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謀殺されてTS転生した魔王の息子が、勇者の師匠になる話  作者: 善信
第八章 魔界潜入作戦
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10 秘められた悪意

「んなっ!?」

 驚きの声をあげる私達の眼前で、宝玉から噴き出した漆黒の魔力が、魔将軍達の体に覆い被さっていった!


 やがてそれは、奴等の全身を包み込み、鎧のような形へと固定されていく。

 だけど、あの魔力……そして、あのデザインは、間違いない!

 私に、敗北の苦味を知らしめた、あの忌まわしいオルブルの『奈落装束(アビス・フォーム)』の流れを組む物だ!


「ククク、驚きのあまり声も無いようだな」

 敗北のトラウマが沸き上がる私に、『奈落装束』らしき物を纏った魔将軍達は、まるで見せびらかすようにして、クルリと回ったり、ポーズを決めたりしている。

 くっ……考えてみれば、私だってルアンタに『勇者装束(ブレイブ・フォーム)』を、作ったりしてあげていたのだ。

 似たような発想をオルブルがやっていたとしても、おかしくはない、か。


「これこそ、オルブル様より賜った、最後の魔将軍への特別な武装……」

「その名も、『量産型・奈落装束(アビス・フォーム)』!」

 あ、意外とまんまのネーミングだった。

 それに、一見すると『奈落装束』によく似てはいるけど、落ち着いて観察してみればだいぶ簡素化されていて、いかにも『量産型』といった感じである。


 そういえば、『戦乙女(ヴァルキュリア)装束(・フォーム)』の元になった、異世界の『特撮ヒーロー』とやらにも、敵として大量に現れる、劣化ヒーロースタイルの量産型スーツとかあったなぁ。

 だいたいが、主人公の戦闘スーツより能力は落ちるタイプだったし、おそらくオルブルもそれを参考にしているだろうから、本物の『奈落装束』には及ばないと思う。


「量産型とおっしゃるくらいですから、こけおどしの可能性もありますわね」

 まるで私の気持ちを代弁したように、大量の武器や防具を扱う、ドワーフの立場からポツリと感想を漏らすヴェルチェ。

 そんな彼女に、魔将軍達が噛みついた!


「舐めるなよ、貧乳!」

「オルブル様が纏う本物に比べれば、付属する能力は、確かに少ない……だけど、既存の武装など比べ物にならないわ!」

「しかも、外見的に統一されたデザインは、一度身に付けるば誰が誰だか、わかるまい!」

 さりげなくヴェルチェをディスりつつ、高笑いしながら、魔将軍達はシャッフルしてみせる!

 けど、体格差までは変わらないから、端から見て丸わかりだし、アルビスに至っては『量産型・奈落装束』の上に白いローブのまんまだから、間違えようがない。


 浮かれてるのか、素なのかはわからないが、若干アホっぽい魔将軍達を前に、私もようやく冷静さを取り戻す。

 そして、ふとある事に気付いた。

 ……こいつらの装備といい、三人揃って行動している事といい、万が一の遭遇戦に備えていたにしては、準備が入念過ぎないだろうか?

 まるで、別の狙いがあったかのような……まさか!?


「貴方達……もしや、オーガンを暗殺しよう(・・・・・・・・・・)としていたんですか(・・・・・・・・・)?」

 突然飛び出した、突拍子もない私の言葉に、魔将軍はおろかルアンタ達までギョッとした表情を浮かべた!

 しかし、魔将軍が揃って動いている件や、姿を隠せる『量産型・奈落装束』などの武装といった状況が、その疑惑を加速させている。

 そんな私の問い掛けに、奴等は……。


「さ、さぁ~……なんの事ですかね?」

 あからさまに目線をそらし、下手くそな口笛まで吹くという、バレバレを通り越して鉄板ともいえる誤魔化し方で、取り繕おうとししていた。

 それで、はぐらかしているつもりか!


