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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第九章 決戦!魔王城
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06 ヴェルチェ VS キャロメンス

接続(コネクト)!」


 ゴーレムに乗り込み、ワタクシが魔力のラインを繋ぐと、武骨だった土人形が、優美な姿に変化していきます!

 『姫を模したる(ヴェルチェ・)踊り子人形(オルケストリス)』を顕現させたワタクシは、大地から機神サイズの双剣を生み出すと、一気呵成にキャロメンスを攻め立てました!

「むっ……」

 軽々と巨大な双刀を振るう機神の前に、キャロメンスも呻きながら避けるので、精一杯の様子……。


「オホホホ!どうしましたの、キャロメンス!ワタクシのゴーレムコントロールの前に、手も足も出ないようですわね!」

 防戦一方の狼女王を追い詰め、圧倒的な勝利を目の前にしたワタクシの脳裏に、キャロメンスへ降伏を促そうかしら……等といった考えが過ります。

 しかし……。


「……そろそろいいか、色々と見切ったし」

 ポツリとそんな事を呟いたキャロメンスが、今までの回避をメインにした動きから一転、攻撃に転じてきました!

「シュッ!」

 小さな呼気と共に放たれた、キャロメンスの全身を使った鋭い一撃に、彼女の身の丈ほどもある『姫を模したる踊り子人形』の剣が、呆気ないほど簡単に破壊されてしまいます!

 な、何事ですのっ!?


「調子に乗り過ぎでしょ、こっちは様子見してただけなのに」

「よ、様子見!?」

「どれ程の物か確認したかったの、その一人乗りのゴーレムが」

 な、なんですってー!?


「それでは、手を抜いていたとでもおっしゃいますの!」

「そういう訳じゃない……格段に、動きが鋭さを増していたのは認めるわ、二人乗りの時よりもね」

 む……そう素直に評価されると、ちょっぴり嬉しいものですわね……。

 ですが、ドワーフの国で対峙した時には、二人乗り(それ)で対抗出来ましたのに、パワーアップしているはずの()が通じないのは、どういう訳なのでしょう……。


「今の私は無敵……簡単な理屈」

「せ、説明不足ですわっ!」

「フフフ……」

 焦れるワタクシとは対称的に、謎の余裕を見せるキャロメンスは、勿体ぶるように笑みを浮かべます。

 何でしょう……この圧倒的な上位から見下ろしてくるような、彼女が醸し出す勝者にも似た雰囲気は?


「この戦いが終わったら……」

「お、終わったら?」

「オルブル様と結ばれるのよ、私は」

「……ん?」

「パワーアップの理由、それがね」

 ……それだけ?

 そ、それが本当に、パワーアップの理由ですの?


「いくらでも力が沸いてくるの、オルブル様との約束を想うと。あの方は言っていた、女は愛を知って強くなるとね」

 確かに、その(げん)には一理あるとは思いますわ。

 彼女が言うのとは、ちょっと違うかもしれませんが、デュー姉様も『母としての愛』を知った今の方が、前世(むかし)よりも強いかもしれませんもの。


 そういえば、以前ルアンタ様に許されてこちらに寝返った、何人かの魔族達を見てエリ姉様が言っていましたわね……。

 『利己的な魔族が、誰かのためにと献身的な心を知れば、そこに更なる強さを得るヒントがあるかもしれない』と。

 そうなると、今のキャロメンスはその条件にぴったり……という訳ですのね。


「ですが、ワタクシとてルアンタ様という、想い人がおりますもの!想いの強さなら、決して引けを取りませんわ!」

「……それは無理、今のあなたではね」

 気合いを入れ直すワタクシに、キャロメンスは小さく笑って首を振りました。

 むぅ、どういう事ですの!?


「……ブレているからよ、あなたの心は。そういう匂いがするの、ルアンタ以外にも好きな人がいるってね」

 獣人特有の五感の鋭さを示すように、キャロメンスはスンスンと鼻を鳴らします。


 ですが、彼女は何を言っているのでしょう……ワ、ワタクシが、ルアンタ様以外に!?

