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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第九章 決戦!魔王城
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02 作戦の綻び

 私達の潜むゴーレムを運び、何も知らない魔族達は魔王城へと向かう。


 心配だったトイレ問題も、ゴーレムの巨体の内側にもうひとつ部屋を作り、出した物はこっそり外へと捨てられる構造にして、一応の解決をみた。

 念のためにと、居住スペースを考えて、必要以上に大きめのゴーレムを作ってもらって、正解だったわ。

 さらに私の風精霊魔法で、音もれ等を完全にシャットアウトしたため、ゴーレム内部で話などをしていても外の魔族にバレる事は無いだろう。


「そういえば、あのビィルトンに化けさせたゴーレムは、どうなっちゃうんでしょう……」

 なんとはなしに、ルアンタがヴェルチェに尋ねた。

(コア)となる媒介もなく、術者であるワタクシから離れれば、いずれ勝手に自壊いたしますわ」

「もしかすると、『量産型・奈落装束(アビス・フォーム)』に包んでいるおかげで、多少は長持ちするかもしれませんけどね」


 私がそう補足すると、ルアンタはそういう物なんですかと、感心したように頷いていた。

 彼の好奇心を満たせたようで、何よりである。

 まぁ、私も『量産型・奈落装束』を事細かに解析してみたいという、好奇心はあったけど。


 しかし、魔将軍達との戦いで疲労した体を休め、英気を養うのも目的のひとつとはいえ、数日も閉じ籠っているのはかなり暇なものだ。

 私の場合は、様々な魔道具のメンテナンスをしたりして暇潰しができるけど、皆は結構退屈しているんじゃないだろうか?


 特に、デューナ辺りがキレ散らかすんじゃ無いかなぁ……と心配していたけれど、意外な事に彼女はこちらがびっくりするほど静かに過ごしていた。

 しかも、姿勢良く座したデューナは、まるでどこかの高僧のように慣れた感じで、瞑想などをしたりしている。


「……ハイ・オーガの秘術のひとつに、深い瞑想して体内の闘気を高めるっていうのがあるのさ」

 不思議に思い尋ねてみると、そんな答えが返ってきた。

 なるほど……さすが、野蛮なだけの、普通のオーガとは違うという事か。

 その秘術を用いて、来る決戦の日に備えているのね。

 そう言われてみれば、獲物を狙う肉食獣が、息を潜めているようにも見えてくる。


 そんな、デューナの落ち着きっぷりに感心する一方で……。

「あの、エリ姉様?例のアレ……またお願いできませんでしょうか?」

 そう言って、何かを期待するような表情を浮かべる、ヴェルチェに向かって小さくため息を吐いた。


 アレ……つまりは、魔力経路の拡張の事である。

 なんていうか、確かに妙な快感を覚えるみたいだけど、一定の水準までいくと余り意味はないし、ハマりすぎるのもどうかと思うんだよなぁ……。

 一応、ヴェルチェにそう告げてはみるが、彼女は「そんなの関係ねぇ!」と言わんばかりに、私にしがみついてきた。


「お、お、お、お願いいたしますわ、エリ姉様ぁ!拡張……拡張してくださいましぃ!」

 目をランランとかがやかせて拡張をねだる姿は、かなり危ない。

 というか、すっかりジャンキーだ、これ!

 それでいいのか、ドワーフの姫!?


 デューナも「うわぁ……」って顔で引いてるし、ルアンタも「気持ちはちょっとわかる……」といった雰囲気だけど、すごく微妙な表情をしている。

 正直、面倒だとは思うけれど、ヴェルチェの力はこれからも必要だし、それで少しでもやる気が出るなら、仕方ないか……。


「わかりました。ですが、声は抑えてくださいよ」

「もちろんですわ!」

 顔を輝かせるヴェルチェだったが、念のため皆の前で醜態を晒さぬよう、もうひとつ小部屋を作ってもらい、そちらで行うと事にした。


「……では、エリ姉様。お願い致します」

 籠った小部屋で、二人きりになった途端に、待ちきれないといった感じで、ヴェルチェが上着をはだける。

「わかりました、力を抜いてください……」

 素直に頷くヴェルチェの、白く柔らかな腹部に私の手が触れると、彼女は「あっ……♥」と甘い吐息を漏らす。

 そうして、心の準備が出来た頃合いを見計らって……私は魔力を流し込んだ!


