こえてる水音はなんだろー？蛇口が完全に閉まってないのかなー。この世の中節水だよ？地球温暖歌もとい地球温暖化が問題視されてる、この世の中でそんなことするバータレはどなた？そんな奴は死ね！あ、家の電気多分点けっぱなしだ。死ねなんて言っちゃ駄目だぜ？皆の衆。全く最近の若者は・・・。

　だけど、この水音、一定じゃないな～。しかも結構頻繁に聞こえる。ん？この水音に、ロープに、凶器・・・。なんか、前にドラマで見たな―。

　まず、ロープをさっき言ったように配置し、見えない部分は同じ高さの台を二つ。多少隙間を開けて設置。そして、その台に巨大な氷を置くんだよ。そして、そのすきまで作った空間に、つまり氷の下にさっきのロープをくぐらせておく。後は時間が立つと、氷のロープで圧力がかかっている部分が溶けだして、やがて氷が真っ二つになって、ロープを止めてたものが無くなる。氷って、圧力かけても溶けるんだよね。すると、ロープは氷の下を通す分がたわみになって、それが凶器の重力によって引っ張られて、たわみの分だけ凶器が下に急降下！浴槽の中に居る人はジ・エンド！お陀仏ってわけさ～。さて、今回お陀仏するのに選ばれた人は何処のどなた？僕です！痛くしないでね～・・・。

　うーん、このままだと、僕死んじゃうな～。ナイフは落ちたら、僕の胸に刺さる位置にある。せめて、僕の妹に「僕が死んだら、ＡＶと一緒に火葬してくださいませませ」と言いたかったな～。きっと、右ストレートもらって「ふざけんな、バカアニキ」と言われるだけだけど。

　でも大丈夫！きっとヒーローが助けてくれるさ！なんたって僕は主人公だからね～！主人公補正の一つや二つついているはずさ～。だけど主人公がヒーローに助けられちゃ駄目だな～。むしろ、ヒーローが主人公だよね～。じゃあ、僕ってこのまま死ぬの？うわあー、どうしよ？頭抱えたくても、縛られてるから抱えられないよー。

　うーん、それにしても誰が、僕を殺そうとしてるんだろー？僕怨まれるようなこと何もしてないのに～。むしろ、人の家のハムスターを無断で可哀そうな子供に高く売ってあげたり、人の椎茸と僕のそこらへんで拾ったちょい痛んだ松茸を交換してあげたり、社員の為を思って自分の分の職務を部下に押し付けてあげたりで、むしろ感謝される立場なのに。

　えーっと、昨日の記憶をたどるか。確か昨日は、部下三人が夕飯を奢ってくれるって一緒に居酒屋に行ったな～。やっぱり部下に慕われてるな～。“面倒事”があるって言って、それを押しつけようとしたんだけど、夕飯を奢られちゃー、押しつけられないなー。まあその後食事中に別の人にメールして、押しつけたからいいけど。

　しかしもかかし、イエス、イエアー、遠慮なく酒飲んでたらいきなり睡魔に襲われて、この状態オゥシット。ナンテコッタイ、回想の意味ほとんどねー。

　ん？待てよ。そこで寝たって事は、つまりその三人の誰かにここまで運ばれたってことか！つまり犯人はあの三人の中に居る！けど誰？

　まず、一人目が高汐健作。２４歳の若手期待の星。確か、大酒のみ。僕より飲む。それからヘビースモーカー。それ以外は好印象。だけど彼女がいない。まあ、僕が、偽のラブレター書いて、３時間も待ち惚けさせられてもその場所に居たぐらいだから、相当彼女が欲しいんだろうね～。ちなみに性格よくて、イケメン。あ、僕もね。

　二人目が笠木東喜。２３歳の今年の新入社員。子供っぽい。馬鹿。性格は明るい。なんだか苛めたくなる奴だが、なぜか僕はこういうのを弄るのは好きじゃなく、ただ毎日高等なギャグを聞かせてあげてるだけだよ。「ケシかランの花ってさ、けしからんよなー」っていう他の人とは違う高等なやつをね。ちなみに、こいつにも彼女がいない。

　三人目が桐嶋香苗。２５歳のやり手キャリアウーマン。眼鏡所有。ただし普段はコンタクト。虚乳な事を毎日僕は弄ってるな―。まあ、尻はいいんだけどね。何度触ろうとして右ストレートをクリーンヒットさせられて、他の部下に八つ当たりしたか分からないよ。責任感強くて困った事に彼氏がいるのさ。

　以上の３人が容疑者だけど・・・、どう考えても犯人分かり切ってるよねー。皆さんも分かってるでしょー？じゃあ、解答編。推理したい人はここでストップＯＫ？多分推理はほとんど不可だけど・・・。

　

　

　