 HAHAHA、そんな馬鹿な!と、即座に否定しようとしました。

 ですが、何故か言葉は口から放たれる事はなく、代わりに頭に浮かぶ一人の影が……。


「エリクシア……お姉様……」


 この身となってから、ライバルとして、そして姉として慕うダークエルフの女性の名前が、ポロリと口から溢れ落ちました。

 そして次の瞬間、ドクン!と激しく鼓動が脈を打ちます!


 そ、そんな……。

 た、確かに……エリ姉様に、魔力経路の開発を受けてからというもの、時おりワタクシの心と同じく慎ましやかな胸が高鳴り、下腹部が熱くなる事もありました。

 その甘い疼きは、ルアンタ様を想って脈打つ鼓動とはまた別の意味で、ワタクシを惹き付けているというのも……認めましょう。


 ですが、だからといってエリ姉様を……だなんて!

 それではワタクシがまるで、快楽堕ちした(ノクターン)女の子(のヒロイン)みたいじゃありませんの!


「優柔不断な貴女では勝てない、一途な私には!」

 話は終わったとばかりに、さらに攻撃の圧力を増していくキャロメンス!

 戦闘開始時とは完全に逆転した戦況に、ワタクシはなんとか耐え凌ぐしかありませんでした!


四速火煌(よんそくほこう)!」


 こちらの動揺を突くように、キャロメンスが放ったのは、己の四肢をすべて利用した、一人で同時攻撃を可能とする必殺技!

 炎が揺めきを思わせる、捉えどころのない強打がワタクシの『姫を模したる踊り子人形』の手足を砕きました!


「ああっ!」

「終わりよ、これで」

 大地に転がるワタクシのゴーレムを足蹴にし、キャロメンスは勝ち誇った表情でこちらを見下ろします。

「くっ……」

 絶体絶命の状況に陥ったワタクシは、来るであろうトドメの攻撃に備えて、ゴーレムの中で防御姿勢を取りました!

 しかし……。


「……うん?」

 いつまでも来ないキャロメンスからの攻撃に、つい首を傾げていると、不意に彼女から予想外の提案がなされます。

「ねぇ……オルブル様の部下にならない? 貴女も」

「はぁ!?」

 思わず変な声が出るくらい、その勧誘は唐突でしたわ。


「有能な人材は、部下にしたいと思っているのよ、オルブル様は。資格は十分だと思うわ、ドワーフの姫である貴女なら」

「ば、馬鹿を言ってはいけませんわ! 誰が、オルブルの部下になんて……」

「なら……エリクシア?」

 突然、キャロメンスが口にしたその名に、ワタクシは思わず言葉に詰まりました。


「やはり何か思うところがあるようね、そんな匂いがしていたわ」

 こちらの思いを看破した彼女は、小さな笑みをみせます。

「オルブル様が、部下に誘うと言っていたわ、エリクシアを」

「エリ姉様を……」

 そういえば、初見の時にオルブルから勧誘されたというような事を、エリ姉様も言ってましたわね。

 奴はまだ、エリ姉様を諦めていないという事、なんでしょうけど……。


「ルアンタ様がいらっしゃる以上、エリ姉様が裏切るなどあり得ませんわ!」

「大丈夫……殺すから、勇者(ルアンタ)は」

「なっ!?」

「仕方ないでしょう、敵の旗印ですもの。でも、貴女達は別、勇者の仲間だっただけだから」

 確かに、彼女の言うことにも一理ありますわ。

 ですが、ルアンタ様を殺すなどと言われて、「それじゃあ裏切ります」などと言えるものですかっ!


 ゴーレムの中から睨み付ける、ワタクシの視線には気付かず、キャロメンスは選択を突きつけてきます。

「ルアンタを選んでここで死ぬか、エリクシアを選んで寝返るか、貴女の選択肢は二つ……」

 淡々と答えを求めるキャロメンスの言葉に、まるでその二つ以外の答えが存在しないかのような、暗い感情がジワジワと沸いてきます。


 ルアンタ様と、エリ姉様……どちらを選ぶか、ワタクシに浮かび上がった、その答えは……。


「……挟まりてぇ」

「うん?」

「間に挟まりてぇ!ですわ!」

「はいっ!?」

 ワタクシの答えに、キャロメンスの目が点になりました。


 そう、なぜ二者択一ですの?