「んあっ♥き、来たぁ、魔力来ましたわぁぁ♥んひっ♥お腹、熱い♥あちゅいですのぉ♥んっ、んっ♥エ、エリ姉様のがぁ、ワタクシの中でいっぱいに広がっておりますわぁぁ♥お、おほぉ♥んふっ、んほぉぉぉぉぉぉっ♥♥」


 ……一応、言っておくけど、決してエロい事をしている訳ではないからね?

 いや、誰に言い訳している訳でも無いんだけれど……。

 まぁ、この快楽に溺れる醜態を見せられたら、こちらの気が滅入るし、虚空に言い訳したくなるのも仕方ないか。

 あー、これがルアンタの可愛い悶え方だったら、私もテンションが上がる所だったんだけどなぁ……。

 そんな事を思いながら、ビクンビクンと跳ねるように悶えるヴェルチェの姿を眺めつつ、私は大きなため息を吐いた。


           ◆


 ゴーレムに潜んで、丸二日ほど経った頃だろうか。

 急に、私達を運んでいる運搬の足が止まった。

 はて……魔王城までは、まだまだ距離があるはずなんだけど……?

 そんな風に、私達が首を傾げて顔を見合わせていると、突然、外からゴーレムをガンガン叩きまくる、衝撃と音が響いてきた!


 な、何事っ!?

 いきなり急変した事態に、私は風精霊で外の音を集めるが、なにやら大勢が集まって騒いでいる事しか判断できない。


「ちっ!いったい、何が起こったっていうんだい!?」

「わかりませんわ!ですが、外には大勢いるようですし、万が一、大規模な魔法など使われたら……」

「ゴーレムごと、破壊されるかもしれませんね……」

 ううむ、ルアンタ達の言うことも、あり得るかもしれない。

 ここは向こうの意表を突いて、こちらから飛び出しす事で相手を驚かせて、先手を取るというのはどうだろうか?

 そう提案してみると、皆はそのアイデアに賛同してくれた。


「──では、いきますわよ!」

 ゴーレムを操る、ヴェルチェの声にタイミングを合わせ、その巨体が開くと同時に、私達は雄叫びをあげながら外へと躍り出た!


「うおぉぉぉぉぉぉ……おぉ?」

 雄叫びは、やがて困惑の声に変わる。

 なぜなら、外には百人規模の魔族達が、このゴーレムを取り囲んでいたからだ!

『えぇぇぇぇぇっ!?!?』

 思わず、驚きの声をあげる私達!

 しかし、敵の方からも同じような声があがっていて、なにやら戸惑っている様子だった。


「な、なんだ君は!」

「なんだ、チミはってか!」

 魔族の一人に問いかけられ、反射的に返してしまう!

 一瞬、なんとか誤魔化せないかと思ったのだけれど……反応してしまった以上は、それも無理かな。


 とりあえず、飛び道具を警戒して、ざっと魔族達を見回すが……んんっ!?

 私の視界に入ってきたのは、ぐるぐる巻きに縛られた、ビィルトン・ゴーレムの姿だった!

 なんで、アレがここに!?

「ヴェルチェ、アレはどういう事ですか?」

「はい?なんの事ですの……ううん!?」

 ヴェルチェもビィルトン・ゴーレムに気付いたのか、変な声を出した後に、ハッとした表情になった。


「……トイレ製作に気をとられて、適当に離れさせるのを忘れていましたわ」

 おおい!

 それじゃあ、なにか?

 トロイの木馬作戦を始めた、スタート地点からずっと、ビィルトン・ゴーレムは隠れていた私達に、ついてきていたって事?


「……やはり、この偽物は貴様らの小細工か。ずっと女の声で喋りっぱなし(・・・・・・・・・・)だったから(・・・・・)、おかしいとは思ったんだ」

 うん?女の声で?

 それってもしかして……。

 少し嫌な予感がして、私は隠れていたゴーレムの内側に「オーイ」と声をかけてみた。

 すると、離れた所にいるビィルトン・ゴーレムが『オーイ』と声を出す。


 ……し、しまったぁ!

 私も、トイレ云々に気をとられて、ビィルトン・ゴーレムが話してるように見せかける、風精霊魔法を解除するのを忘れてたぁ!