　まず、何で犯人はこんな時限トリックを使ったのか、だけど勿論アリバイ作りの為だよねー。で、犯人はアリバイ作った後、僕の死体をどうするかだけど・・・。普通は事故に見せかけるんだよ。早々に、警察がそう断定した方が、安全だからね～。なのに、この犯人はナイフを凶器に使っているんだよー。これじゃあ、事故に見せかけられないばかりか、ここで出血するから、風呂場はルミノール反応わんさか出るし、その上、死体をここから他の場所に運んでも、出血具合で他の場所で殺された事が丸わかりだよ～。確かテレビではブロックを使ってた。出血もほとんどないし、事故にも簡単に見せかけられるからねー、階段の下に転がしとけば。犯人はきっと殺傷能力を上げようと、ナイフにしたんだろうけど。

　そんでもって、僕はロープで縛られている。ロープの跡がつくよ。縛られてた事丸わかりだ。テレビでは服の上からガムテープで縛ってたな―。もっと、動けないようにしてやろうと思ってロープにしたんだろうけど、せめて服の上から縛るべきだったね。

　それから、もう一つ。これは、何度も言うように、こないだやってたドラマのトリックだ。つまり、犯人はテレビのトリックをそのまま流用した訳だ。そんな事しようとするのはおかしい。自分だけが見てるわけじゃあるまいし、他人も見てるから、このトリックがばれる可能性は非常に高い。

　もう分かったよね？つまり犯人は・・・、ってナイフが落ちてきた～！今いいところ～！ああ、結局僕は見せ場が無いまま死ぬ運命なのねー。

　

　

　

　

　

　・・・。ナイフが胸の少し上の空中で踊ってます・・・。つまり、僕まで届かなかったらしいです。きっと、浴槽が洗い場より少し深いのと、犯人が使った台がちょっと高すぎたんだね。うーん、呆気なさすぎる。

　僕はその場で一回転して、手がつらないように、指を動かし、逆手のままナイフを掴む。そしてロープを・・・、って指つった！四苦八苦しながらも、僕は両手を縛ってるロープを切る。やれやれ、ようやく手が動かせるよ～。僕は一旦ナイフから手を離し口についているガムテープを剥がす。そして、ナイフについてるロープを解き、そのナイフで足の方のロープも切り裂く。

　僕は滑らないようにゆっくり立ち上がり、浴槽から洗い場にでる。その洗い場には腰まであろうかという段ボールが２つ置かれていて、その上には長細い氷が２つのってた。

　「やっぱ、台がでかいなー」

　僕は浴室から出ると、そのまま廊下を通り・・・、ってまだ靴のまんまだった。土足厳禁な日本家屋でとうとうタブーをやってしまったよ。僕はもう外国っこさ。っと・・・、その前に、こんな事をしたんだから・・・。少しぐらいお金もらってもいいよね？

　僕はリビングらしきところに入り、タンスやらなんやらを捜し、何と２０万円を手に入れた！イエー！

　今、僕の事を軽蔑したでしょ？そこの君。それを言うなら、ゲームの主人公はどうなのさあ？村の人の家に無断で入ってタンスから「黄金の剣」とか手に入れてる勇者は！

　まあ、一般人が「黄金の剣」なんか持ってる訳ないだろうけど。

　さて、今僕は外に出ました。僕は自分の推理が正しいかどうか確かめる為に、名札を見た。

　

　「笠木」

　

　やっぱりかー。いやー、さっき述べた論理から考えると、犯人は馬鹿で、子供っぽい性格ってわかるんだよ。テレビで見た事をやってみようとするのは、子供っぽい証拠だ。子供は、テレビで見た事をやりたがるからな―。てか、ダジャレ聞かせただけで人を殺そうとする、こいつの精神がよー分からん。でも彼が馬鹿って事は分かる。

　さて、タクシーでも捕まえて会社に行くか。ちなみに、笠木の事は告発しないよ？めんどくさいじゃん。わざわざ呼び出されてさー。

　

　

　

　「よう、皆の衆」

　遅刻を無視してどうどうと入ったところ、皆が僕を見た。あー、僕ってやっぱり皆に心配される良い上司なのね。なんか皆目が死んでるし「今日は一体何なんだよー」「せっかく休みだと思ってたのに～」って言う声も聞こえてくるけど、きっと気のせい。

　そして、このメンバーの中で、ひと際驚いた顔をしていらっしゃるのが、笠木君ですよ。なんか信じられないようなものを見るような眼だぞ？そんなに僕がイケメンかい？

　「笠木～、今日も僕は不死身だぞー」

　そう言ってやると、笠木は馬鹿面をさらに馬鹿にさせたような顔を（分かりづらいのは気にしなーい）した後、一気に何も喋らなくなって、顔色悪く下を向いた。

　その日のうちに笠木は自首をした。そのせいで僕は警察の事情聴取を受け（足跡のせいでお金をとった事がばれ、２０万円は没収。ただ、殺されかけたって事で逮捕は大目に見てもらった）また深夜アニメを予約し損ねてしまったのさ。全く、人が助けてやったのに彼は本当に馬鹿だね～。