 二人が好きなら、一緒に愛でればいいじゃありませんか!

 ルアンタ様とエリ姉様……心惹かれるお二人が、愛し合うのを見守りながら、時として交ぜていただく……それが、二人の間に挟まり隊(総員一名)!

 ああ……その光景の、なんと美しい事でしょう!

 思い浮かべるだけで、胸と下半身が熱くなりますわ!

 

「『好きなら人が二人いるなら、二人とも愛せばいいじゃない!』それこそ、ワタクシが開眼した、新たなる愛の形ですわ!」

「こ、拗らせただけじゃない、何かをっ!」

「だとしても! どちらかしか選べない、不健全な二択よりは、誰も不幸になりませんわっ!」

 己の欲望()を自覚し、吹っ切れたおかげか、妙な自信に溢れるワタクシに対し、キャロメンスは動揺している様子……ここが反撃のチャンス!ですわ!


 ワタクシは『姫を模したる踊り子人形』に魔力を送り込み、破壊された腕を急速再生させると、まだ戸惑っていた彼女の隙を突いて、剣を振るいました!


「くっ!」

 ギリギリの所で、防御が間に合うキャロメンス!

 ですが、バランスを崩した以上、次もワタクシのターンですわ!


「魔界剣・飛燕抜刀!」

 速度に長けた剣技を用い、キャロメンスに無理矢理防御させて、その動きを止めます!

 そしてまた、ワタクシのターン!


「魔界剣・土竜昇天!」

 天に昇る竜のごとき、低空から打ち上げる一撃が、キャロメンスを宙へと跳ねあげました!

 再び、ワタクシのターン!


「魔界剣・鷹爪演舞!」

 空中のキャロメンスを捉えて、またワタクシのターン!

「魔界剣……」

 ワタクシのターン……。

「魔界……」

 ワタクシの……。


 延々と繋がる、円舞にも似た剣技の舞いは、キャロメンスがその意識を失うまで、華麗に続けらました。


            ◆


 ──やがて、先に地上へ降り立ったワタクシは、失神して落ちてくるキャロメンスを受け止めます。


「女は愛を知って強くなる……確かに、その通りでしたわね」

 迷いを振り切って開き直ってからは、仮にも準魔王クラスのキャロメンス相手に、一方的とも言える勝利を得た……ワタクシは、その事実と彼女の言葉を反芻していました。


「……命までは取りませんわ」

 三公の一人でありながら、愛に生きるキャロメンスと、複雑な愛に目覚めたワタクシ……。

 過程は違えど、難解な立場に自ら挑むワタクシ達は、どこか似ているのかもしれません。


 静かにキャロメンスを横たえて、ゴーレムを解体したワタクシは、意識の無い彼女に回復薬を振りかけました。

 これで血は止まるはずですし、生命力の強い獣人の彼女ですから、死ぬことはないでしょう。


「ルアンタ様や、エリ姉様が勝利した後なら……ワタクシ達、良き友人となれるかもしれませんわね」

 あの二人が戦後に成そうとしている、魔族との共存関係……それが実現するなら、ワタクシの呟きも戯れ事ではありませんわ。

 そして、それは何となく実現しそうなだなという、予感が胸に浮かびました。


「フフッ……」

 我知らずほくそ笑んだワタクシは、次の戦場へ向かいます。

 愛しき二人(ついでにデュー姉様)を助け、若干、倫理観から外れる形ではありますが、素晴らしい未来をこの手で築くために!


「待っていてくださいませ、ルアンタ様にエリ姉様! すぐにこのヴェルチェが、参りますわ!」

 この想いが届けとばかりに、ワタクシは高らかに告げながら魔王城内へと駆けて行くのでした。

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