10 秘められた悪意
「んなっ!?」
驚きの声をあげる私達の眼前で、宝玉から噴き出した漆黒の魔力が、魔将軍達の体に覆い被さっていった!
やがてそれは、奴等の全身を包み込み、鎧のような形へと固定されていく。
だけど、あの魔力……そして、あのデザインは、間違いない!
私に、敗北の苦味を知らしめた、あの忌まわしいオルブルの『奈落装束』の流れを組む物だ!
「ククク、驚きのあまり声も無いようだな」
敗北のトラウマが沸き上がる私に、『奈落装束』らしき物を纏った魔将軍達は、まるで見せびらかすようにして、クルリと回ったり、ポーズを決めたりしている。
くっ……考えてみれば、私だってルアンタに『勇者装束』を、作ったりしてあげていたのだ。
似たような発想をオルブルがやっていたとしても、おかしくはない、か。
「これこそ、オルブル様より賜った、最後の魔将軍への特別な武装……」
「その名も、『量産型・奈落装束』!」
あ、意外とまんまのネーミングだった。
それに、一見すると『奈落装束』によく似てはいるけど、落ち着いて観察してみればだいぶ簡素化されていて、いかにも『量産型』といった感じである。
そういえば、『戦乙女装束』の元になった、異世界の『特撮ヒーロー』とやらにも、敵として大量に現れる、劣化ヒーロースタイルの量産型スーツとかあったなぁ。
だいたいが、主人公の戦闘スーツより能力は落ちるタイプだったし、おそらくオルブルもそれを参考にしているだろうから、本物の『奈落装束』には及ばないと思う。
「量産型とおっしゃるくらいですから、こけおどしの可能性もありますわね」
まるで私の気持ちを代弁したように、大量の武器や防具を扱う、ドワーフの立場からポツリと感想を漏らすヴェルチェ。
そんな彼女に、魔将軍達が噛みついた!
「舐めるなよ、貧乳!」
「オルブル様が纏う本物に比べれば、付属する能力は、確かに少ない……だけど、既存の武装など比べ物にならないわ!」
「しかも、外見的に統一されたデザインは、一度身に付けるば誰が誰だか、わかるまい!」
さりげなくヴェルチェをディスりつつ、高笑いしながら、魔将軍達はシャッフルしてみせる!
けど、体格差までは変わらないから、端から見て丸わかりだし、アルビスに至っては『量産型・奈落装束』の上に白いローブのまんまだから、間違えようがない。
浮かれてるのか、素なのかはわからないが、若干アホっぽい魔将軍達を前に、私もようやく冷静さを取り戻す。
そして、ふとある事に気付いた。
……こいつらの装備といい、三人揃って行動している事といい、万が一の遭遇戦に備えていたにしては、準備が入念過ぎないだろうか?
まるで、別の狙いがあったかのような……まさか!?
「貴方達……もしや、オーガンを暗殺しようとしていたんですか?」
突然飛び出した、突拍子もない私の言葉に、魔将軍はおろかルアンタ達までギョッとした表情を浮かべた!
しかし、魔将軍が揃って動いている件や、姿を隠せる『量産型・奈落装束』などの武装といった状況が、その疑惑を加速させている。
そんな私の問い掛けに、奴等は……。
「さ、さぁ~……なんの事ですかね?」
あからさまに目線をそらし、下手くそな口笛まで吹くという、バレバレを通り越して鉄板ともいえる誤魔化し方で、取り繕おうとししていた。
それで、はぐらかしているつもりか!