 もう答えを言わなくても、態度がすべてを物語っている魔将軍達に、思わずため息が漏れてしまう。

「まぁ、それが命令なのか独断なのかは知りませんが、えらく殺伐としていますね、今の魔王軍は」

 正直な感想だが、それほどオルブルとオーガンの確執が大きいのだろうか?……大きいんだろうな。

 現オルブルは、私を配下に欲しがったりしていたし、オーガンは私を元のオルブルに戻そうとしていたもんなぁ。

 だけど、魔王軍内部でイザコザがあるのなら、そこに付け入る隙もありそうだ。


「……チッ!」

 どうやら、オーガン暗殺の疑惑を払拭できないと理解したのか、魔将軍達は舌打ちをした後に、私そっちのけで相談し始めた。


「知られたからには、消すしかあるまい」

「うむ。元より、オーガンとの密約の内容を聞き出したら、始末する予定だったのだからな」

「奴が何を企んでいようと、協力者がいなくなれば同じことよ」

 話が纏まったのか、魔将軍達はこちらに振り返ると、再び戦闘の意思を見せる!


「待たせたな!やはり貴様らは、ここで死ぬのだ!」

「私の必殺、『無限飛刀』で切り刻んであげるわ!」

「ククク……そして、この『死者を統べる者(アンデッドマスター)』ビィルトン様の、『今週のびっくりどっきりゾンビ』の恐ろしさを思い知るがいい!」

「『今週のびっくりどっきり……』なんて?」

 思わず、聞き返してしまった。

 いや、アルビスの『無限飛刀』とやらはともかく、ビィルトンのはあのアンデッドの集合体を指しているんだよね?

 それで、なんなの、そのネーミングは?

 何の何が何になったら、そんな命名になるの?


「最後の魔将軍として、残った我々の姿からからインスピレーションを受けたという、オルブル様が自ら名付けてくださった『今週のびっくりどっきりゾンビ』を、愚弄するとは許さん!」

 生き残った三人の魔将軍を見て……か。

 言われてみれば、何となく異世界の書物にあった「おしおきだべ~」とか言われながら、任務失敗の罰を受ける小悪党的な雰囲気を、こいつらからは感じなくもない。


 まぁ、そんな愉快な感想はさておいて。

 奴等がやる気だというなら、こちらも全力で反撃しなければなるまい。

 むしろ、この一月で鍛えた力を試すのに、いい機会かもしれないしね。

 そんな私の考えと同意見だったのか、皆もすでにやる気満々で、戦闘体勢に入っていた。


「あのグロテスクなデカブツは、ワタクシが始末いたしますわ」

 ヴェルチェが、巨大なアンデッドモンスターを見上げながら、小さな笑みを浮かべる。


「それじゃあ、アタシは力自慢っぽい魔将軍(ガルア)……だったかな?にしよう。エリクシアが負けた、オルブルの仮想敵としては、手ごろそうだ」

 ガルアに向かって、デューナはかかってこいといった風に、クイクイと手招きしてみせた。


「では、僕はあのアンデッドを操っている奴を……」

「いえ……ルアンタは、あのアルビスの相手しなさい」

「え?」

 あえて敵を指名する私に、ルアンタは意外そうな声を漏らした。


アルビス(アレ)の能力は、その名称から複数の剣を自在に操るような能力なのでしょう。ならば、貴方の修行の完成度を試すには、ちょうどいいと思われます」

「……っ!はいっ!」

 修行の成果を見るという私の言葉に、ルアンタは気合いの入った声で返事をする!

 他方向から無数に襲い来る敵に対し、的確に対応できるか……。

 この仮の条件を危なげなくクリアできれば、万が一魔界(ここ)で人間の国の王都であったような、大量モンスターの群れに襲われても対処できるだろう。

 なにより、敵の紅一点には、うちの紅一点(男の子だが)をぶつけるんだよ!ってな感じだ。


 そうして、各々が相手を見繕ったので、残るビィルトンが必然的に私の相手となる。

 しかし、アンデッドの生成や合成、そしてそれをを操るような能力ということは、量産型の『奈落装束』を着けていても、大した事は無さそうだ。

 たぶん、私の新しい『切り札』の出番はないだろう。


『いくぞ!』


 申し合わせたように、互いの陣営から同じ台詞が沸き上がる!

 同時に、複数の戦士達が自分の獲物に狙いを定め、襲いかかる猛獣のように向かっていった!

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