 と、という事は、ゴーレム内での私の声は、全部ビィルトン・ゴーレムを通して、外にだだ漏れだったという事か!?

 は、恥ずかしい……。


「アンタら、二人ともなにやってるんだい……」

 怒るよりも呆れた様子で、デューナが私とヴェルチェを見ている。

 うう……返す言葉もございません。

「ご、ごめんなさい!僕がトイレの事なんて言い出したから……」

「いえ、ルアンタは問題点を指摘しただけですから、悪くはありません!」

「そうですわ!責められるべきは、ワタクシ達のうっかりですもの!」

「いえ、お二人の集中を乱した僕の……」

「内輪揉めはいいから、お前もうちょっと、こっちにも気を向けろや!」

 互いに責任を主張していた私達に、焦れたような魔族から怒鳴り声がぶつけられた!


「敵を前にして、どこ向いてやがる!」

「舐めやがって……お前らが侵入してきた勇者一行っていうなら、ここで旅は終わりだぜ!」

「なんせ、ここには二百人近くの兵士が集まっているんだからなぁ!」


 ほほぅ、二百人。たった(・・・)それだけか(・・・・・)

 それにしても、それだけの兵士が集まっているということは、ここの近くには大きな街でもあるのもしれないな……。

 援軍が来ても面倒だし、こちらの手の内を明かすのもなんだから、派手な魔法は無しでいくか。


「では……まとめてやらかした分の、尻拭いをしてきます」

 私は一言そう告げ、ゴーレムの上から敵がひしめく地上へ、ふわりと舞い降りた。


            ◆


 ──三十分後。

 二百人近くの魔族達を、素手(・・)でぶちのめした私は、ルアンタ達に降りてきても大丈夫だと手を振った。

 ふう、いい運動になったわ。


「……ほとんどが、息があるようだね」

「ええ。ただ、数日は目が覚めないかもしれませんが」

 いっそ、殺してしまった方がてっとり早かったかもしれないが、魔王を倒した暁には魔族とも交流を持ちたいという、ルアンタの意向を汲んだためだ。

「……ありがとうございます、先生」

 私の意図を察したルアンタが、にっこりと微笑みかけてくる。

 んふふ、その笑顔が報酬さぁ。


「それで、これからどうする?」

「そうですね……」

 『トロイの木馬』作戦が失敗した以上、何か別の手は……。

 キョロキョロと辺りを見回し、ビィルトン・ゴーレムがボーッと突っ立ってるのを見つけた時に、ピンときた。


「うん、その辺の兵士から装備を奪って変装し、ビィルトンの部下の(・・・・・・・・・)振りをして(・・・・・)、魔王城に正面から乗り込むというのは、どうでしょう?」

「んー……、変に忍び込むよりは、入りやすそうか」

「そうですわね。兵士と言っても装備もバラバラですし、変装してもバレにくいとは思いますわ」

 何より、ビィルトン・ゴーレムをもう一度、役に立たせる事ができる。

 これで、私達のしくじりを、ちょっとでも取り返せるというものよ。


 そうして私達は、適当に合いそうな敵の武装を奪って身を包み、巨大ゴーレムを牽引していた魔界馬に鞍をのせて、その背に跨がる。

 ついでに、倒れている魔族連中をヴェルチェの土精霊魔法で作った、ドーム状の土饅頭で隠して、偽装もバッチリだ。

 ちなみに、解除してまた作るのが面倒だから、ビィルトン・ゴーレムはそのまま連れていく。

 道中、魔族の部隊なんかと出くわす可能性もあるし、その時に誤魔化し易そうだからである。


「では、出発しましょう」

 跨がる魔界馬を操って、私達は動き出す。

「……しかし、当初の予定とは大幅に違ってきたねぇ」

「まぁ、往々にしてそういう物ですよ。その時に合わせて、臨機応変に対応するしかありません」

「……臨機応変というより、行き当たりばったりといった方が、合っている気もいたしますわ」

「はは……」

 苦笑するルアンタと、私も同じような気持ちだが、ようは結果に繋がればいいのである。

 案外、今の状況の方が魔王城に侵入した時に、動きやすいかもしれないかもしれないしね。


 そんな風に、無理矢理な感じで利点を見つけながら、私達は魔王へと向かうのだった。

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