もう答えを言わなくても、態度がすべてを物語っている魔将軍達に、思わずため息が漏れてしまう。
「まぁ、それが命令なのか独断なのかは知りませんが、えらく殺伐としていますね、今の魔王軍は」
正直な感想だが、それほどオルブルとオーガンの確執が大きいのだろうか?……大きいんだろうな。
現オルブルは、私を配下に欲しがったりしていたし、オーガンは私を元のオルブルに戻そうとしていたもんなぁ。
だけど、魔王軍内部でイザコザがあるのなら、そこに付け入る隙もありそうだ。
「……チッ!」
どうやら、オーガン暗殺の疑惑を払拭できないと理解したのか、魔将軍達は舌打ちをした後に、私そっちのけで相談し始めた。
「知られたからには、消すしかあるまい」
「うむ。元より、オーガンとの密約の内容を聞き出したら、始末する予定だったのだからな」
「奴が何を企んでいようと、協力者がいなくなれば同じことよ」
話が纏まったのか、魔将軍達はこちらに振り返ると、再び戦闘の意思を見せる!
「待たせたな!やはり貴様らは、ここで死ぬのだ!」
「私の必殺、『無限飛刀』で切り刻んであげるわ!」
「ククク……そして、この『死者を統べる者』ビィルトン様の、『今週のびっくりどっきりゾンビ』の恐ろしさを思い知るがいい!」
「『今週のびっくりどっきり……』なんて?」
思わず、聞き返してしまった。
いや、アルビスの『無限飛刀』とやらはともかく、ビィルトンのはあのアンデッドの集合体を指しているんだよね?
それで、なんなの、そのネーミングは?
何の何が何になったら、そんな命名になるの?
「最後の魔将軍として、残った我々の姿からからインスピレーションを受けたという、オルブル様が自ら名付けてくださった『今週のびっくりどっきりゾンビ』を、愚弄するとは許さん!」
生き残った三人の魔将軍を見て……か。
言われてみれば、何となく異世界の書物にあった「おしおきだべ~」とか言われながら、任務失敗の罰を受ける小悪党的な雰囲気を、こいつらからは感じなくもない。
まぁ、そんな愉快な感想はさておいて。
奴等がやる気だというなら、こちらも全力で反撃しなければなるまい。
むしろ、この一月で鍛えた力を試すのに、いい機会かもしれないしね。
そんな私の考えと同意見だったのか、皆もすでにやる気満々で、戦闘体勢に入っていた。
「あのグロテスクなデカブツは、ワタクシが始末いたしますわ」
ヴェルチェが、巨大なアンデッドモンスターを見上げながら、小さな笑みを浮かべる。
「それじゃあ、アタシは力自慢っぽい魔将軍……だったかな?にしよう。エリクシアが負けた、オルブルの仮想敵としては、手ごろそうだ」
ガルアに向かって、デューナはかかってこいといった風に、クイクイと手招きしてみせた。
「では、僕はあのアンデッドを操っている奴を……」
「いえ……ルアンタは、あのアルビスの相手しなさい」
「え?」
あえて敵を指名する私に、ルアンタは意外そうな声を漏らした。
「アルビスの能力は、その名称から複数の剣を自在に操るような能力なのでしょう。ならば、貴方の修行の完成度を試すには、ちょうどいいと思われます」
「……っ!はいっ!」
修行の成果を見るという私の言葉に、ルアンタは気合いの入った声で返事をする!
他方向から無数に襲い来る敵に対し、的確に対応できるか……。
この仮の条件を危なげなくクリアできれば、万が一魔界で人間の国の王都であったような、大量モンスターの群れに襲われても対処できるだろう。
なにより、敵の紅一点には、うちの紅一点(男の子だが)をぶつけるんだよ!ってな感じだ。
そうして、各々が相手を見繕ったので、残るビィルトンが必然的に私の相手となる。
しかし、アンデッドの生成や合成、そしてそれをを操るような能力ということは、量産型の『奈落装束』を着けていても、大した事は無さそうだ。
たぶん、私の新しい『切り札』の出番はないだろう。
『いくぞ!』
申し合わせたように、互いの陣営から同じ台詞が沸き上がる!
同時に、複数の戦士達が自分の獲物に狙いを定め、襲いかかる猛獣のように向かっていった!




